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ACT.0  作者: 深月織
4/10

<3>





 ……彼を待ってるの。約束は9時だったわ。


 今10時半だけど、彼はいつも少し遅れてくるから、平気。もう少ししたらきっと来るわ。いつものように、ちょっとすまなそうに笑って、「ごめん、遅れた」…って。


 だって、今日はバレンタインだもの。


 片思いをしている女の子が、たくさんの思いを込めて誰にも遠慮せず、告白できる日。


 恋人達の日。


 そうか、もう一年なんだわ。彼と私が付き合い始めて。

 去年のちょうどこの日。わたしが彼に告白した日……。


 付き合ってくださいって、思い切って言ったの。手作りのチョコレートケーキを渡して。

 彼びっくりしたみたいだったけれど、すぐ笑顔になって「有難う。いいよ」って言ってくれたの。わたし、嬉しかった。すごく。もう死んでもいいって、思ったくらい。


 ……友達は、彼のこと何人もの女の子と付き合ってるって、悪く言うけれど、わたしは信じてる。


 彼、わたしが一番好きだって言ってくれた。


 初めてキスして、びっくりして嬉しくて泣いちゃった時も、慌てて謝りながら優しく抱きしめてくれたの。

 わたしには優しくしてくれるもの。


 今年はセーターを編んだわ。半年前から頑張って編んでたのよ。

 喜んでくれるよね。


 それにしても遅いなあ……。


 ……もしかしたら、来る途中で事故か何かに遭ったのかも知れない。

 急に熱が出ちゃったとか。

 どうしよう、家に連絡してみようかな。

 あ、でも電話をかけに行ってる間に、彼が来ちゃったらいけないよね。

 えーん、どうしよう。


 そうだわ、あそこの喫茶店からかけたら、ここも見えるし彼が来たらわかるわよね。

 そうと決まれば行こう。

 信号、早く変わってよぉ。

 青……黄色、赤。

 よし、こっちは青。


 ん。


 わたしが急いで渡ろうとしているのに、なあに、うるさいクラクション。


 車?


 え、なあに、くるま?




 く る  ま ……  ?







 ……彼は何処?

 何処にいるの? わたし、セーターを編んだのよ。渡さなきゃ。何処?


 何処にいるの。



「……いいのぉ、あのコ待ってるんじゃなぁい?」

「いいんだよ、ほっとけば」


 あ……そんなとこにいたの? わたし待ってたのよ。


 ……その女、だあれ?


 どうして、そんな女といるの……?


「可愛いからちょっと付き合っただけだよ。てんで子供でさ、つまんねえの」


 え………?


「ふふっ、かわいそお。でも私にとってはラッキーね、あなたを独り占めできるもの」

「いいぜ毎日独り占めでも。お前なら……」

「よく言うわ、この女ったらし……」


 わたしと、正反対の、綺麗な、髪の、長い、女。すらりと細くて、大人っぽくて……。


 子供…? わたし子供だったの…? だから……。



 やめて!



 彼に触らないでっっ!!



「きゃああああッッ」

「淳子!?」


 死んで、しまえばいい。燃えて何もかも消えてしまえば。

 そのきれいな顔も身体も醜く焼け爛れて。


「いやっ、あつい、いやあああっ、助け…」

「う、うわああっっ」


 わたし、待ってたのに。


 ずっと待ってたのに、裏切ったの?


 ひどい。


 ひどいわ、


 ゆる さ  な  い  ……!!



「やめるんだ!」



 ……だれ?


「そんなことをしても無駄だよ。もっと君が傷つくだけだ……やめるんだ」


 誰なの。邪魔をしないで。


「今なら間に合う。早く戻るんだ」


 戻る? 何処へ……?


「何を呑気に説得なんかしてるんだ。こんなもの、力で戻せばいい」

「ヤシロ……!」


 きゃあああっ、いたい、いや! くるしいやめて、



 ジャ・マ ヲ・ シナイ・ デ ・・・・・!!!





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