氷の王子とあの小さな王女について
「カルロが襲撃されたと? 誰にだ? ディアナゆかりの者にか?」
さして興味もなさそうに、ガレリア皇帝ヴォイドは下問した。
「それが……陛下……、ガレリア市民に物を投げられたそうで……」
言いにくそうにブルース伯は奏上した。
「ガレリア市民に? なんぞカルロの説教に不満でもでたのか?」
「それが、そのう……」
「陛下、ガレリアの民の誤解を解き、怒りを鎮めるために、魔導士ローザンめをさらし首にしてください!」
ブルース伯が何と奏上したものか悩んでいると、激昂した大司教が王の広間に現れた。
「ローザンを? 何故じゃ?」
「ガレリアの民は、レーヴェの娘をさらったのは神殿と誤解しております! 魔導士の仕業と証て、あの者に失策の責を負わせてください!」
「ならぬ。ローザンはおもしろい術を使う。レーヴェの娘をまた作れるやも知れぬ」
「あんな小娘に、何故、陛下は執着されるのです! ディアナ王弟の婚約者といっても、サリアごとき田舎の王女ではありませぬか!」
「田舎の王女、なあ……」
ふふっとカルロの言葉に、ヴォイドは玉座で笑った。
(不肖、薔薇の姫として、私はフェリス様をお守りするのです!)
なんて愚かな、なんて無謀な子供だろう。
しかも守るだと?
リリア神殿を破壊して、涼しい貌をしている男を?
大の大人の名うての魔導士たちが地べたに張り付いて、歯の根もあわぬほど震えて怯える男を、あんな子供が守るだと?
どんな料簡なんだ?
(フェリス様はお人よしなので、人を助けているあいだに、ご自分が危なくなりそうで心配で……)
お人よし。
頭はよさそうに見えたが、あの娘は、少し、言葉を学び直したほうがいい。
何をどうしたら、あの氷のような美貌の男がお人よしに見えるのだ、あの娘には。
女など、いや人など、しょせん、土壇場では強いものに靡くしかない生きものなのに、あの娘ときたら、
良人のフェリスが助けにくる以前から、傲然とヴォイドを拒絶したのだ。
あんなちびの癖に!
あの強さは、あの黄金の輝きは、何処から来るのだ?
それはあの娘自身の強さなのか?
それともあの神に似た男が与えた強さなのか?
(生憎、僕はヴォイド陛下にも、王権簒奪にも世界征服にも、まったく興味がない。僕は怠け者の引き篭もりの薔薇園の領主だ)
フェリスは、十三、四歳の頃から、大人びて、何にも興味を抱かぬ少年だった。
うまく篭絡させようと、美女を贈ろうと、美しい男を贈ろうと、まったく興味を抱いてなかった。
ただ迷惑そうだった。
ヴォイドの甘言にも、あまたの美男美女にも、財宝にも、何の興味も抱かなかった。
生まれたときから、ディアナの王子なのだから、他愛ないものには興味はないのかも知れないが。
(玉座も、世界も、僕の手には余ります)
違う。
手に余ると思っているのではない。
べつにそんなもの欲しくないのだ、あの男は。
王家に生まれた王子ならば、玉座に欲があってしかるべきだろうに。
あるいは、玉座に欲などなくても、王位を獲らねば、命を脅かされるのが常だろうに。
王女はまだしも、王子の美しさなど何の役にも立たない。
むしろ、必要もないのに、妙に目だてば、殺される。
宮廷とは、そのような場所なのだから。
幼い頃、何の罪もないヴォイドの優しい二番目の兄が、王位を望むものの手で、無残に殺さたように。
優しさも、美しさも、慈愛も、誠実さも、何の役にも立たない。
殺されたくなければ、相手を殺すしかない。
それなのに、あのフェリスやレティシアの清廉さは何だろう?
同じ汚泥に塗れて育とうとも、この世には穢されぬものもあるとでも言うのだろうか?
「推しの解釈違いです! ちびではありません!」(fromレティシア)
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『五歳で、竜の王弟殿下の花嫁になりました@COMIC』コミカライズ三巻表紙
『五歳で、竜の王弟殿下の花嫁になりました@COMIC』コミカライズ連載