初恋の姫君は、竜の神殿にいる 6
「結婚式に臨む男が、大事な花嫁のことばかり気になるのは当然のことだよ」
いえ、私がさらわれたりしてフェリス様に心配かけてるからだと思いますが……。
「……フェリス殿下からそんな御言葉を賜れようとは……人間、長生きはするものですね」
ほう、と驚いているオリヴィエ大神官は、そうは言っても二十代半ばだろうか。そんなに年配の方ではない。
お若いのに、大神官の職につかれてるのだから、とても有能なのだと……。
「何かあったのかい、オリヴィエ?」
「いえ、私どものことではないのですが……、ガレリアで、リリアの大司教カルロ殿が、暴徒に襲われたそうです」
「リリアの大司教が暴徒に? 何故? カルロ殿は、うちのレーヴェがお嫌いだと耳にしてるが……、カルロ大司教自身も誰かに恨まれてるのかい?」
天の使いのような美貌で、我が推しが、ディアナの大神官に問いかける。
何故かフェリス様の背後で、レイが笑いを嚙み殺してるわ……。
レイってときどき謎なとこで笑ってない?
「もろもろのディアナへの工作の報いで、ガレリアは少々、ディアナとも他国とも貿易に難儀しているらしく……、ガレリアの民がカルロ大司教に恨みをぶつけた模様です」
「おや……自国の民に嫌われるとは、悲しい話だね」
優雅にサラダを食しながら、フェリス様が仰った。フェリス様、ちゃんとお野菜も食べてらっしゃる!
合格!
オリヴィエ大神官も朝食まだでいらしたのか、サラダが運ばれてくる。レーヴェ神殿の神官は、食事はちゃんと食え、というレーヴェ様の教えで、食事は普通の方と同じなので、食事に関する戒律の厳しい宗教の僧侶などは驚くのだそう。
「貿易が?」
思わず疑問が声に出てしまって、あっ、とレティシアは口を押える。
いけない。大人の話だったかも(フェリス様だけならレティシアにも教えてくださるけど……)。
「うん。ディアナでリリア僧が工作していたことが露見して、ディアナの商人や、他国の商人が、ガレリアとの商売を嫌っているらしい」
「レティシア姫拉致の話も、もちろん公式には伏せてはおりますが、何かしらは聞こえていて、ガレリアの商品に対する嫌悪感を煽っているようです」
「わたし? 私の話で何故、ガレリアの商品が嫌われるのですか?」
え? なぜ? とレティシアは首をかしげて、フェリスの碧い瞳を見上げる。
「それは、僕の花嫁、レーヴェの娘にあだなす者を、ディアナの商人は嫌いだろうね。リリア僧は、兄上の名も意図的に穢そうと工作したのだし、疎まれるのは当然かな……。他国の事情はわかりかねるけど、恐らくは、この機にリリア僧だったり、ガレリアの勢力を抑えたい、というところかな」
「でも、……リリア僧のしたことで、罪もないガレリアからの輸入品が遠ざけられるのは、不当な気が……ディアナの商家の方も被害を被るのでは……」
ガレリアからどんな食品なり工芸品なりが輸入されてたのか、レティシアは知らないけれど、関係ない人に迷惑がかかるのはお気の毒だ。
「ディアナ的には、より安心な取引を望める誠実な貿易相手を求めているだけなので、レティシア姫がお気になさることではありません」
安心させるように、オリヴィエ大神官が言葉を紡ぐ。
「オリヴィエとの雑談なんて、どのみちろくでもないんだから、レティシアとの神聖な食事の時間にするのはいやだ……」(from初恋に多忙な王弟殿下)
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