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【大改修中】臆病な王様の恋の詩  作者: 酔夫人
番外編

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22/23

双子の父と兄

本編完結後の番外編です。

 おぎゃあああああ


「おお、元気いっぱいだな」


 響き渡った赤子の泣き声にロシュフォールは嬉しそうに顔を綻ばせ、その隣にいた彼の息子でいま産まれた赤子の兄であるオスカーは初めての経験に感動し過ぎて言葉が出ない状態だった。


「いつになったら母上たちに会えるのです?」

「産後の処置があるからしばらくかかるな。お前が生まれたときは産婆が呼びに来てくれたが……神竜?どうした?……はあ?双子!?」


 契約した聖獣である神竜と話をしていたロシュフォールが表情(かお)を驚きでかため、『双子』という言葉にオスカーも同じように驚く。

 セリスが見たら「やっぱり親子ね。」と微笑みそうな光景である。


「確かにオスカーの時に比べれば腹がデカかった気がするが…セリスは華奢だから腹が目立ちやすいんだろうとばかり……双子、か。」


「とりあえずロン爺のところに行って赤子用の花束をもうひとつ追加しましょう。」

「そうだな―――オスカー、頼めるか?」


「嫌ですよ、父上が行ってきてください。俺はここで母上たちを守りますから。」

「嫌だよ、守るのは俺の仕事だ。」


 「どちらでも良いですから、お早く。」というハディルの言葉にかぶせるように二つ目の泣き声が聞こえ、父子は仲良く庭に走っていった。



 ***



 生まれたのは男女の双子で、ロシュフォールは男の子の方に『バスター』、女の子の方に『ノーラ』と名付けられ、この国の皆に歓迎された。


 「二人ともセリスに似ていて素晴らしい。」と言い切る王の姿に、王と瓜二つと言える王太子が気を悪くするのではないかと城中の者が最初は慌てたが、「本当に、心底同意します。」と力強くうなずく王太子に杞憂だったと安堵した。


 とにかく双子の父と兄は重量級に重たい愛情を双子とその母親に捧げている。


 双子が泣くと父と兄が飛んでくる。


 その様子をセリスも最初は微笑ましく見ながら、双子の世話を買って出る夫と息子を横目に優雅な育児を楽しんでいたが、ある日ハディルの嘆きを聞いて、


 「ロシェ様、オスカー、ちょっと座って下さる?」


 にこやかなセリスの言葉に素直に従ったロシュフォールとオスカーに特大な雷が落ちた。

 王と王太子の秀でた頭脳と武力はこの国だけでなく外国にも有名なのだが、そんな二人がたった一人の淑女の怒りを前にプルプル震え、セリスの説教を完全肯定で受け入れる姿に、


(普段優しい人が怒るって怖いって本当なんだな)


 その場に居合わせたハディル、侍女たち、そして侍従や護衛騎士たちはセリスの真価を尊敬とわずかな恐怖と共に理解した。


 

 しかし、セリスの説教には堪えたものの双子への愛情が消えたわけではない。


 父と息子は協議して、「仕事は最低限やって双子を愛でる。」という、よく考えれば普通の結論を出した。

 秀逸な頭脳はどうしたと思わないでもないが、王と王子の働き方改革、公私バランスの最適化が完了した。


 そしてハディルは二人のタイマーと化すことになる。


「陛下、殿下、約束の10分が過ぎましたよ。」

「「あと10分。」」


「もうダメです。決済待ちの書類が山どころか山脈を作っております。」

「「あと10分。」」


「一度した約束を違えるつもりですか?」

「「もう少し」」」


「ではあと5分。5分後に執務室にいなければ約束不履行とみなして王妃様に言いつけます…理解していただけましたか?」



 伝家の宝刀(セリス召喚)を宣言したハディルに、二人は彼女の説教を思い出しながら頷いて、4分赤子を眺めたあと猛ダッシュで執務室に向かい、5分まであと5秒というところで執務机とセットの椅子に座った。



セリスの名(最終兵器)を使うのは卑怯だぞ。」

「セリス様から御二人が約束を守らなければケルベロスを設置して良いと許可いただいておりますので。」


「俺の神竜で打ち破る。」

「バカですか…精霊大戦争をこんな場所で起こせば宮殿など即木っ端みじんですよ?お子様たちを危険にさらすおつもりですか?」


「双子のベビーベッドにはロンに頼んで神樹の力による強力な防御陣がはられている。神竜の咆哮も余裕で耐えられる。」


 屈強な騎士たちに守られる宮殿の奥にある部屋にあるベビーベッドにそんな強固な防御陣が必要かハディルは甚だ疑問だったが、それでロシュフォールが仕事に集中できるなら良いと思うことにした。


 ロシュフォールが机に向かってから約一刻。

 訪ねてきたオスカーをロシュフォールは笑顔で出迎えたが、たいしてオスカーは『言ってやりたい』と言う顔をしていた。


「陛下への奏上と騎士団の支援要請、それに対する騎士団出撃の命令書が出ている…までは良いのですが、なぜ俺が騎士団を率いることになっているのでしょう。」


「お前が行ってこい。」

「はあ?」


「俺は神竜と共にセリスと双子たちを守らなければいけない。今回の騎士団の要請は隣国の使節団の警護、危険度は低めだし重要な仕事であるから王太子が行くべきだ。」


「いろいろ言っていますが―――単に双子たちから離れたくないだけですよね?」

「何を言っている、父として息子の成長のため断腸の思いで送り出すんだ。」


 シレーッとしている父親に怒りがわくが、王太子が陛下に表立って逆らうことはできない。

 しかし双子たちとは慣れるのは嫌…オスカーが葛藤しているときに、セリスがロシュフォールの執務室に現れた。


「ハディルから休憩中って言われたから勝手に申し訳ありません。」

「いや、セリスなら全然問題ない。どうした?」


「オスカーがこちらに来ていると聞いたのだけど、構わないかしら?」


「何?」


「来週のお茶会に招待する方に私の学院時代の友だちがいて、是非オスカーに逢いたいって仰っていらっしゃるの。貴方が幼いときに私が好きな花を訊ね回っていたのを忘れられず、あのときの子どもがどんな素敵な青年に成長したのか見たいのですって。私もあなたの幼い頃の話を聞きたいし、ダメかしら?」


 母の言葉にオスカーは内心ニヤリと笑う。


「母上、すみません。明後日から2週間ほど、私は騎士団と共に隣国との国境まで行かなければいけないのです。」

「ああ、使節団がいらっしゃる件ね。でも、陛下が騎士団を率いる予定では?」


 セリスに睨まれたロシュフォールは青い顔をする。

 その表情から夫が息子に仕事を押し付けたのだと理解したセリスはにっこりと微笑み、


「その仕事を受けて2週間双子たちに会えないのと、三匹の聖獣に阻まれて3ヶ月双子たちに会えないの―――どちらが良いですか?」


「3…ヶ月……。」

「赤子の成長はとても早いそうですね。あの子たちの乳母によると、これから3ヶ月ほどの間に寝返りをするようになったり、離乳食を食べられるようになるそうですわ。ふふふ、楽しみですわね。」


「オスカー、その件は俺が行く…お前は茶会に参加し、セリスをエスコートしろ。」


 父親の言葉に「御意。」と恭しく礼をしつつも、普段は勝てない父親に対して『ざまあみろ』と内心で舌を出した。

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