サリア王宮にて
「レティシアが何者かに攫われた?」
「すぐ戻ったらしいけど」
「どうやって?」
「……フェリス……殿が連れ戻したそうだ」
不満そうな弟のアレクが笑える。ちっともレティシアに優しくしなかった癖に、レティシアを掌中の珠みたいに可愛がっている美しいフェリス様とはりあうつもりなのかしら。
「レティシアなんて攫ってどうするのかしら?」
そのままレティシアが帰ってこなかったら、どうなったんだろう?
いなくなったレティシアの代わりに、アドリアナがフェリス様の花嫁に?
そう考えると、心臓の鼓動が早くなる。
サリア王女アドリアナは、レティシアの婚約者フェリスに叶わぬ恋をしていた。
「ガレリアの魔導士だか僧だかが、ディアナ国内で何かやってたらしくて、レティシアの婚約者フェリス殿はそれを暴いたから、ガレリアの魔導士に恨まれてるのでは、という話だけど……」
「まあ、正しいことをして恨まれるなんて、お気の毒なフェリス様」
お気の毒なのは攫われたレティシアなのだが、アドリアナとしては、フェリスに同情が向くらしい。
「姉さん、あの人はレティシアの婚約者だから、もうディアナ王弟に拘るのはよせと母様や父様に言われたんでしょ」
アレクが呆れたように言った。
「うるさいわね! お父様もお母様もおかしいのよ! 私にフェリス様のお嫁さんになれって言ってたのに、こないだフェリス様に逢って以来、すっかり態度を変えて……」
「まるで怯えてでもいるようだよね。あの人、レティシアのことで、父様や母様に何か言ったのかな?」
アレクも不思議な顔をしている。
アドリアナもアレクも、先日、レティシアとともにサリア王宮を訪れたフェリスと逢ったが、これといって怖ろしい様子はなかったのだが、両親は、何かひどく怖がっていた。
アドリアナにはよくわからないが、ディアナは大きな国だから、フェリスに何か言われると、両親二人は困るのかも知れない。
「フェリス様はレティシアに同情し過ぎなの!」
「同情ね……」
つまらなそうにアレクは姉の言葉に応じた。
レティシアが好きなくせに、アレクって本当に素直じゃない(意地悪ばかりしてたから、レティシアには毛虫みたいに嫌がられてたけど)。
「そうよ、同情よ! 愛なんかじゃないわ! フェリス様は五歳の時に母上を亡くされたのですって。だからレティシアに御心を寄せて親身になられて、と他国の令嬢方との御茶会でお聞きしたわ!」
何故僕と話したこともない令嬢方が僕の真意を覗けると? とフェリスが聞いたら不思議がったろう。
「愛なんてなくても結婚はできる。レティシアがディアナ王弟を好きだった訳でもない」
不機嫌そうにアレクが言う。
レティシアは強がっていたけれど、アドリアナが変わり者のディアナ王弟の話をしてからかうたびに、こっそり怯えていた。
あのときのアドリアナはなんて愚かだったんだろう! どうしてフェリス様の絵姿がサリアに届かなかったんだろう! それを見ていたら、レティシアをディアナに行かせたりしなかったのに!
「そうね、アレク。レティシアはきっとディアナでも無理してるわ。あんな風変わりなレティシアがフェリス様を好きになったりするはずがないわ」
アドリアナがそう言うと、弟も少し安心したような顔をしていた。
ああレティシアが何か大きな失敗して、アドリアナがフェリス様のところに行ければいいのに……!
両親には「フェリス様はやめときなさい」ととめられたけど、諦めきれないアドリアナ。
ちなみにフェリスは押しの強めな人はちょっと苦手(破壊神なのに草食系だから笑)
暑さのあまり倒れたら恐いと二日も夜すぐ寝てしまったので二日ぶりの更新です~
今月はブックライブの五歳で、竜@comicの先行配信はお休み。シーモア、ピッコマなど他社様では
五歳コミカライズ五話が8/1に更新されました。ちびフェリスにきゃわきゃわいってるちびレティシアが可愛い回です。レーヴェのうちわも可愛い(笑)




