異変
ふっふっふ!皆さんロマンはお好きですか?
私は大好きです。
「おーいさっきまでの威勢はどうしたー?」
「うるさい!何こいつめっちゃ強いじゃん!」
「お前が攻撃をミスるからだ」
リトルボアは、突進の後長い隙が生まれる。そのため、しっかり攻撃を見極め、避けた後、攻撃をすれば倒せる。
しかし愛はと言うと、攻撃を真正面から受け止め、カウンターを狙おうとするが、見ての通り、雑魚敵とはいえ、突進はメインウェポン、受け止めた後、カウンターを狙うのは職業レベルが上がりでもしないと無理だ。
「ぐぅ...」
攻撃力を受け止め、衝撃により地面に手をつける愛。そんな愛の前で顔をブルブルと振るった後、助走をつけるリトルボア。この予備動作の後、次の攻撃を繰り出すには、さほど時間は掛からなかった。
また同じ事を繰り返すのか、我が妹ながら頑固だなと思っていた時...
「見えた!」
そう言った後、彼女はリトルボアの攻撃を綺麗に受け止め、宙に浮いたリトルボア切った!
「ブッ!」
そんな、攻撃を喰らったリトルボアが呆気なく、体が砕けちった。
「ふーふー」
息を切らしながら、ありもしない汗を拭く愛に俺はただただ、驚いた。
確かに筋は良かった。戦いが長引けば長引く程、愛の戦いぶりは良くなっていた。けど、不可能を可能にするとまでは、考えてもいなかった。
「ふふん。どうよ私の戦いぶりは!」
「いいんじゃね?」
「はぁ何それ!」
「てか、見えたって言ってたけど何が見えてんだお前?」
「え?えーと...こー言うやつ」
手で円のような物を描く愛。その後も、彼女は説明が出来ないのか、一生懸命に説明をする。
「...うむ。そう言うことか」
「わかったの!」
「いや?全然。理解しようとするのが苦痛でしかないから話を終わらせようとした」
「何それー酷くない?どうせもうわかってるんでしょ!」
「いや、本当にわからない。俺の体にもあるのか」
「うん」
「なるほどな」
となると、わからん。こいつは何が見えてんだ?初心者をサポートするシステムでも追加したのだろうか...
「嘘は程々にしとけよ」
「いやついてないから!」
「まぁ聞いた感じから推測すると、弱点が見えてるんじゃないのか?」
「え?じゃあそこを攻撃すればあんたも倒せるの?」
「いや?でももう少し強くなれば、1ダメージぐらいは与えられると思うよ」
「おおー。なんかロマンがあるね!」
「うーんわからなくもない」
鍵をしまう愛を確認した後、またも歩みを続ける。愛はそんな俺の背中を確認したのか、「待ってよー」と言いながら追いかける。
それからは不思議なくらい会話が弾んだ物だ。「学校はどうだー」とか「お前の武器何?」とか、まぁ、ごましかしたけど....けれどそんな他愛のない会話は久しぶりに感じる家族の温もりのような気がした。
「じゃあ基礎は教えたし、今日はここまでにするか」
「そうだね。なんか色々新しい体験で疲れたよ」
そう言いながら彼女はメニュー画面を開く。そんな愛にこう口を開けた。
「このまま行けば、明日には...どうした?」
顔が真っ青と言う例えがここまで合う状況はないと感じるほど、彼女の顔色は悪く見えた。そして俺の質問に口をこれでもかと震わせながら開いた。
「ろぐあうと....ミツカラナイ」
「はぁ?メニュー画面だぞ」
そう聞いた俺は少々焦りを見せたものの、どうせ操作を間違えているのだろうと思うメニュー画面を開く。
「あれ?」
思わず、愛の方向を見る。しかし帰ってきたの「でしょ?」と言ってるかのような表情であった。むかつく...
「どういうことだ...」
「え〜とVRに問題が起きたとか?」
「だとしたら二人共ってのはおかしいだろ?それにログアウト出来なくなる不具合があるなんて聞いたことがない...」
「じゃあネット?」
「それが原因なら、意識が現実に戻った後、トワゾから説明と共に自動的にログアウトする」
「えーと、えーと」
原因を解明しようと考える愛を尻目に、GMコールを行う。しかしすぐに繋がる筈のGMコールですら、数分待っても繋がらなかった。
...だとすると、トワゾのサーバーそれかトワゾそのものに問題が起きたことになる。ただ、トワゾはこれまでにも、何回か問題が起きたがどれも迅速に対応してきた。
そんな運営がログアウト出来ない問題を検出したら、直ぐにでもプレイヤーを知らせて、メンテナンスを行う筈だ。
けど、知らせは来ていない。それに加えてGMコールも応答しない。どうなっているんだ?
「取り敢えず...もう少し遊ぶか」
「え!?」
「遊んでればその内自動的にログアウトさせてくれるだろう」
「う、うん...」
異常事態である事には変わりはない。けれど、手段がないのだから運営の対応に任せるしかない。
「えーと...どこに行くの?」
「うーん...もう暗いし、どっか景色の良いところに行くか」
「う、うん」
愛とトワゾを始めてから数時間が経ち、辺りはすっかり暗くなった。それは現実でも変わらない。
ただ今は問題が改善されるまで、安全な場所に向かうことが得策だ。この時間帯は、仕事帰りの社会人や部活を終えたプレイヤーがログインする時間だし、それに加えてアプデによりプレイヤーの数はいつもよりの多い。
そして最も重要なのは...この時間帯が最もプレイヤーが殺される時間だということだ。それも...おなじプレイヤーによってだ。
「とにかく早く安全な場所に向かうぞ」
「わかった!!」
ご清覧いただきありがとうございました!
皆様に良い一日を祈っております。