表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

プロローグ 契約の終わり

「レディ・リリアナ・オブ・クレアモント。国王陛下に代わり、一年間の貴女の協力に感謝する。これが約束の報酬だ。心ばかりだが、私からの謝礼と合わせて受け取ってほしい」


 デスクに滑らされた小切手には、最初に提示された額よりはるかに多い――というか、ひと桁多い金額が記されていた。


「ありがとう……ございます」

「それと、これが婚姻無効の証明書だ。我々の関係が正しく『白い結婚』だったことを、王室付きの医師が保証している」

「……はい」

「以上で契約満了となるが、貴女の方から何か要望はあるか?」


 その事務的な口調にも、私を見下ろす灰青色の瞳にも、昨日までの暖かみは欠片も残っていなかった。

 だから、私もこう答えるしかなかったのだ。


「――ございません」


 結婚指輪を自分で引き抜き、ダニエル様の――いや、ロス辺境伯の執務机にそっと置く。


「私の方こそ、仮初の妻とはいえ、今日までこの上なく良くしていただいたこと、心より御礼申し上げます」


 そう言って、この一年で身につけた優雅なカーテシーを披露すれば、伏せた顔の上でふっと微笑む気配がした。

 

「花も盛りのご令嬢を、こんな田舎の老ぼれに一年間も縛りつけてしまって悪かったね。これからは私のことなど忘れ、王都で幸せになりなさい」

「……っ! 私は……っ!」

「さらば」


 私の言葉を断ち切るように、辺境伯が背を向ける。同時に、計ったようなタイミングで部屋の入口に執事のトビアスが現れた。


「さ、どうぞこちらへ。奥さ……クレアモント様。正門に馬車を待たせております」


 そうまでされれば、もはや抗う術はない。

 片や古代竜の血を引く由緒正しき大貴族。私はといえば、この国で優遇される転生者とはいえ、一介の孤児にすぎないのだ。


 王都へ向かう馬車の中、私は一人、声を殺して啜り泣いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ