美貌の婿殿の随身
「………」
フェリスが、フリーズしている。
いけない。
やはり普段慣れないレティシアの笑顔が変だったろうか。
全力の感謝を表したかったのだが。
「あ、あの、フェリス様?」
「可愛い」
ぽんぽん、と柔らかく髪を撫でられた。
「レイ、とんでもなく想定外の吉祥だ。どうしたものか。僕のお嫁さんがとても可愛い」
「想定外は余計です、フェリス様。姫君。我が主の感情表現の不器用さをお許しください。
これでも、我が主はとてつもなく喜んでいるのです」
黒髪の随身はレイと言うらしい。
なんだかボケとツッコミの漫才(失礼)主従というか…。
可愛いお二人だな。
いかにも浮世離れした印象のフェリス様には、
似たような年恰好の、しっかり者の若い随身がついてるようだ。
とレティシアは心にメモをとる。
「レティシア様が、とても可愛らしい方で、よかったですね。フェリス様、どんな方がいらっしゃるのか、怯えておいででしたから…」
「そうなんですか」
男の方も、お見合い結婚(?)の相手に怯えるものなのか。
王子様のほうが、正妃が気に入らなくても、寵妃とかもてるあたり、
王女やこの時代の女子達より、ずっといい気がするけど……。
「だって、十二歳も年上の、変人の爺さんのもとに嫁にやられるんだよ。僕なら病む」
それを言うなと言いたげに、美しい金髪にフェリスが半ば顔を隠す。
「どう見ても、爺さんには見えませんが……」
「相対的な評価としてね。そんな無謀な婚姻を、拒んであげられなかった自分の無力さにもうんざりしてた」
無力なのはお互い様だ。
人生の重大事に関して、選択の自由がなかったという点で。
「……でも、私は幸運だと思います」
正直に、レティシアは言った。
嘘はない。
「十二歳も年下の子供をおろそかにせず、ちゃんとお話をして下さる婿君を得られて」
中身には、二十七歳の雪の記憶もあるから、
十七歳のフェリス様より、何なら年上なのだけれど。
二十七歳の雪とて
恋愛や結婚経験は限りなくゼロなので、
そのあたりのスキルは五歳児と変わらないが。
あどけない五歳の姫に、
異国の残業に疲れた大人の娘の心が入ってるなんてことは、
レティシア以外、誰も知らない。
この状況で、押し付けられた 五歳の花嫁と、
ちゃんと話をしてくれる十七歳の美形の婿なんて、
どう考えても、そうそういない。
むしろ、フェリス様が変人でよかった。
レティシア的には、物凄くラッキーだ。
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