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【大改修中】臆病な王様の恋の詩  作者: 酔夫人
本編
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第4話 人間の外と中 (ロシュフォール視点)

ロシュフォール視点です。

 あるとき何かの会話をきっかけにしてセリスがグリーンヒル侯爵の兄にあたる人と男爵家のご令嬢との間に生まれた娘であることを知った。


 本当の両親は冒険の旅に出たとかなんとかで、彼から後継者の座を押しつけられた侯爵が旅の邪魔になると置いていかれたセリスを養女に迎えて育てることにしたそうだ。


 自分を捨てた両親を恨んでいないのかとセリスに聞いたら「まさか」と笑い飛ばされた。


 よい子の模範的解答だと思ったのも束の間、セリスは「私の器を作った人たちに何の感情もありません」と続けた。


 彼女が言うにはどんなに器など第一印象でしか役に立たず、最終的に自分というのは中身で決まるという。器は違う者たちが作ったが、セリスがセリスであるための中身を作ったのは今の両親だと彼女は胸を張った。


 彼女の強さが羨ましかった。いや、両親を恨んでいないのかなど意地悪な質問をぶつけた時点で俺は彼女に嫉妬して自分のいる場所まで落とそうとしていたのだろう。


 ――― 俺は父と母が嫌いだ。


 あの二人から生まれた自分と言う存在を忌まわしく思うほどあの二人を憎んでいた。でもそれを誰かに言うのは初めてだった。父親と母親を悪く言うなど罪。罪悪感が俺の体を包み込もうとしたとき「ロシェ様は私のお友だちのロシェ様ですわ」とセリスが言った。


――― 殿下ご自身がバカをやったら友だちをやめますからね。


 あの侯爵の娘だと実感させる一言。セリスの言う通り、器は選べなくても中身は作れることを俺は理解した。



 その日を境に俺は俺が理想とする王族となるために引き籠るのをやめ、蔑む者に対しては『だから何だ』という視線を返すようになった。そんな報告をセリスにしてみれば「その意気ですわ」と褒められた。


 そんなセリスの人柄や気性を祖母は気に入ったのだろう。


 祖母はセリスを俺の婚約者にしようとしたが他の貴族の横槍でそれはなかなか叶わなかった。両親とも貴族で父親はグリーンヒル侯爵家の者だが、セリスが現侯爵の子ではないところが問題視されもした。


 結果、セリスは何十人もの婚約者候補たちと彼女たちと一緒に王太子妃教育を受けるようになった。祖母がいろいろ画策して俺が十六歳になるときには候補ですらセリスだけになったのだが。


 妃教育の賜物で淑女の鑑などと呼ばれるようになったがセリスはセリスのままだった。お転婆ではなくなったけれど「ロシェ様」と俺を呼ぶ声は変わらず優しく、俺の姿を映すその大きな瞳の宿る真摯さと誠実さは変わらなかった。


 十六歳になって成人の儀を終えたら立太子して、同時にセリスを婚約者として迎える。


 その計画は成人の儀で行われる神力の鑑定で大きく変わった。あの日セリスは聖女と鑑定され、セリスは「聖女だから」を理由に俺の婚約者として認められた。それはセリスが嫌う器だけの評価。


 何十人もの令嬢たちが音をあげたあの厳しい王太子妃教育を受け続けた気力や優秀さといった中身でセリスを見ずに、多くの者が「聖女セリス」を歓迎した。


 特に貴族たちが聖女セリスを歓迎したのは分かる。

 それまで聖女はローナしかいなかったからだ。


 学生時代にちやほやされた経験が忘れられず、ギヨームが王の仕事を祖母に押し付けていることをいいことに王妃としての仕事を全て放り出し、ローナは見目麗しい愛人たちと離宮で遊び惚ける暮らしに満足したいた。


 因みにギヨームはそんなローナに我慢するわけがなく、「先に浮気をしたのはローナのほうだから」という謎理論で自分も違う離宮で何人もの愛人を囲っていた。昼夜関係なく、それぞれの宮は常に乱痴気騒ぎ。世紀のロマンスの結末は、家庭内別居ならぬ城内別居と規模は大きいがどこにでもある普通の夫婦の終わりだった。


 俺が王になってギヨームに王の義務はなくなったが、ローナは聖女なので元王妃になっても聖女としての義務は残っていた。


 聖女の義務は歴代の聖女たちが維持し続けている光の檻の維持と修復。もちろんローナは渋ったし、あの女は自分の価値を分かっていた。


 聖女は世界に一人、その力は自分だけが持つ特別なもの。魔物の出没が増えて騎士団の死傷者が増加していると聞くと「それなりの誠意を見せろ」と言って金、宝飾品、見栄えのいい男を要求した。


 高貴なる者の義務を説こうとした者もいたようだが学んでいないローナに対しては徒労でしかない。「なにそれ、美味しいの?」と一笑に付されてお終いだったそうだ。


 光の檻の修復を頼むたびに国庫から金が消える。国の金庫も無尽蔵ではない。ローナへのお願いは必要最低限になり、騎士たちが身命を賭してボロボロの檻の隙間から出てくる魔獣を駆除し続けた。


 そんな状態であったから、高貴なる者の義務をよく理解しているセリスが聖女になったことは希望だった。国中が、世界中が、セリスに聖女であることを求め、セリスはそれに応えて光の檻を修復し続けた。


 本来は維持だけでよいところを修復までしていたためセリスは神力を限界まで使い、作業を終えるとセリスは数日寝込んでいた。しかし王妃であり聖女でもある自分の体調不良は周囲を不安にさせるから黙っていてほしいといわれて俺は沈黙を選んだ。



「みんなで寄ってたかって君を聖女として雁字搦めにして……結果がこの様だ」


 神力は生命力や体力に大きく関係するため出産を終えた女性の神力が著しく低下することは分かっていた。命懸けの出産を終えて数日から数カ月休めば神力は元に戻るのだが、スタンピードが起きたときオスカーを産んだばかりだったセリスに神力はほとんどなかった。


 俺はセリスに「オスカーを連れて逃げろ」とだけ言って部屋を出たのだが、俺が退室したあと大勢の貴族がセリスのもとに押し寄せて「聖女なのだからどうにかしろ」と責め立てたらしい。離宮にいたローナのもとに誰もいかなかった、全員が全てをセリスに押し付けた。


 その結果、セリスは足りない神力を自分の生命力で補って光の檻を修復し、いまは冷たい結晶の中で眠りについている。眠っているというのは今まで数日は寝込んだものの必ず目を覚ましていたからという希望的な観測に過ぎないが。


 セリスが力を尽くして作りあげた光の檻は魔獣を退けた。この光の檻は新しい上に状態もよく、今までの記録から五十年くらいは何もしなくてもその効果を十分に発揮できそうだと学者たちが太鼓判をおした。


 このことと同時にセリスが眠りについたと発表したとき、ほとんどの者が後ろめたい表情を俯いて隠した。誰もが全てをセリス一人に押し付けた自覚があったからだ。


 しかしそんな罪悪感も時間と共に消えていった。


 セリスのように国ごと眠るわけにはいかない。眠る、食べる、仕事をする。これを繰り返し続けていたら、王妃の場所の空きに多くの者が慣れていった。


 慣れとは怖い。たった二年で新たな王妃を求める声が出始めた。国には王妃が必要だという言葉を俺は無視し、お祖母様が代わりを担うといってその声を封じた。俺には妻が必要だという言葉は徹底的に無視した。


 オスカーが二歳の誕生日を迎えた頃、ある貴族が俺に「殿下には母親が必要です」と言って自分の娘を薦めてきた。その貴族はあの日セリスのもとに押しかけた者の一人だった。母親の温もりを知らない子どもは不憫だと、オスカーからセリスの温もりを奪ったくせに図々しく言ってのけた。


 しかもそれをこの俺にだ。


 俺が生まれ落ちた直後からローナと離され祖母の王太后に育てられたことは周知の事実。母親の温もりなど知るわけがない。その男はセリスのもとに押しかけたことだけでなく、「あの母親の息子」といって俺を嘲笑っていたことも忘れていた。


  こいつが異常なのだと思って俺は聞かなかった振りでその場をおさめた。しかしそんな奴らがどんどん湧いて出てきた。

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