プロローグ
この世界の説明になります。
この地上の全ての『もの』は神が創った。
神は全てを平等に愛し、地上に平等に配置した。しかし『もの』たちは互いに影響しあい、時間をかけて神が創ったときの『もの』から変わっていった。
『もの』の変化を知った神は自分の変化に気づいた。自分にとって好ましい変化を遂げた『もの』は【善】。好ましくない変化を遂げた『もの』は【悪】。そう区別している自分に神は気づいた。
「愛せない」を知った神は二柱に分かれた。
神は全ての『もの』を平等に愛さなければいけないから。こうして善を愛する【天神】と悪を愛する【魔神】に分かれた。
天神は善なる『もの』のうちで力を持つ者を己の眷属【天獣】とし、世界の善なる『もの』を守るために天獣に力の一部を分け与えた。魔神は悪なる『もの』のうちで力を持つ者を己の眷属【魔獣】とし、世界の悪なる『もの』を守るために魔獣に力の一部を分け与えた。
そして長い時がたち、あるとき善にも悪にも区別できない『もの』が生まれた。知能が高く、本能ではなく知恵で動くその『もの』を天神と魔神は【人間】と名付けた。
二柱は人間に興味をもった。
やがて人間は火を発見し、言葉を作ってコミュニケーションをとるようになった。社会性を持つ『もの』は他にもいるが、人間は二柱が想像していなかった変化をしていく。そこで二柱は気づいた。自立している人間はもう彼らの『もの』ではない。
天獣や魔獣と違って人間は善と悪との間でも子をなすことができた。善の両親から悪の子が生まれたり、その逆の悪の両親から善の子が生まれることもあった。善で生まれた人間が環境に影響う受けて悪になることも、その逆もあった。
やがて魔神は自ら地上で暮らし始めた。そして人間と接しながら自分の好む悪の人間を選び出して悪意を増加させていった。
そんな魔神の姿が眷属の魔獣たちには人間を贔屓しているように見えた。その嫉妬心が彼らの凶暴性を増加させ、魔神を人間から取り戻すために魔獣は人間を食らうようになった。
魔神は喜んだ。
嫉妬という醜い感情も、血肉をむさぼるという凶暴性も彼が好む悪そのものだったからだ。
魔獣たちは魔神の傍を好み地上の北のほうに集まった。そのため魔獣の捕食対象である人間は南側に逃げていく。
こうして世界の北は魔物の巣窟となり、火のないそこは常に闇夜のような暗くいつの間にか【深淵の森】と呼ばれるようになる。
人間も食われっぱなしではない。誰だって死にたくない、必死で生きるために抗った。そして善の人間たちの中には「誰かを守るため」という意志で魔獣と戦う者が生まれた。
天神は喜んだ。
等しく守ろうとするその心や正義感は彼が好む善そのものだったからだ。
天神は人間とは間接的に関わることに決めた。彼は天獣たちにそんな人間たちから一人を選ばせ、加護として天神の力のほんの一部を人間が使えるようにするように命じた。加護を得た人間たちはその特別な力を【神力】と呼び、その力で魔獣と戦い人間を守るようになった。
魔獣と戦う人間たちは深淵の森に近い場所に町を作った。
やがて町は大きくなり、千年のときを経て王を頂点とする【シュバルツ王国】と呼ばれるようになった。
地上には人間によっていくつもの国があり、絶えず戦を行い国々は形を変えていき、政治によって国同士が強力するようなことも起き始めた。しかしこのシュバルツ王国だけはずっと同じ形、どんな大国にも属さない独立した国だった。
シュバルツ王国の民たちが血を繋ぐ過程で多くの天獣の加護が混じり合った。そして生まれたのが特別な加護を持つ【聖女】である。
聖女は深淵の森全体を包み込むような巨大な光の檻【結界】を張る力があった。
力の弱い魔獣は檻の隙間から出てきてしまうが、力の強い魔獣は通さない。力の弱い魔獣は神力を宿す血をわずかでも繋いできたシュバルツ王国の騎士たちが討伐できた。
人間を魔獣から守る要である聖女は世界を安寧に導く者として人々に崇められ、不思議なことに聖女は定期的にシュバルツ王国に誕生し続けた。