魔法使いの十五歳の少年は、十七歳になり花嫁を娶る
「噂は恣意的に撒いていたものの、ディアナ人はノリが悪かったというのはいいね」
フェリスは暗闇の中で微笑みを浮かべる。
瘴気が渦巻いていて、それがレティシアに近づくのが嫌すぎて、家に強制返送してしまった。
レティシアには、帰ってから、怒られよう。
そもそもこんなところに連れて来るべきではなかったのだが、レティシアにも今回の件でとても迷惑をかけてるので、彼女の願いを無下には断りにくく……。
「ディアナ人はよそ者の話にはなかなか乗りません。ましてや竜王陛下の竜王剣とあれば。
たとえ真実でも、うるせぇ、勝手に俺たちの竜王陛下の愛剣の話してんじゃねーよ、帰れよ、
がありそうな話です」
「レーヴェの剣、か……」
噂の剣を、一度見ておきたいな、と思う。
いやでもかまわないほうがいいのか、義母上の安らかな御心のために。
レーヴェの剣で、いまは兄上の剣。
ディアナの大事な国守りの剣だ。
「リリア僧は、リリア神殿の意図で動いてるのか、ガレリア王の意図で動いてるのか……」
「ガレリア王は一時期、フェリス様に御執心でいらっしゃいましたよね」
「僕が期待に添わなかったので、いまや憎さ百倍かも知れない」
冷や飯ぐらいの王弟などしていると、要らぬ助力を申し出てくれる人が、国内にも国外にも多々いる。
それを想うと、義母上が日夜不安におかしくなるのも無理はないのかも知れない。
二年前「あなたこそ王に相応しい。フェリス王弟殿下、余の軍はいつでもあなたの力となる。」
とガレリア王から謀叛を誘われたことがある。
甘言に乗れば、ディアナをガレリア王に売るようなものだ。
フェリスがいくら義母上の苛めに日々辟易していても、そんな気になる筈もない。
レーヴェ似の天才少年と囃し立てられたとて、しょせん大した後ろ盾もない十五の少年。
鬱屈も溜めていて、容易くこちらの思い通りにできるはずだ、と侮られたのだと思う。
無論、フェリスは断ったのだが、「何故だ? 愛しいディアナが欲しくはないのか?」と不思議がったガレリア王の顔が忘れられない。どうしてあんな他人から、我らの大地を、我がディアナを貰う必要があるのか。ああ、思い出しても腹が立つ。
世界はもちろん、うちのレティシアみたいに、綺麗な成分だけでは成り立っていない。
(汚いものが溢れかけたときに、たまに綺麗なものを見つけては、癒されるくらいの配分だ)
そんな個人的に不愉快な経緯もあるので、ガレリア王の動向は気にかけていたし、リリア僧の動きも牽制していたのだが……。
「捗々しく進まなかったものの、風説の流布は、陛下への民の不信を募らせて、僕と陛下との不仲が望みとはな……」
この瘴気は何処から来るんだ? 何かおかしな違法な香でも焚いてるのか?
と、老朽化している建物の地下へとレイとフェリスは降りている。
「それにしても、こんなに易々と僕達に侵入されていいのか? ここには結界を張れるほどの魔術師はおらぬのだろうか?」
他人事ながら、不用心だな、とフェリスは思う。
ちなみに、フェリス居住の邸の類は、そこまでしなくても……くらい防御の呪文がかけてある。
「お忘れかも知れませんが、我が主様はディアナで最高峰の魔導士でいらっしゃいます。ディアナでフェリス様がお行きになりたい場所に、誰がどんな結界を張っていようと無意味かと」
淡々とレイは褒めるともなしにフェリスを褒めている。
我が家の当主が性格に似合わず、最強の魔法の使い手でなければ、レティシア姫の同伴など、危ないので絶対に反対する。
「そうかな? でも僕の魔法はどちらかというと、戦闘用より探究用だから……」
少年のころ、わからないことだらけのこの世界の秘密が少しでもわかればいいのにな、と魔法を学んでいた。
いまも何も世界の謎など解き明かせてないけど、魔法とともにあるときは、言葉の通じる友とともにあるようで、フェリスは少しは呼吸がしやすい。
レティシアをおうちに帰したので安心してるフェリスとレイでした笑
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