竜王陛下の愛娘は、竜の神の神殿を歩く
「……フェリス様、素敵です! 見てください、あの竜王陛下! ああ、あちらも素敵!」
「レティシア、首が痛くなっちゃうよ」
レティシアはレーヴェ神殿を見学したいとお願いして、フェリスに付き合ってもらっていた。
神官さん達にも案内して頂いたのだが、もうちょっとゆっくり、あちこちにおいでになる竜王陛下にきゃあきゃあ言いたかったのだ。
フェリス様似の美貌の竜王陛下の肖像画や彫刻もたくさん祀られているが、何と言っても総本山なので、
それは見事な『竜』の絵や彫刻が多い。
「おおきいです、フェリス様! 竜王陛下、おおきいです! 私がときどきお逢いする金色のドラゴンさんがとってもちいさく想えます……!」
金色のドラゴンさんは見るからに子供の竜という可愛い様子なのだが、大人の竜の竜王陛下は、広げた翼で人の建てた建物を覆いつくさんばかりに大きい!
「おいで、レティシア。……首を悪くしないように、翔ぼう」
「きゃ、フェリス様」
いつまでもいつまでも、レティシアが天井画の竜王陛下絵に見惚れていたら、フェリス様がレティシアを抱き上げて、飛翔して下さった。
「……わあ、竜王陛下が近くに!」
レティシアを抱いたまま、フェリスが魔法で飛翔して、天井画のもとへ近づく。
遠目に見ると、美しい天使が二体、何か地上の用事を終えて、天上の竜のもとに報告にでも行くようだ。
「フェリス様、フェリス様、近くで見れてとっても嬉しいですが、神殿内で、勝手に魔法を使って怒られませんか?」
雪のように白い頬を紅潮させてはしゃぎながら、レティシアが心配する。
「どうかな? あんまりやったことないけど、大丈夫じゃないかな? 普段、僕は優等生だから……」
「優等生。子供の頃、レーヴェ神殿でお勉強とかされました?」
「うん。神学の授業とかあった。神学て言っても、レーヴェの御言葉を読んだりだから、けっこう、よその宗派の神学よりは愉快だと思うけど……」
「竜王陛下の御言葉集、楽しいですもんね」
「レーヴェが自由過ぎて、たいがい、他国から来た留学生には驚かれるんだが、レティシアが気に入ってくれて何より……」
きらきらと、神殿の窓から春の陽光が入って来て、フェリスの金髪を照らす。
フェリス様、天使様みたい、とレティシアは麗しの我が推しに見惚れる。
「自由で、強くて、優しくて、竜王陛下、大好きです! ……さすが我が推し、フェリス様の御先祖様です!」
結局そこなのか、我が愛しの娘よ、とレーヴェが聞いていたら、大笑いしたに違いない。
「顔しか似てない子孫で申し訳ない……」
レティシアの手放しの大絶賛にフェリスは困って、天上の竜王陛下を仰ぐ。
ディアナの竜の神は、愛しい姫を乗せて、楽し気に、青空に遊ぶ。
「似てらっしゃいます、御気性も、考え方も」
にこっと、レティシアは微笑んだ。
「お話の仕方が違うだけで、フェリス様はときどき、竜王陛下の御言葉のような言葉を……」
「それは、僕の育て親の悪影響が……いや……」
フェリスがレティシアにちゃんと聞こない声でぼそぼそと言う。
王であっても、過ちがあれば、糺さねば、と語る人を、レティシアは、竜王陛下とフェリス様しか知らない(あ、あとフェリス宮の精霊さん)。
「その自由さや強さに、私は憧れるので、私もいつか、竜王陛下やフェリス様みたいに強くて優しい大人になりたいなーって……」
「……とても自由な男とも、強い大人とも言い難いけど、我が姫に憧れてもらえて、嬉しくて僕は空も飛べそうだよ」
「空なら、翔んで頂いてます、すでに」
フェリスがレティシアの額にそっとキスしたので、名匠の描いた天井画の見事な竜神様が、なんだよ、いったい、わざわざ二人でこんなとこまで近づいてきて、オレに見せつけに来たのか? と笑っていた。
昨日、一昨日、寝落ちして申し訳ない!
ほうぼうの不安はともかく、幸福に神殿デートしてる二人でした(笑)
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