薔薇水は甘い
「シャンパンは? レティシア」
王弟殿下の手の華奢なフルートグラスのなかで、シャンパンが金色の泡を立てている。
何でも絵になるフェリス様が持ってると、
シャンパンもとっても高貴に見えて、美味しそうだ。
とはいえ、レティシアは、
いまはとても小さい身だし、
日本時代の妙齢?の二十代の娘の雪だったときも、
シャンパンの味なんてわかった試しがない。
優雅なお金持ちは、
ビールでなくお洒落なシャンパンで乾杯するらしい?
くらいの認識だ。
ビールも苦いから苦手だけど。
あ!
もしかして、
レティシアのちいさいボディは、
西洋風の王国生まれだから、
シャンパンやワイン好きの遺伝子を受け継いでるかも?
「私の可愛い花嫁に」
「麗しのフェリス殿下に」
フェリス様がレティシアに乾杯してくれたので、
レティシアもシャンパンのグラスを持って、
フェリス様の幸福を祈る。
我ながら、
本で読んだことしかないような言葉がすらすら出てきて、
それがちっともお世辞じゃないのが凄い。
「……美味しい?」
「あまり、わかりません」
シャンパンを一口舐めてみたレティシアは、首をかしげる。
うーん。
アルコール好き遺伝子は受け取ってないか、
まだ目覚めてないのかも。
「もう少し大人になってからかな。いまのレティシアには、薔薇水のほうが口にあうかも?」
「はい」
薔薇水は、
可愛い名前からして、シャンパンより楽しみだ。
転生して気が付いたけど、
王族や貴族ってよく食べる。
全員、太らないのが不思議なくらい。
それにしても
アフタヌーンティて
日本でも流行ってたから
行ってみたかったんだよね。
平日の昼下がりとかにやってて
会社から帰るのが遅い社畜の雪には夢だった。
ありがとう、神様。
こんな美貌の王子様付きでアフタヌーンティの夢、叶えてくれて。
仲良しの女の子同士の女子会が夢だったけど
風変わりな美貌の王弟殿下でも文句言わない。
「いい香りです」
シャンパンは金だけど、薔薇水は淡いピンク。
グラスが並んでいると、お互いの色が映える。
「薔薇水は東方から伝わったのだけれど、ディアナでも女性を中心に広く愛されてね。
いまでは薔薇の谷で、多くの人々が千も万もの薔薇を育てて加工品を作り、生計を立てるまでになった」
遠い東方の国から伝わったのかあ。
交易の盛んなディアナらしい話だなあ。
「甘い」
シャンパンの後のせいか、大人っぽい味を想像してたら、
薔薇水は、うんと甘かった。
「ああ。じゃあそれは、花嫁さん用に甘くしてあるんだね。甘くないのもあるんだよ。美味しい?」
「美味しいです」
美味しくて、思わず笑顔が浮かぶ。
やっぱりこう、いろいろ緊張してるせいか、
甘いものに凄く癒される。
「気に入ったら、姫の部屋にも用意させよう。
飲むのとね、肌につけるものも」
「薔薇の化粧水的なものですか?」
嬉しいな。
これがお部屋にも。
とレティシアは瞳を輝かす。
「そう。綺麗なレティシアの肌には必要ないくらいだけどね」
「いえ。乾燥してたので…嬉しいです」
生まれ変わってとても若いので、お肌は艶々なのだが。
ここ数日、なんだか、肌がザラザラしていた。
「ああ。レティシアの国と、気候が違うからかも知れないね。
旅の疲れもあるだろうから、今夜は早く眠るといい」
「はい」
少なくとも。
昨夜よりは、ずっとよく眠れそう。
王弟殿下が、
レティシアが想像してたような怖ろしい人ではなかったので。
「好き」「趣味似てるかも」「面白い」「続き読みたい」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします。作者のモチベーションも上がりますので、ぜひよろしくお願いします。