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間抜けな顔と共に声を出す妹。
しかし兄はそんな狼狽する妹を気にすることなく、催促するように自分のベット軽く叩く。
「いやいや、本当にここで大丈夫だから!それにベット汚いし!」
「教えて欲しいと言ったのはどこのどいつだ?」
「っ」
少しキレ気味に言う兄に妹は声にならない声を出す。
けれどそんな事を言われても尚、彼女は兄のベットに行く素振りを見せない。
「はぁ」
そんな光景にため息を吐きながら、ベットから立ち上がり、床に座っている妹の前に行き立ち止まる。
そしてすぐに腰を落として、愛の体に触れ...
「ちょ、ちょっと!何やってるのよ!?」
「お前が意地を張るからだろう?」
「だからって...」
軽々と彼女を抱き抱える兄、人はこれをお姫様抱っこと言う。
顔を真っ赤にして兄から逃れようとする妹、しかしそんな兄は嬉しそうに笑みを浮かべていた。そうである。この男、久しぶりに妹と話すことができて、テンションマックス状態なのである。先日までの憂鬱がまるで嘘のように…
「あんた..足!」
「これくらいどうって事ない大丈夫だ」
そして、この妹も例に漏れず、ハイテンションである。
兄がテンションマックス状態のせいで気付かれていないが、あまりの嬉しさに彼女は笑みを隠すので精一杯なのである。そのせいか大して暴れることもなく彼の思いのままに、お姫様抱っこを承認している。
が、あくまで喧嘩中の二人はそんな事を悟られぬよう、必死に隠すのである。
そう!この二人は、友人達がため息をつくほどの無自覚のブラコン、シスコン兄妹である。そして喧嘩もまた両者が思いやる事により起こったのだ。
「ちょっといい加減に...きゃ!」
喋っている途中の妹をベット投げる兄、そんな彼は何事もなかったかのように、妹の隣で寝る。
「ほら準備しろ」
「きつい」
「文句言うな」
狭いシングルベッドに密着しながら寝る二人。
しかし両者は気にしないふりをしながらVR型コンソールをつける準備をし始める。そしてドキドキとする心臓を抑える為、すぐに必要な物を体につけVRの電源をつける。この時は勿論二人とも真顔を装った笑顔であり、片方は中途半端に歯を露出させ、もう片方は精一杯自分の舌を噛んでいる。
「じゃあ先に入ってるからな。すぐに近くいるから、俺らはすでにコンソール内でフレンドだから、俺のキャラが他の人と違って違う色に見えるからすぐに見つかるはずだ。間違えるなよ?」
「はぁ?わかったわよ。いちいち説明しなくていいから」
元に戻っちゃった。多少の寂しさを覚えるが、不意に温かい感触を感じ、そちらを確認する。すると、VRをつけた愛は頬を赤くしながら、手を俺の方に近づけた。
「どうした?」
「...狭いの。見てわからない?」
「あはは。そうか」
「ふん...」
そんな会話を最後に俺はVRを頭につけ、その瞬間、視界がブラックアウトするいつもの光景の後、ゲームタイトルと共に“ログインしてください”と言う文字が浮かび上がる。
このゲームを始めてから2年も経つからか、慣れた手つきで、すぐに自分のアカウントのログインを開始し、続けてロード画面に移る。
が、あっという間にロードが終わり、妹と再会する為その場で待つことにする。
「相変わらず、綺麗な街だな」
トワイライト・ゾーン。王道を行く大人気ジャンルの剣と魔法のMMORPGであり、2034年に終結した第三次世界対戦の時代を元にして作られたと言うのが驚きだ。
そんなことを考えながらも、ある異変に気づく。
「妙に人が多いな」
トワイライト・ゾーン。略して、トワゾは国内では一番人気のゲームだ。当然プレイヤーの数は数えきれないほどの量だ。
しかし、混乱などをなくす為、トワゾは主にログインする地域によって、四つのサーバーに平均的に分かれているのだが、別に何か特別な事が起こるわけでもないのに、プレイヤーの数に違和感を覚えながらも、妹を待つことにした。
待つことおよそ二十分が経ちようやく妹が初めてログインした。
「できた!」
そう呟き、自分の手足が動いていることに感激を覚える。
「すごい、すごい」
彼女は相当嬉しいらしくその場でぴょんぴょんと飛び始めた。
いつもと違うギャップに驚く永遠ではあるが、彼は少しの笑みを浮かべ彼女に歩み寄った。
「出来たか?愛?」
「...うん、って誰!?」
「兄の顔を忘れたのか?」
「いやいや!顔隠してるし!なんかいかついし!」
「装備だわ。それにボイスチャットはフレンドか戦闘相手それとパーティメンバーでしか出来ない」
「へ、へー?で、そのふれんどの奴はどうやれば出来るの?」
「...もうしてるよ」
「...え、あーそうなの?あははは」
昔から思っていたが、おそらく妹は超がつくほどの機械音痴だ。
頭がいいからか勘違いしてしまうがこいつは所々抜けいてる。それなのに周りからの評価が高いのは、いささか信じがたいがきっと努力家な所もありうまく隠しているのだろう。一度教えれば大抵の事は出来るようになる。
しかし機械は別だ。こいつは動画を見る動作を覚えるだけでも一週間と言う時間を掛ける。それに加えて、何らかの理由で知らない動作や場面に出くわすと、問答無用に電源を消す。
「えーと...これからどうするのが正解なの?私にもその甲冑が着れるようになるの?」
「いずれな?」
「そっか!よかった」
「取り敢えず移動するか...街の外に出よう」
「わかった」
トワゾで移動するのは、簡単だ。コントローラは存在しないが、意識そのものがゲームに入る為、現実世界と同じ様に、自分の足を前に突き出せばいい。
これはトワゾが人気になった理由の一つでもある。なんせ、足が不自由にだったり、歩けない人達でも、何不自由なく、歩くことができるのだから。
最近聞いた情報では、コツを掴む為に度々、リハビリに使われる事があるそうだ。
「すっごい綺麗な街だね。現実みたい」
「だろ?でも他にも綺麗な景色はあるぞ!それに夜空は感動ものだぞ」
「おー」
眼を輝かせる彼女を見て、昔の事を思い出して懐かしむ。もしかしたら彼女は昔から変わっていないのかもしれない。
昔と同じ光景だ。もしかしたら、あの時、俺が諦めずに努力をすれば...と今頃、後悔の念が押し寄せてくる。
「どうしたの?」
「ん?あーどこに行こうかなって...ちなみに職業は何したの?」
「ふふふ。剣!」
「そっかー」
「強い?」
「あー強いぞ。一番の人気職、その次が魔職」
剣士の職業は色々小回りがきく為、非常に人気だ。盾を装備すれば、火力の出せるタンクになれるし、逆に外せば、ソロ向けであり、バランスの取れるオールラウンダーにもなれる。最近のアプデで追加された超火力特化の双剣にもなれる。万能職業だ。
「流石だな。二十分掛かっただけはあるな」
「え?」
「ん?職業選ぶのに時間掛かったんじゃないのか?」
「違うよ?始め方がわからなくて、右往左往していたの...」
「はぁ」
「何でため息つけてるの?アホ!」
「ブーメランって知ってる?」