善良に魅了された災厄
俺はしがない冒険者ドム。
俺の親父とお袋は善良が服を着て歩いているような夫婦だった。
困った人がいたら助け。近所からは頼られていた。
いや、舐められていた。
「あんたドムだろう?何でも治すポーション分けてくれよ。親が病気なんだ。金は俺が大人になったら払うからよ」
「分割はしていない。自分用しか手持ちにない。冒険者ギルドで買え」
「ケチ!買えないから探したのに、守銭奴!」
シュン!シュン!
石を投げやがった。だから、最低限の正当防衛だけはやる。
ドン!
「ウワ~、ウワ~ン、ウワ~ン!」
軽く蹴ったら尻餅をついて泣き出しやがった。
こいつが詐欺師か本当に親が病気なのか分からない。でも答えは変わらない。
「おい、おい、親の命がかかっているのに大人げないな」
「男気をみせられないのかね」
「なら、あんた方が行くか?場所を教えるよ」
子供を庇った大人達は答えずにプイィと踵を返してどこかに行った。
今日、全く知らない子供からタメ口を叩かれ石を投げられた。
そんな俺は冒険者C級、薬草探しのドムだ。
そろそろこの地での商売は出来なくなったな。
負の感情が多くなる。
そこで、エルフ屋による。
☆エルフ屋
「らっしゃい。らっしゃい。馬鈴薯安いよーーー、お、ドムさん」
エルフ、普通は森の中に住んでいる。
長寿種だ。
エルフは環境に左右されやすい。
鬱蒼とした森では性格も陰湿になる。
蝶蝶が舞っている森では、愉快な仲間達になる。
街のエルフは、すぐに人に左右される。
街に降りるエルフは人当たりの良い商人になるのが生き残れるコツらしい。
この人はエタリーゲル・フォン・フリゲートさんだ。
八百屋さんだ。
「エタさん。そろそろダメみたいだ。女王陛下に連絡つけてくれないか?」
「あいよー、どこに引っ越すんだい?」
「さあ、エルフ屋があるところさ」
「この先の港町に、魚屋のエルフがいるから、そこ行きなよ。連絡しておくぜ」
「有難う」
「今、連絡するね。お~い、リーザ、通信水晶を持って来て」
「あいよー」
「どうも、すまない」
王家秘密の魔法レベルが八百屋の店先でやられると、何とも言えない気持になる。
俺は引っ越しをした。
冒険者ギルドには、エタさんが引っ越しをしてから通報してくれる仕組みだ。
「おい、旦那様がポーションをお求めだ。ここに来れば買えるのではないか?」
「そ、それが、冒険者がいなくなって・・・在庫は普通のランクしかありません」
「そんな」
☆港町
「らっしゃい。鯖がおすすめだよ。パンに挟んで食べるとおいしいよー」
「どうも、ドムです」
「待っていたよ。鯖バーガー食ってく?」
「是非、もらおう」
親父とお袋は善良だった。
職人だった。
『ハンスさん。車輪が壊れちまって修理してくれないか?』
『あ、いいよ』
『金なくてよ。後で払うわ』
近所の人は材料費すら払わない。
『子供が熱病だ。大変だ、お宅の置き薬を貸してくれよ。後で返すわ』
『いいわ。大変だわ。持って行きなさい』
薬箱ごと持っていった女将は返そうともしない。
俺が病気になったとき、お袋が返すように懇願した。
『せめて、お金だけでも返して下さい』
『あのさ。うちも苦しいんだよ』
ある日、町の皆が使う入会の森で汚い子供が倒れていた。全身泥だらけだ。
今にも死にそうだった。
『うわ。汚い』
『ほっときな。森の栄養分になるよ』
『あら、大変』
性懲りも無く親は助けた。相手は子供だ。その時だけは親を誇りに思った。
『ぬるま湯を持って来て』
『とにかく栄養だ』
親父は道具すら売ったな。
しかし、汚れを落としたら分かった。
エルフの子だ。
耳がとんがってる。まるで彫刻のように綺麗で、笑うと周りがパアと明るくなる子だった。
名前をクラデス・フォル・スリンダー
クラと呼んだ。
周りの人達は汚い子供と思っていたが、綺麗なエルフの子だ。
近所の奴らは我先に養子と欲しがった。
親はさすがに断った。
『親御様が来るまでうちで預かりますから、迎えが来ると言っています』
そして、遂に
・・・・・・
☆冒険者ギルド
「どうも、C級薬草探しのドムと申します」
「「「!!!」」」
「今、ギルマスを呼んできます!」
ただ、登録をしに来ただけだ。
これから、俺の仕事が始まる。
まず。心を綺麗にする。
妬み。嫉妬は厳禁だ。
家にこもるのがいいが、それだと陰湿になりかねない。
食事をするときは、
「女神様、食材になられた動植物の皆様、有難くお命をちょうだいいたいます」
手を合わせ感謝する。
姿勢を正し、目は半目だ。
俺の身に起きたことは全て良い方に解釈する。
それが、エルフの女王陛下に会う条件だ。
そして、ポーションの対価を用意する。
女王陛下はあのときの子供のままだ。
子供が喜びそうな。お、あの双六いいかも。
あの絵本いいかも。
と用意する。
対価を用意したら周りの森で一月ほど生活をする。
これも、狩りをするときは報恩感謝を忘れずに、命を頂く・・・・
そして、そろそろ頃合いか。心がまるで剣聖のように静まった。
荷物を背負って歩く歩く・・・・・
・・・・・・
クラデス・フォル・スリンダーはすぐに、強引に近所の女将の養子になった。
『うちは食べ物屋だ。任せな』
『おばさん。やめて!』
『お兄ちゃん!おじ様、おば様!』
親のいないときに強引に連れて行かれ、親が抗議したら、クラは金貨に変わっていた。
『フン、ご領主様の養子になったのよ』
『そんな』
『領主様のところに行くわよ』
しかし、町の人達に止められた。
町の旦那衆に金貨のお裾分けをしたみたいだ。
しかし、
・・・・・・・・
数ヶ月かけてクラの元についた。
巨木の群だ。
このエルフの里には結界が張ってある。
善良な人しか入れない。
「ドム様、お待ちしておりました!」
「女王陛下がお待ちです」
「お兄ちゃん!来てくれたのね」
「ああ、約束だからな。オモチャと絵本買ってきたぞ」
「うわーい」
この里で数ヶ月ほど過ごす。
オモチャで一緒に遊び。絵本を読んであげたりする。
このエルフの里は選ばれたエルフしか入れない。
エルフは環境に左右される。
鬱蒼とした森では性格も陰湿になる。
蝶蝶が舞っている森では、愉快な仲間達になる。
ここは深山幽谷で、心は静まり。俗があってはいけないのだ。
それだけクラの力は危険なのだ。
でないと・・・・
☆
クラが領主様の屋敷にいってからすぐに変化が現れた。
謎の疫病が蔓延したのだ。
ポーションも何も効かない。
女将を筆頭に近所の者たちが次々に苦しみながら死んでいった。
しかし、
我が家族だけは無事だ。
疑心暗鬼の声が広がる。
『あの家は呪いをまき散らしたんだ!』
『殺して吊せ!』
遂に我家は生き残りに取り囲まれた。
その時、疫病がやってきた。
人型の真っ黒だ。黒い霧で囲まれている何かがこちらに向かっている。
魔法か?周りに馬車が浮かんでいる。
暴徒たちは次々に黒い霧に包まれて死んでいった。
不思議と怖くない。
すぐに分かった。
クラだ。
『クラ!』
『クラちゃん』
『クラか!』
『お兄ちゃん!おじ様、おば様!』
すると黒い霧は晴れ。クラが現れた。
『逃げてきた!』
『ああ、ああ』
『『グスン、グスン』』
それから、王国軍がやってきたが、真相不明で調査は打ち切りになった。
クラデスとはエルフの古語で災厄だった。
彼女は負の感情がマックスになると疫病の元になり。
他種族を殲滅してきたエルフの最終兵器だった。
エルフの里から好奇心に駆られて人の里に遊びに来たのだった。
しばらくすると、エルフの古老達が迎えに来た。
そこで、取り決めをした。
彼女と会いポーションを売ってもらう権利だ。
正直、対価はジャガイモでもいい。
しかし、せっかく渡すのならクラが喜ぶ方がいいだろう。
「もう、いっちゃうの。お兄ちゃん」
「申し訳ない。俺、人族だから」
彼女にとっては2,3日の出来事だ。
シュン
「また、来るって」
「本当?」
俺は二月かけ狩りや採集をしながら山を下りる。
山から降りると徐々に俗に戻ってくる。
「はい、特級ポーション10本だ。残りは俺が他に渡す」
「おおーー」
これで、買い取ってもらって金貨100枚(一千万円)だ。末端価格は300枚と言うところか?
残りのポーションはエルフ屋に分ける。
「毎度、仲間に分けるさ。お金渡すぜ」
「いや、いらない。女王陛下からの贈り物だぜ」
「いや、黙っていれば分からないぜ」
「女王陛下との約束は絶対だ」
「え~、それじゃ気持が晴れないぜ。俺でも行けない所だぜ」
「なら、鯖バーガーをもらおう」
「毎度、毎日きなよ-」
☆☆☆冒険者ギルド
あれから数ヶ月経過した。
俺はまた心を綺麗にしなければならない時期が来た。
「あ~、おっさん冒険者、年に半年、山を歩いて金貨100枚なんて、うらやましいなーーー」
「やめなよ。ジミー」
若い冒険者に絡まれた。
「ほお、そうか。なら、場所を教えよう。心が綺麗な人しかいけない」
「ウッソー、おっさんが心の綺麗な人?俺なら楽勝よ」
その冒険者はエルフの山に行き。途中で魔獣に殺された。
あの里は来る人を道中で選別する。
フウ、何故、妬む?
冒険者死亡速報を見て思わず口に出た。
「その嫉妬を向上心に変えて技能を磨けば良かったのに」
あ、思わず口に出た。俺もまだまだのようだ。
最後までお読み頂き有難うございました。