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【大改修中】臆病な王様の恋の詩  作者: 酔夫人
本編

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第16話 (ロシュフォール視点)

「陛下! 陛下!!」


 切羽詰まったセリスの声に俺は目を開けるが、それでも視界は暗いままだった。何があったのか、いまどんな状態なのか、全く分からない。分かるのは腕の中に温かいセリスがいて……元気にジタバタしていることだけ。


「……大丈夫か?」

「! 陛下、気づかれたのですね……よかった」


 安堵の滲む声に、本気で俺のことを心配していたことが伝わってきて俺は胸が痺れる。


「何が、あった?」

「私にもよく……ただ天竜様が『あっぶねえなあ。気をつけろよ』と仰っていました」


 セリスの声で天竜の口調……新鮮だな。


『この緊急事態でなに阿呆なこと考えてんだよ』

「……いたのか」


『いたに決まってるだろ。一気に吸収した魔気に酔っただけ。人間で言う二日酔いみたいな状態? 寝れば治るって聞いたことがあるから寝ただけだ。完璧に治っちゃいないけど緊急事態だから出てきた』


 天竜の説明によるといま俺とセリスは天竜の結界の中にいるらしい。


『聖女の檻の俺版って感じだな。で、この黒いもやもやが魔気だとか瘴気だとかのブレンド。魔気が魔獣の根源ならば、瘴気は魔獣から噴き出す害意や悪意だな』

「瘴気があるということは魔獣がいるのか?」

『お前の母ちゃんがその魔獣』

「……は?」


 俄かに信じられない思いで聞き返すと、天竜は一度この黒いモヤモヤを大量に吸収するからその隙に現実を見ろと俺に説明をした。そして黒い霧が薄れた一瞬、そこにいたのはうにょうにょ揺れる黒いものの塊。


「あれがとでも言うのか? ダンジョンのラスボスだろう」

『聖女は俺たち天獣と同じと言っただろう? つまり魔獣にもなれるってことだ。そして同じことが過去に起きている。かつてこの国の王が必死になって隠ぺいした闇の歴史だ。公にしておけば何かしら対策がとれただろうが、世界の安寧のためには隠したという考えも間違いとは言い切れない』


 千年ほど昔、この国にいた心の優しい聖女が魔獣になった。彼女はしきたり通り王子と結婚したが、王子はある令嬢を真実の愛と呼び、「お前の我侭のせいで」と聖女を呪って令嬢と心中を図った。王子には替えがいるが聖女に替えはいない。結果、王子は病死と発表され弟王子が聖女を娶った。


 聖女が死んだ王子に恋をしていたことを誰も知らなかった。


 恋心の向きが違うだけで、誰のせいでもない。誰かがそう言ったが、聖女は苦しんだ。自分が聖女にならなければ愛しいあの人が自ら死ぬことはなかったと自分を責めた。新たな夫は兄王子を慕っていたため兄の死は聖女のせいだと責めた。兄弟の母である王妃も息子の死は聖女のせいだと責めた。


 行き場のない思いは聖女を狂わせ、自分の存在を呪う気持ちは魔気となり聖女は魔獣となった。


『聖女だって人間。天神様は悪意を好まない者にそのお力の一部を与えて聖女としているが後天的なものは色々ある。この聖女は次の聖女によって深淵の森に封じられ、全てを呪って死んだ。そしてその呪いは次の聖女に引き継がれた。俺のように純粋な善、神力だけを受け継げばいいが人間だからなあ。継承する神力が悪意に侵されていることもある』


 生来は善を好む気質の聖女だからこそ自分が抱いた悪意を浄できる。しかしそれは特別な力ではない。浄化といっても気持ちに折り合いをつけて受け入れること。そういう気質の人間が聖女になりやすいということでもある。


『聖女たちは神力を継承しながら悪意を浄化していったが、ここ数代は悪意を浄化しきれなかった。聖女になったあとにその気質が変質したからだ。その原因の最たるものはシュバルツ王家のロマンス指南書だな』


 なんでも上手くいく世界は聖女に権力欲や贅沢を与え、甘い誘惑の中に浸った聖女は悪意に対抗する力を奪われるどころか「私は聖女なのだから」と欲を育て悪意を増幅させていった。


『このローナという聖女は運が悪かった。聖女になるまでは天神様に好まれる気質だったろうに、作られたロマンスに踊らされ、悪意で穢れた神力を伝承してしまった』


 悪意で穢れた神力の伝承……嫌な予感が俺の心の中でどくりと膨らむ。


「天竜様」


 ずっと黙って話を聞いていたセリスの静かな声が暗闇の中で響く。


「私はその力を伝承するのですね。そして、浄化できなければ私もいつかあのように魔獣になると」


 その決意が籠った声に、セリスの強い光を宿した目が思い出される。


「駄目だ!」

『お前が駄目だと言っても神力の伝承は世界の理。あそこでラスボスと化した聖女を倒せば必然的にあの女の中にある核に宿った神力の全てを引き継ぐことになる』


 そんな……それじゃあ、セリスもいつか……?


『お前、未来永劫俺に感謝をしろよ』

「……なに?」

『忘れたのか? お前の嫁には俺の番の加護がある、つまり俺とも繋がっていて俺の力で嫁の核を守ることができる』


 ……それなら。


「魔獣にならないということか?」

『そんなうまい話ではない。俺と美玉と嫁の繋がりを利用して、他の天獣たちの力も借りて魔気から嫁の核を守る。その間に嫁は聖女の力を穢しているものをある程度浄化する。慣らしもせずにいきなりこれだけの魔気を浴びたら嫁の核が壊れて即魔獣化だ。嫁、自力で浄化することになるが、いちかばちかだが、できるな?』


 俺の腕の中でセリスがビクッと震えたものの、「はい」としっかり返事を返す。


『お前より嫁のほうが肝が据わっているな。よし、俺はちょっくら天獣たちを集めてくるから、その時間を使ってお前はちゃんと嫁に自分の気持ちを伝えろ』

「え?」

『嫁の核はすでに魔気で侵されているんだ。嫁が眠りにつく前にお前になんて言った? 嫉妬で狂いたくないと言っただろう? 嫉妬する必要がないことを教えてやれ。これ以上魔気を増やすな。愛の力というのを舐めるなよ。お前に愛されてるってことを自覚させられれば浄化の力もあがって成功率は爆上がりだ』


 そう言い残して天竜は姿を消したが……愛してるって、お前が言うなよ。


『それは悪かったな』


 !?


「消えたんじゃなかったのか!?」

『ひとつ、やりわすれた。嫁に記憶を返すぜ、そうじゃなきゃ何を話しているか嫁に分からないだろ?』


 天竜の気配が消えると同時にバチンっという音がした。同時に腕の中のセリスが硬直する。おい、何した、乱暴過ぎじゃないか……って、セリス、息できていない!


 ハクハクと苦し気に体を震わせながらヒュッヒュッと短い息を吐いている。

 咄嗟に背中を撫でて落ち着かせるが効果はなく、ストレスによる過呼吸と判断して咄嗟にセリスの唇を塞ぐ。


 空気が断たれたことにセリスは抵抗を見せたが、落ち着かせるため背中を撫でる。


 ガクガクと大きな震えが治まる。どれくらい時間がたったのか、力が抜けてくたりとなったセリスにホッとすると同時にセリスに口づけていることに気づいた。

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