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ACT.0  作者: 深月織
2/10

<1>


 あ。


 あたしは向こうからやって来る二人の人物を見て、そう思った。

 向こうもあたしを見て同じ事を思ったみたい。


 あ。


――それから、何て運が悪いんだ、しまったなぁ、どうしよう。

 やっぱり暇だったからって買い物になんか出掛けるんじゃなかったわ、ちっくしょお。

 と、歩きながら考えて、二人のいる位置までたどり着く。

「織ちゃん……」

「松神……」

 えーと。

「…つまり、そーゆーことなのね?」

 あたしがそう言うと、一拍考えてから佐東君が神妙な顔で頷いた。

「織ちゃん、あの……」

 何か言いかける律ちゃんの言葉を遮って、

「あたし間怠っこしいことキライなの。だから、」

 佐東君の横っ面を張り飛ばし。

 ぽかんとしてる律ちゃんに向き直って、にっこり笑う。それからぺちんと頬を叩いた。

「これでおしまいね。じゃ、また明日」

 まだ呆然としている二人に微笑って手を振って、すたすたと進行方向に歩き出す。

 あ~あ、ふられちゃったぜ。


 薄々そうなんじゃないかな、って思ってはいたの。

 なんとなく。

 あたしって、カンいいからさ。

 ……佐東君から付き合ってって言われたのは、いつだったっけ。


 四月に高校入学して一緒のクラスになったのよね。席が近かったから、わりと話したりしてたんだ。

 それから、親睦のための林間学校で仲良くなって。

 それからそれから、文化祭の準備なんかで、沢山話して、ちょっとイイなって思うようになって。

 それで、文化祭の最終日に付き合おっかって言われて……。

 うんって言ったの。

 あたしも、佐東君のこと「けっこう好き」になってたから。

 うん、いいよ、って、言った。


――隣のクラスの波野律子ちゃんが、佐東君のこと好きなんだって気が付いたのは、その少し後。


 結果を言えば、あたしが悪かったと思う。

 付き合ったのはいいものの、全く彼女してなかったもん、あたし。

 委員会やってる都合で最近忙しかったし、何ていうかなあ……色っぽくなかったの。関係が。全然。二人っきりになるのも少なかった。

 あたしはさばさばしてて、ハッキリものを言うタイプ。

 自分で言うのも何だけど、しっかりしてるし、しすぎてるという説もある。佐東君もそれは分かってたのね。そういう所を、好きになってくれたんだし。

 ……でも、何か違うなと思った。

 あたしも何だかしっくりこなかったの。

 「彼女」ってのが。

 うん、多分、「好き」の方向が、違ったんだ。

 今ならそう思う。

 ともかく過程は分からないんだけど、あたしと“何か違う”ってことになって、佐東くんは気が付いた。そこにいた律ちゃんに。

 あるいは律ちゃんが言っちゃったのかもしれない。


 そんでもって、こうなったと。


 今日――つまり、バレンタインに、用事があるから会えないって聞いた時から、予感はしてたの。

 ああ、たぶんふられちゃうんだろおな、って。

 この間から、律ちゃんの態度もおかしかったし。

 う~~………もっと早くに、言って欲しかったな。

 一応用意したこのチョコレート、どうしろってゆーのよお。

 あたしは手摺から身を離して、コンクリートに座り込んだ。

 バッグの中から、白い包装紙にグリーンのリボンが掛けてある包みを取り出して。

 もう一度、重い溜め息をつく。

 二股かけられたってゆーか、裏切られたとかゆーんだろうな、これって。

 でも、あたし別に悲しくない。怒ってもいない。

 どちらかというと、何で言ってくれなかったんだってゆうのと、それから自分に対して、少し怒ってる。

 ごめんね、律ちゃん。あたしのことで、悲しい思いしたんだよね。

 ごめんね、佐東くん。きっといろいろ悩んだんだろうね。

 あたしが適当だったから。

『ちょっと好きかも』で付き合うなんて軽いことしちゃったから。……こんな風に思うこと自体、本気で彼のこと好きじゃなかったんだよ。

 本気なら、二人のことなじって泣いて、もっと恨んだりするはず。


 今あたしが思ってる事なんて、寂しいな、だもん。

 ………ああああ、こんなのあたしらしくないっっ。

 よしっ! と気合いを入れて、おもむろに包装紙をむしりだした。


 食べちゃえ。

 ぜーんぶ食べてすっきりするんだ。

 明日二人に会った時、スペシャルスマイルで「おはよう」って言うために。

 食べちゃえ食べちゃえ。


 驚異的な速さで一個二個三個とポイポイ口に入れていく。

 さすがおいしーわ、あたしが作ったチョコは。何時でも嫁に行けるわよ。そうね、次に付き合う、あたしがホントに『好き』になる人には、お料理も作ってあげよう。腕を奮うわ、あたし。

 大丈夫。

 ちょっとつまづいただけ。

 まだまだこれから、もっと色んな人に出会うんだから、その中で一番良いのを捕まえるのよ。

 よそ見が出来ないくらい、いい女になって。

 これからよ。


 自己暗示で大分気分も浮上して、チョコも残り二個になったその時、突然誰かの怒鳴り声が耳に飛び込み、あたしは手に取ろうとしていたチョコを落としそうになった。


「だめだっ、ヤシロやめろ!」

「うるさいっ!」


 男二人のそんな声。

 なんだあああ?



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