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……彼を待ってるの。約束は9時だったわ。
今10時半だけど、彼はいつも少し遅れてくるから、平気。もう少ししたらきっと来るわ。いつものように、ちょっとすまなそうに笑って、「ごめん、遅れた」…って。
だって、今日はバレンタインだもの。
片思いをしている女の子が、たくさんの思いを込めて誰にも遠慮せず、告白できる日。
恋人達の日。
そうか、もう一年なんだわ。彼と私が付き合い始めて。
去年のちょうどこの日。わたしが彼に告白した日……。
付き合ってくださいって、思い切って言ったの。手作りのチョコレートケーキを渡して。
彼びっくりしたみたいだったけれど、すぐ笑顔になって「有難う。いいよ」って言ってくれたの。わたし、嬉しかった。すごく。もう死んでもいいって、思ったくらい。
……友達は、彼のこと何人もの女の子と付き合ってるって、悪く言うけれど、わたしは信じてる。
彼、わたしが一番好きだって言ってくれた。
初めてキスして、びっくりして嬉しくて泣いちゃった時も、慌てて謝りながら優しく抱きしめてくれたの。
わたしには優しくしてくれるもの。
今年はセーターを編んだわ。半年前から頑張って編んでたのよ。
喜んでくれるよね。
それにしても遅いなあ……。
……もしかしたら、来る途中で事故か何かに遭ったのかも知れない。
急に熱が出ちゃったとか。
どうしよう、家に連絡してみようかな。
あ、でも電話をかけに行ってる間に、彼が来ちゃったらいけないよね。
えーん、どうしよう。
そうだわ、あそこの喫茶店からかけたら、ここも見えるし彼が来たらわかるわよね。
そうと決まれば行こう。
信号、早く変わってよぉ。
青……黄色、赤。
よし、こっちは青。
ん。
わたしが急いで渡ろうとしているのに、なあに、うるさいクラクション。
車?
え、なあに、くるま?
く る ま …… ?
……彼は何処?
何処にいるの? わたし、セーターを編んだのよ。渡さなきゃ。何処?
何処にいるの。
「……いいのぉ、あのコ待ってるんじゃなぁい?」
「いいんだよ、ほっとけば」
あ……そんなとこにいたの? わたし待ってたのよ。
……その女、だあれ?
どうして、そんな女といるの……?
「可愛いからちょっと付き合っただけだよ。てんで子供でさ、つまんねえの」
え………?
「ふふっ、かわいそお。でも私にとってはラッキーね、あなたを独り占めできるもの」
「いいぜ毎日独り占めでも。お前なら……」
「よく言うわ、この女ったらし……」
わたしと、正反対の、綺麗な、髪の、長い、女。すらりと細くて、大人っぽくて……。
子供…? わたし子供だったの…? だから……。
やめて!
彼に触らないでっっ!!
「きゃああああッッ」
「淳子!?」
死んで、しまえばいい。燃えて何もかも消えてしまえば。
そのきれいな顔も身体も醜く焼け爛れて。
「いやっ、あつい、いやあああっ、助け…」
「う、うわああっっ」
わたし、待ってたのに。
ずっと待ってたのに、裏切ったの?
ひどい。
ひどいわ、
ゆる さ な い ……!!
「やめるんだ!」
……だれ?
「そんなことをしても無駄だよ。もっと君が傷つくだけだ……やめるんだ」
誰なの。邪魔をしないで。
「今なら間に合う。早く戻るんだ」
戻る? 何処へ……?
「何を呑気に説得なんかしてるんだ。こんなもの、力で戻せばいい」
「ヤシロ……!」
きゃあああっ、いたい、いや! くるしいやめて、
ジャ・マ ヲ・ シナイ・ デ ・・・・・!!!
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