氷の王子とあの小さな王女について 3
「いとけなきガレリアの民が、わたくしの馬車に物を投げたのです! リリア神殿が悪しきことをしてると誤解して……!」
茹でた蟹が泡を吹かんばかりに訴えている。
「そなたの普段の説教に問題があるのではないか?」
下らぬ、と思いながら、ヴォイドは答えた。
「民は正直なものだ。勘違いで悪い噂が立とうとも、大司教カルロ、そなたに人望があれば、退けられよう?」
「……っ、へ、陛下……っ」
「陛下。ガレリアの民は、ディアナとの諍いを望んでおりません。ディアナと軋轢が生じて、商品の輸出入が難しくなっていることが、此度の騒動の原因かと……」
ブルース伯が遠慮がちに説明する。
「フェリスが物の値段を操作しているのか?」
「いえ。フェリス王弟殿下が指示しているわけではなく……、ディアナの顧客や商人達が怒りを表しているようで……、ガレリアの商品が売れない、ディアナの原料が高騰している、という陳情は数多く受けております」
「レーヴェの娘を攫ったりするからだと、私に果実をぶつけようとした民が呪っておりました。……レーヴェの娘などと! サリアの王女レティシアは、レーヴェ神の血を受けているわけでもないのに!」
「ディアナで人気の高いフェリス殿下もですが、レティシア王女も、人の心を集めるというか……、見たこともないレーヴェの娘の為に、ガレリアの民も義憤を感じているようです。小さな娘を攫うなど、ガレリアの男とは言えぬと」
「ガレリアの男とは言えぬ、か」
ヴォイドは苦笑した。
レティシアを攫わせたのは、ヴォイドなので、ならば立派なガレリアの男と言えぬのは、大司教カルロではなく、ガレリア国王のヴォイドということになる。
(フェリス様は、王位など望んでおられません……!)
迷いのない、美しい琥珀の瞳だった。
ローザンが作ったレティシアは何処か人でないような美しさがあったが、本人のレティシアは可愛らしい、いかにも温かい血を持つ人の娘だった。
サリアの王女は、あの小さな身で、あのディアナの神の貌をした男を従えている。
「それこそ、さらわれた噂のある娘なぞ、ディアナ王弟にはふさわしくない、とディアナの民は怒らぬのか?」
「フェリス殿下とレティシア姫は、現在、レーヴェ神殿で禊中のようで……その折、二人の入場にディアナの竜王剣が喜びに歌った、とのことで、評判は落ちるとごろか、上がるばかりかと……」
「……なんと。こちらの仕掛けた竜王剣の話を逆に使われたか」
ヴォイドは、まさかディアナの竜王剣が本当に鳴ったとは思わず、ディアナ王族とレティシア姫の婚姻の評判を上げる為の仕掛けだろう、と考えた。
「……そ、そうなのでしょうか。婚姻を寿いで、ディアナの神剣が歌うとは、と魔法の塔の界隈では少し騒ぎになっているようですが……」
「しゃらくさいな。……カルロ、魔導士ローザンは罰するも何も、近頃はずっと臥せっておる。夢に恐ろしいディアナ王弟が出てくるんだそうだ。……そんなに不快なら、そなたの朝の広場の説教で、大司教にもリリア神殿にも後ろ暗いところはないと民達が納得するように、説いて聞かせよ。……ブルースは、ディアナには何か詫びの品を贈って、慮外者のしたことでガレリアに悪意はない、と輸入価格の高騰の折衝をさせよ」
竜の神の剣が、あの小さな王女を歓迎して、鳴く?
そんなお伽話があるものか、それにしてもマリウスはディアナの偽王だと、ヴォイドが撒かせた噂がまるで真実のようではないか?
ディアナでは、千年前の剣が、本当に王を選んだり、歌ったりするのか?
「まことに、ディアナはおかしな国よ」
だが、そのディアナが欲しい。
いにしえの竜に愛された国だか、竜の剣に守られた国だか知らんが。
ディアナには、ガレリアにはない歴史や、名や、豊かさ、長年に渡る他国からの信頼など、多くの資源がある。
「陛下。心得ました。わたくしの教えで、必ずや、迷えるガレリアの民の心を正しき道に戻してみせます! リリア神様はきっと、ガレリアの民が道に迷うことも、ディアナの民が、あのレーヴェ神に似た王弟に誑かされているのも、お悲しみです……!」
ヴォイドがディアナを手に入れれば、もう誰も、ガレリアを新興の国などと笑えまい。
茹でた蟹のような大司教カルロとは、その一点でのみ、気が合っていた。
「私の神殿でレーヴェを貶さないで」(fromリリア神)
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『五歳で、竜の王弟殿下の花嫁になりました@COMIC』コミカライズ三巻表紙
『五歳で、竜の王弟殿下の花嫁になりました@COMIC』コミカライズ連載