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孤独の剣士  作者: 腹ペコウサギ
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孤独の剣士2

「ありがとうございま」

 そう言って去っていく親子。

 子供が途中でもう一度こちらを見て手を振ってくれた。

 それだけでもこんな小さな、見る人から見れば無駄とも取れることをした意味があったと思えた。

 

 親子が去って私一人が残り、周りには静寂だけが残されていた。

 この前、商人に馬車に乗せてもらった時に気づいたこと。

 

 戦争をしている者たちにも守るべき幸せがあることを。自分たちが生きるために戦争に関わらなければならない。

 そう考えてしまうと私はこの歩みを止めてしまいそうになる。


 私が今、こうして戦争によって不幸になった世界各地の人々を助けているのはどうしてなのか。

 心の奥底では絶望しかけている。

 そんなときはいつもこの刀をいつもよりも念入りに手入れをして心を落ち着かせていた。

 そうして刀を手入れしているといつだってあの言葉が自分の心の中に響き渡っていた。

「どんなに暗くどこにも光が見えなくとも自分の見えないところには光がある。だから絶望するのは、全てを投げ出すのは世界を見た後でも遅くない」

 随分と昔に聞いたこの言葉は今でも私の原動力となり続けている。

 

 それでもこの言葉をもらった時に比べると自分も随分と変わったなと思えた。

 あの頃は人と話すなんてことは一切なかったし、表情を見せることも少なかった。

 それでも自分がしていることがしていることなので笑顔があのことに比べて減った気がしている。


 そんなことを考えながら私はフラフラと次の目的地を目指して歩き始めた。


 数日歩き続けてようやく目的地までの途中にある辺境の村に着いた。

 その村は辺境にあることもあって戦争とはあまり関わりがない。

 そもそもこの村を知っている人が少ない。

 私もこの村はあの人に教えてもらうまで知らなかった。

 

 到着すると門番をしている人が手慣れた様子で私への対応をしてくれた。

「お久しぶりです。いつもすみません、こんな辺境の地まで来てもらって」

「いえ、これがあの人との約束なので」

 そう言って門をくぐり抜けて村の人々に挨拶をしながら村の中のある少し離れた場所に向かってから村の長へと向かった。

 

「お久しぶりです。村長」

「よく来てくれたね。いつも本当にお世話になってるよ」

 いつも通りの対応に実家に帰って来たような安心感を覚えていた。


「定期報告ですけど、戦況は今までとほとんど変わることはありませんでしたね。地方で革命軍が出来よとしても国賊としてやられているだけでした」

「いつまでたっても何も変わらないか。しかしここではできる事などほとんどないからな。どうしたものか」

 

 戦争を終わりへと向かわせたいのはこの世界に生きる人々にとっての共通の願いだ。

 しかし、戦争をしている国の重鎮達がそれを許すことがない。

 自分達が勝って戦争を終わらせようとするばかりに、自分達の国から革命軍を出さないようにしているから。

 そうして革命軍が出来てはつぶされるの繰り返しで人々は武器を手に取るのをやめ、戦地から離れた場所でひっそりと暮らしていた。


「あなたもそろそろ引き際でしょう。これ以上動き回っては国の者達に見つかってしまいます」

 それを聞いても私の中の答えが変わることはない。

「あの人との約束ですから。あの時助けられたちっぽけなこの命、それで数十人でも数百人でも助けることが出来たのならあの人も嬉しいでしょうね」

 その言葉を聞いた村長は苦しそうな顔をしながらそれ以上なにか言ってくることはなかった。

 

 村でのいつもの事が終わると私は宿で食事をして休んだ。

 

 この村に来ると決まって夢を見た。

 そこにはいつだってあの人がいてくれた。

 村の人々と楽しくお祭り騒ぎをしながらその片隅で私は皆を眺めていた。

 そしてその時間が、感覚が私は最高に好きだった。

 けれどその夢はいつだって最後には血塗られた刀を持って赤く染まった地に私一人だけが佇んでいた。

 そしてその夢から覚めた私は一筋の涙を流していた。


 その日はいつもどおり村からまた旅立とうとしていた。

 しかし、足は無意識のうちにあの人のお墓の前へと向かっていた。

 お墓の目の前まで来ると私は独り言をつぶやき始めた。

「私はあなたのように生きることが出来ているのでしょうか。あなたのように人を助けることが出来ているのでしょうか。ずっとあなたがいてくれた時と違って今進んでいる道が正しいなんて誰も教えてくれません。私は孤独が嫌いです。一体どうすれだ良いんですか」

 誰からも返事が帰ってくることのない言葉がお墓の前でこだましていく。

  

 しばらく立ち尽くしていた私はふとあの人からのおまじないを思い出した。

 怖くなったこうしてみると良い、とあの人が教えてくれたおまじない。


「toi toi toi」

 と、私は自分の胸を三回軽く叩いた。


 


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