氷の王弟殿下の心の動きについて
「無事終わってなによりでございましたね」
「そうじゃな」
ふうとマグダレーナ王太后は息を吐いた。何かと肩の凝る茶会だった。
「それにしてもマクシミリアン様はどうなされたのでしょう? あのような御方でしたでしょうか?」
「まことにな。もっとおとなしい男だったように思うておったが……」
マクシミリアンがマグダレーナの心にかかったことはない。
というか、この十七年、フェリス以外の者はさほど気にかかったことはない。
「それにしても美しゅうございましたね、時の魔法のかかったレティシア姫。あのフェリス様が御寵愛も納得というほどに……」
「……、……」
過ぎるほどに美しい娘はどうも苦手だ。遠い誰かを思い出させる。
ディアナの海のように美しい碧い瞳、いつも途方に暮れたようにマグダレーナを見ていた。
マグダレーナが殺したと疑われた娘、ステファンの心を奪った娘。フェリスの母イリス。
馬鹿馬鹿しい。何処も似てはいない。
フェリスの花嫁になるレティシアは琥珀の瞳で、何をも見逃すまいというように義母のマグダレーナを見ていた。
(フェリス様はいつもお義母様のことをきづかって……)
きのう今日サリアからやってきた娘が、何故、マグダレーナの義息子フェリスのことを語るのだろう。
十七年もつきあってるマグダレーナには、フェリスの心なぞ、わかった試しもないのに。
「マグダレーナ様。頂いたシュヴァリエのお茶を……」
茶会の客には、手土産としてシュヴァリエの薔薇の茶や化粧品が供された。
「薔薇の香りが……」
レティシアは薔薇の姫として、それらの品々を差配する女主人となる。マグダレーナが仕向けた結婚なのに、似合いの雛人形のように並んだあの二人を見ると、どうにも気分がよくないのは何故なのだろう。
「フェリス様は穏やかにおなりですね。レティシア姫を見守る御様子が別人のようで……」
「……マクシミリアンのことを少し調べさせよ。リリア僧に乗せられておかしな気をおこしても面倒じゃ」
「かしこまりました、王太后様」
フェリス宮とマグダレーナの円満を演出する茶会の首尾は上々。
なのに気は晴れぬ。
おかしな茶々を入れていたマクシミリアンが気にかかる訳ではない。
まるでアリシア妃を気遣うレーヴェ様の如く、一から十まで、雛鳥を抱えた親鳥のように、レティシアのことを気遣っていたフェリスの様子が、たぶん気に入らないのだ。
フェリスは、いつも、この世のどんな女人よりも、なさぬ仲のマグダレーナのことだけを気にしていたのに……。




