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十三番目の賢者  作者: 綾里悠
第五章 参謀の戦術 <前編>参謀の誕生
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参謀の戦術 #8


「まあ、とは言え、この世界について、サラにザッと説明しておいた方がいいよな。もう、ここに来ちまってるんだしなぁ。」


 と、言いだしたティオだったが、酷く渋い顔をしていた。

 ここでは、「嘘がつけない」という話だったが、それは、会話の内容だけでなく、思っている事もストレートに表情に出てしまうようだった。


「……ううっ……説明したくない!……」

「えー!? な、なんでよぅー! そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃーん!」

「いや、だって、サラ、お前……ちょっと話が難しくなると、理解しようという努力をすぐ放棄するじゃんかよー。俺がせっかく一生懸命説明しても……『ゴメーン、全然分かんなかったー。』って言いそうなんだよー!」

「言わない!……たぶん、言わない。言わないようになるべく努力するからー。ちゃんと頑張って聞くからー。……とりあえず話してみてよ、ね、ティオー。」

「……分かった。全然気が進まないけどなー。」


 そう言って、ティオは、しぶしぶ語りだした。



「まず、俺達が生きているこの世界についてだが……」


「実は、この世界は、三つの世界が重なり合って出来ている。」


「『物質世界』『精神世界』そして『魂源世界』の三つだ。」


「三つの世界の事を『小世界』と呼び、三つの世界が重なり合って出来ているこの世界の事を『大世界』と呼び分ける事もあるが……まあ、一般的に『世界』と言ったら、三つの世界を合わせた『大世界』の事だな。」


「まず、『物質世界』について、話をすると……『物質世界』というのは、サラも良く知ってる、いつも生活している『現実世界』の事だ。人間が普通に感じ取れるのは『物質世界』の事だけで、それが世界の全てだと思って生きている人が大半だ。と言うか、99.999%の人間がそう思って生きている。……それが、今の『新世界』だ。」


「サラも、かつてこの世界は『世界大崩壊』と呼ばれる危機にあった事があるって話は知ってるよな?……まあ、ザックリ言うと、なんやかんやあってこの世界は一度滅びかけたが、ギリギリの所で持ちこたえて、再生した。ところが、新しく再生された世界は、それまでの世界、『旧世界』とはすっかりあり方が変わっていた。」


「それまでこの世界に隆盛を極めていた『古代人』は皆『魔法』の力が使えたが、『世界大崩壊』以降の新しい世界に生まれた『現代人』は、全く魔法が使えなくなっていた。その代わり、『現代人』は自らの『肉体の力』によって、手や足を使って、新たに文明をここまで築いてきた。こういったいきさつから、古代文明の栄えた頃の事を『魔法の時代』と呼び、現代の事を『力の時代』と人々は呼んでいる。……という話は、世界中で語られているから、サラも知っているだろう?」


「しかし、この話は、実は、正確には微妙に違う。」


「実際は……古代魔法文明の栄えていた『世界大崩壊』前の世界というのは、今よりずっと『精神世界』に重きが置かれた世界だったんだ。『物質世界』ももちろん重要ではあったんだが、そうだな、人間の感覚は、『物質世界』半分『精神世界』半分で生きていたって感じか。」


「そして、『魔法』というのは『精神世界』由来の力だ。だから、古代人は誰でも当たり前のように『魔法』が使えていた訳だ。」


「しかし、『世界大崩壊』以降、世界の構造や理がすっかり変わってしまった。『精神世界』の比重が著しく減少し、代わりにほとんどが『物質世界』の影響の元に成り立つようになった。さっき言ったように、99.999%以上を『物質世界』が占めるようになってしまった。いや、もっとかも知れないな。それぐらい、『新世界』と『現代人』は『精神世界』から縁遠くなってしまった。」


「その結果、当然、『現代人』は『魔法』が使えなくなった。そして、その代わり、『物質世界』由来の『肉体の力』が発達した。……まあ、今、普通に『力』って言ったら、この『肉体の力』を指すよな。」


 サラは、そこまでティオの話を聞いて、ハッと思い出して言った。


「あ! そう言えば、今日の夕方、アンタに言われたっけ! 私は『力』が凄く強いって!……それは、えっと、『肉体の力』の事だよねー? じゃあ、私の異能力っていうのはー……」

「そう、サラの異能力は『肉体の力』つまり、今で言う所の『力』に特化しているものだな。」


「だから、圧倒的に『物質世界』の比重が大きくなった『新世界』、現代において、サラの異能力はとても強力なんだよ。」


「サラは、まさに、『力の時代』の申し子と言ってもいい。」


 ティオの言葉を聞いて、サラは嬉しそうに「エッヘン!」と、腰に手を当て思いっきり胸を張った。



「さて、『物質世界』については、こんなもんでいいよな。まあ、簡単に言うと、今までサラが見たり聞いたり触ったりしてきた普通の世界の事だ。」


「問題は、残りの二つ、『精神世界』と『魂源世界』だな。この二つの世界については、サラも今日初めて聞いただろう? 今の『新世界』に生きている人間のほとんどが、聞いた事もない世界だと思う。更に、この二つの世界を『知識として知っている』のではなくて『知覚出来る』人間は、もっと少ないだろう。まず、この『新世界』には居ないと言っていい。」


「『魂源世界』については、実は俺も良く知らないんだ。俺も『それが存在する』という事を、あくまで『知っている』だけだからな。実際に感じ取った事はないんだ。」


「おそらく、生きている人間には感じ取れない世界だと思われる。生きている人間は『物質世界』に『肉体』を持っているからな。『魂源世界』は『物質世界』とは、その性質が遠く離れ過ぎている。『肉体』を持った状態の生きた人間が感知出来る場所ではないらしい。逆に言えば、人間は『肉体』が死ぬと、『物質世界』の縛りから解き放たれ、みな自然と『魂源世界』を最も強く感知する事になる。」

「死後の世界? あの世っていうヤツー?」

「まあ、世間一般で言うそういう所かな。」


「『肉体』の死を迎える事で『魂源世界』だけを感知するようになると、人間はその状態である一定の時間を過ごすらしい。その後、また『物質世界』に新たな人間として生まれてくる、という話だ。……生まれたばかりの赤ん坊として、この『物質世界』に生を受ける。つまり『肉体』を得て『物質世界』の影響を強く受けながら、また一生を生き、死ぬと『肉体』を失って『魂源世界』の影響下へと戻る。それをぐるぐると繰り返している。」


「この輪のように循環する流れが、いつまで続くのか? 永遠に繰り返されるものなのか? それとも、ある時終わりが来るものなのか? 終わったとしたら、どうなるのか?……それは俺にも分からない。ただ、間違いなく『魂源世界』は存在していて、この世界の重要な一部である事は揺るぎない事実だ。」


「えー? ちょっと待ってよー。ティオにも、その『魂源世界』は感じ取れないんでしょー? なのに、なんで、『魂源世界はある!』って、言い切れるのー? どうして、そんな事知ってるのよー?」

「それは、書いてあった……ゴホンゴホン!」

 ティオは、うっかり喋りそうになり、慌てて空咳をして誤魔化すと、何事もなかったように涼しげな顔で言った。

「企業秘密だ。」

「あー! また、秘密だー! もう、ティオってば、秘密秘密、内緒内緒、ダメダメダメ、ばっかりー! 教えてくれてもいいじゃーん!」

 サラは、背伸びをして睨みながら、ティオの胸をポカポカ叩いてみたが、やはりティオはのらりくらりと答えをはぐらかすばかりだった。


「まあ、俺にはいろいろあるんだよ。それで知ってる。全てではないけどな。」


「とにかく……内緒だ!」



「じゃあ、最後に、今俺達が居る『精神世界』について説明するな。」


 そう言いだしたティオに、サラは、「ハイ!」と元気良く手を挙げた。


「ん? どうした、サラちゃん?」

「ここ、本当に夢の中じゃないのー? その『精神世界』とかなんとかっていうヤツなのー?」

「そうだぜ。……サラも、普通に夢は見るだろう? そのいつもの夢とは、ここは何か雰囲気が違うだろう?」

「あー、うん、確かにー。」


 サラは、普通の夢に紛れて、時々「何もない夢」を見ていた事を思い返した。

 「何もない夢」とサラが呼んでいたそれは、どこまでも何もない空間に、ただサラの存在が意識と共に浮かんでいる、そんな夢だった。

 昨日の夜、その「何もない夢」の中に鎖があるのに気づくまで、サラにとってこの、自分以外は何も存在せず、なんの変化も起きない夢の中に居る時間は、酷く退屈なものだった。

(……これって、夢じゃなかったのかぁー。……これが、『精神世界』ー? なんか、何にもなくって、つまんない所だなぁー。……)

 サラは、とりあえずティオの説明を聞いてみる事にした。



「『精神世界』は『物質世界』とは、本当は表裏一体の世界なんだ。」


「まあ、さっきも話した通り、この『新世界』では『物質世界』の割合が極端に大きいからな、現代ではこの『精神世界』の存在はすっかり忘れ去られてしまっている。この世界を感知出来る人間も、ごくごく僅かだ。」


「この『精神世界』は、言うなれば、『意思』の世界だ。意識、心、イメージ、そんなふうに言ってもいいかもしれない。ここでは、『物質世界』と違って、全てが『存在』と『意思』だけで構成されている。」


「さっき、この『精神世界』では『嘘がつけない』って言っただろう? ここは『意思』の世界だから、自分の『意思』に反した言動は不可能なんだ。嘘をつこうと思っても、つい本音が出る。ただし、『隠したい』と思っている事を、隠す事は出来るけどな。」


 ティオは、辺りを見回したり、自分の姿を指で刺したりしながら、更に解説してくれた。


「人間は『精神世界』において、各々『精神領域』を持っている。」


「まあ、『物質世界』における『肉体』が『精神世界』における『精神領域』だと思っておけばいい。」


「『物質世界』との違いは……この個人個人が持っている『精神領域』は、余程の事がない限り干渉し合わないって事だ。」


「例えば『物質世界』においては、道で誰かとすれ違う時にうっかり肩がぶつかる、なんて事がままあったりするが、この『精神世界』においては、そんな事は決してない。」


「他の人間の『精神領域』に入り込んだり干渉したりするには、『入り込む』『干渉する』という確固たる意思を持って、特殊な方法を取らない限り不可能だ。……そうだな、まあ、強引にやってやれない事じゃないが、相当難しいからほぼ無理って感じか。」


「だから、うっかり偶然に、気づかない内に、他人の精神領域に入り込んでしまった、なんてのはありえないんだよ。」


「今回こうして、サラと俺が、精神世界で会って話をしてるのは、相当稀な事象だって事だな。」


「そうそう、普段は、この『精神世界』にそれぞれの人間の『精神領域』が一つ一つ独立して別個存在しているんだ。……そうだな、例えるなら、広い海の中に、点々と無数のクラゲが浮かんでるみたいな。あっと、サラは、海って見た事なかったんだっけか? クラゲって知らないか?」


「まあ、とにかく、『精神領域』は各自固有のもので、他人の『精神領域』を感知する事もないし、『精神領域』同士が接触する事もない。まして、他人の『精神領域』に『精神体』で入り込むなんて、普通なら万に一つもあり得ない。」


 サラは、ティオの言葉に大人しく耳を傾けていたが、ふと気になった事があって、顔をしかめた。


「……えっとー、ここって、確かティオの『精神領域』なんだよねー?」

「そうだぜ。本当なら、『精神世界』にある、誰も入ってこれない俺だけの場所だ。」

「『精神領域』って、普段の、えっと、『物質世界』での自分の体みたいなもんなんでしょー?」

「ああ、その通りだ。」

「えー! じゃあ、私は今、ティオの体の中に居るようなもんだって事ー? 何それ、ヤダー! 気持ち悪いよー!」

「……サラ、お前なぁ。」


 精神世界に居るせいで、いつも以上に露骨に、サラの声や表情には嫌悪感が滲み出ていた。

 自分の腕を自分で抱えるように押さえて身震いするサラの姿を前に、ティオは眉をひそめてため息をついていた。


読んで下さってありがとうございます。

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☆The 13th Sage ひとくちメモ☆

「精神世界」

世界(大世界)を構成する三つの世界(小世界)の一つ。

存在と意思だけの世界である。

サラがずっと「何もない夢」だと思っていたのは、精神世界だった。

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