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よ、よかった。いきなりモンスターの巣窟とかじゃなくて……

 現世が地震と雷鳴——即ち終末に包まれている頃。


 別位相に存在する異世界では、極々当たり前の日常が流れていた。


 無印融郷(ヴォイドランド)にいくつか存在する国家の一つ、サービュラント帝国。人口一千万を超える大国はその規模にふさわしい先端産業が展開されており、当然教育においても世界で最も進歩的である。


 首都であるジューバスには、国中から選りすぐりの原石が集められた高等育成機関——サ・サ魔聖剣総合学術院があった。言いにくいと評判のエリート学校は、白と黒を基調とした制服からして素材が違う。


 その正門。聖堂の入り口を思わせるようなそれは、魔術による閉鎖術式が常時施されている。


 青く発光する門は、まさに選ばれた者以外立ち入りを許されないといった神聖な様相。だというのに、門の前ではひどく低俗な争いもとい喧嘩が展開されていた。


 一人は、結んだポニーテールの先端に蒼い毛が混ざっている。代々続く剣術道場・尖鬼仰鹿流(せんきこうかりゅう)の継承者たる若き剣豪——サキ・アラガミ。


 対峙するのは、真紅一色の髪を肩まで伸ばした、この国における普遍的な貴族剣士のご令嬢。学術院における筆頭騎士を姉に持つ少女——リューシー=ギルバート。


 聖剣と魔剣——この世界において最も権威ある技能を持つ二人は、相反する武器と同じくソリが合わないようだ。


「サ・サの草原。その東方で、大規模な落雷と地震が観測された。精霊若しくは魔獣の仕業なのか、早急に調査する必要がある」


 サキ・アラガミは、目を閉じ、背負う刀を意識しつつ粛々と言った。


「私は隠密、索敵といった偵察行動も幼少時より鍛えられてきた。仮に未知の敵に遭遇したとしても、迅速かつ正確に撤退、詳細な報告を行う自信がある」

「ハッ! 相変わらず甘っちょろのちょろちょろな考えね。そんなのは一人で解決できる自信がある奴が言う台詞よ? 最初から逃げるつもりのヤツなんかお呼びじゃないわ」


 一方、リューシー=ギルバートの方は鼻で笑い飛ばし、払う必要もなさそうな髪を腕で華麗に払う。おそらく昔、社交界で見た淑女の真似だろう。


 しかし、自身に対する侮辱的な発言を聞いたサキ・アラガミも当然黙ってはいない。柳眉を上げそうになりつつも、どうにか抜刀を抑えることはできたようで、


「貴様……。いや、わかった。ならば勝手にするといい、こちらはこちらで現場に向かい、検証するとしよう」


 深呼吸するように言い残すと、サキ・アラガミは柄から手を離し歩き出す。


 一瞬だけ剣呑な目つきになったリューシー・ギルバートだったが、「最初からそう言ってるし」と吐き捨て、


「まあいいわ。〈降下星(ダウンフォール)〉は広ければ広いほど燃えやすいんだから。何か起きたって関係ない」


 去って行くクラスメイトの背中は反応を返さなかった。進行方向は同じなのだが、何となく気まずいのでもう少し距離空けよう、と数分間待つことにするリューシー=ギルバート。


 そしてその後ろ姿を、校舎の窓から不安そうに見下ろす女子生徒の姿があった。


 *


 草原だ。緑の澄んだ匂い、そして飛び交う昆虫。花が揺れ、小鳥のさえずりがとても耳に心地よい。


 目を覚ました松寺信京が最初に思ったのはそんなことだった。ゆっくりと体を起こす。


「ゆ、夢……? どこだ、ここ」


 辺りを見渡す。風が撫でていき白い波が広がる、だだっ広い緑の光景。遠くにはやけに立派な建物が見える。貴族か何かの屋敷? それとも私立の学校とかだろうか。


 松寺は自身を確認する。中学の学ラン姿のまま。記憶もはっきりしている——修学旅行の最中、バスが事故を起こしてしまい倒れるクラスメイト達。


 その後、謎の夢が何かを言っていたような——


「……確か、世界を救うには世界の代償がいるとか何とかだったような。っつーことは何? ここがその」




「〈無名融郷(ヴォイドランド)〉——その中で最大の文明国、サービュラント帝国だ。ここは首都のジューバス、それなりに格のある貴族や商人、或いは洗礼を受ける予定の者こそがふさわしい都市」




 ややハスキーな、鋭くも凛とした声だった。


 松寺は声のした方向を見る。そこには、


「こんな所で迷子とは可哀想に。どれ、調査が終わったら学校まで一瞬に行こうじゃないか」


 少し年上と思われる、どうしようもない程の美少女がいた。






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