煉獄の門
煉獄の門にて
「、、お願い、お願いします」
懇願する声が、重く閉ざされた鉄の門に吸い込まれる。門番の和勇牛は、冷たい眼差しで哀願する者を見下ろした。
「駄目です、私が怒られてしまいます」
その言葉には、一切の情け容赦がなかった。と、その時、背後の牢獄から低い唸り声が響いた。
「、ん、、あ?ここは何処だ」
声の主は、世一と名乗った。彼は、戸惑いの表情を浮かべながら、ゆっくりと体を起こした。
「気づいたか、極悪の者よ」
和勇牛は、世一を睨みつけながら言った。
「あ?誰だお前」
世一は、和勇牛を胡乱な目で見た。
「これから地獄の業火に焼かれる者に名乗る名など無い」
和勇牛は、世一の問いに答えず、冷たく言い放った。
「あ?お前じゃねーよ、そこに隠れてる可愛いねーちゃんに聞いてんだよ」
世一は、和勇牛の背後に視線を送り、物陰に隠れている人影に向かって話しかけた。
「、、っ」
物陰から、息を呑む声が漏れた。
「き、貴様、誰に向かって話をしている!」
和勇牛は、世一の不遜な態度に激昂した。
「ええぃ、裁きを言い渡すまでも無い!我がこの場で首をはねてくれよう!」
和勇牛は、手に持った巨大な斧を振り上げた。
「あ?誰に口きいてんだテメー」
世一は、和勇牛を挑発するように言った。
「首をハネるだと?やってみろよ」
その時、物陰から悲鳴にも似た叫び声が上がった。
「やめて下さい!」
声の主は、美しい女だった。彼女は、和勇牛の前に立ち塞がり、世一を庇うように両手を広げた。
「ひ、姫様」
和勇牛は、女の姿を見て、慌てて斧を下げた。
「和勇牛よ、貴方は下がっていなさい」
姫と呼ばれた女は、和勇牛に落ち着いた口調で言った。
「私はこの御方と話がしたいのです」
「い、いやそういうわけには」
和勇牛は、戸惑いを隠せない様子だった。
「下がりなさい!」
姫は、強い口調で和勇牛に命じた。
「!ははっ」
和勇牛は、姫の迫力に圧倒され、すごすごと後ずさった。
姫は、世一に近づき、その顔をじっと見つめた。その瞳には、好奇心と、ほんの少しの恐怖が入り混じっていた。