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十三番目の賢者  作者: 綾里悠
第三章 宝石を盗む者
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宝石を盗む者 #7


「ええっ!? 予告状が届いた方の屋敷の宝石も盗まれたの!?」

 サラは、ビックリして、思わず大きな声を上げていた。


「そうなんスよー。どうやらヤツは、相当周到に仕組んでいたらしいッス。」

「だから、結果として、予告状通りに宝石を盗んだ事になるんですよね。」



 ピピン兄弟の話の内容を整理すると、こうだった。


 まず、宝石怪盗ジェムは、街のとある金持ちの屋敷に予告状を出した。

 内容は『明日の夜、あなたの屋敷にある宝石を頂きに参ります。』といったものだった。

 それを受けて、屋敷の主人は街の警備隊に通報し、警備隊は当日の夜には屋敷の周囲、内外に、蟻一匹通さない程の厳しい包囲網を敷いた。

 そして、今か今かと、怪盗ジェムが屋敷に保管された宝石を盗みにやってくるのを待ち構えていた。


 当日の夜、まずジェムは、予告状とは別の、王城を挟んで街の反対側にある金持ちの屋敷に現れた。

 予想通り、予告状の効果で、街の警備隊の姿は辺りになく、屋敷の私兵による警備も手薄な状態だった。

 そこでジェムは、屋敷の裏手で、高い塀を乗り越えられずに困り果てているピピン兄弟を見つける事になる。


 ジェムにしても、まさか自分の予告状にあやかって、警備の甘くなっている他の屋敷に盗みに入ろうとしている泥棒が居ようとは思ってもいなかっただろう。

 放っておいても良かったのだが、多少の打算と気まぐれにより、彼らに声を掛けた。

 全くのど素人である彼らを手伝って、屋敷を囲っている高い塀の上まで連れていった。


 しかし、親切もそこまでで、ジェムは塀の高さに怯えて身動きの取れなくなっているピピン兄弟をその場に残し、一人颯爽と立ち去った。

 元々、警備の手薄になっているその屋敷に忍び入って、目的の宝石を盗む予定だったのだろう。

 そして、その目的を難なく完遂する。

 予定と違ったのは、塀の上に登ったままのピピン兄弟が、屋敷の警備をしていた兵士の注目を一身に集めてくれた事だった。

 ピピン兄弟を見つけた時に、彼らには自分の目的遂行のために囮になってもらおうというシナリオを即興で思いついたのかもしれない。

 もちろん、ピピン兄弟がその場に居なかったとしても、ジェムは警備の甘い屋敷から難なくお目当の宝石を盗み出していただろうが。


 兵士に捕まったピピン兄弟が、「もう一人男が居て、屋敷に忍び込んだ!」と騒いだ事により、屋敷の宝物庫が調べられる事になった。

 そして、実際に家宝のエメラルドが盗まれている事実が発覚する。

 慌てて屋敷の人間が、予告状の屋敷を守っていた街の警備隊に連絡を入れた事で、「ジェムに一杯食わされた!」と怒り狂った警備隊員達がドッと盗みのあった屋敷に押し寄せてきた。

 総出で屋敷の内外、周辺をくまなく探し回ったが、ジェムの姿は既にどこにもなかった。


 それもその筈、ジェムはその頃、とうにエメラルドを盗み出した屋敷から離れ……

 なんと予告状を出した方の屋敷に来ていたのだった。

 それまで屋敷の周りを厳重に警備していた街の警備隊は、今はエメラルドが盗まれた屋敷の周囲を必死に探し回っていた。

 「騙された! 予告状を出した方の屋敷には、ヤツは初めから盗みに入るつもりなどなかったんだ!」そう思い込んだ街の警備隊は、ごっそりと予告の屋敷から引き上げてしまっていた。

 当の屋敷でも、「もう大丈夫だ。」と安心しきって、主人から使用人までほとんど眠りについていた。

 そんな、完全に警戒の緩んだ所に、ジェムは悠々と忍び込み、宝石を盗んでいったのだった。


 その事実を屋敷の人間が知ったのは、翌朝になってからの事だった。

 絶対に開かないようにと、宝物庫の扉にいくつも取りつけた鍵を、不便なので何個か取り除こうとした時に、一応中を確認して……

 大事な宝石が盗まれている事に初めて気づいた。

 見事な銀細工のブローチから、中央のサファイアだけが抜き取られており、その他の財宝には一切手がつけられていなかった。

 宝物庫を施錠していた頑丈な鍵の数々も、宝石を盗み出した後は、何事もなかったように綺麗に全て閉められていた。


 誰にも気づかれずに侵入し、鍵を開け、目的の宝石だけを盗み出したのち、また元のように鍵を閉めて立ち去る。

 まさに、今まで何度も繰り返されてきた、宝石怪盗ジェムの盗みの手口そのものだった。


「や、やられた!!」

 予告状が届けられていた屋敷の主人は顔面蒼白となり、未だ見当違いの場所を草の根を分けて探し回っている街の警備隊の元に、怒り心頭で怒鳴り込んだ。

「ま、まさか、そちらの屋敷まで盗まれるとは!」

「しまった! ヤツの狙いは、別の屋敷が狙われたと思わせて俺達を元の屋敷から引き離す事だったのか!」

 まんまと二つの屋敷から宝石を盗まれてしまった警備隊は、愕然となったが……

 もはや、全ては後の祭りだった。



 おそらく宝石怪盗ジェムは、予告状を出していない屋敷に盗みに入った後、すぐに騒ぎを起こして、宝石が盗まれた事を知らせるつもりだったのだろう。

 例えば、ピピン達の元に兵士を呼んだように、暗がりを利用し使用人の振りをして「不審な人影が屋敷の中に!」と叫べば、一応宝物庫を確認する流れになるだろう。

 そして、宝石が盗まれている事が発覚し、大騒ぎになり、予告状の届いた屋敷を警備していた街の警備隊が大挙して押し寄せてくる。

 そうして、今度は手薄になった予告状を出した方の屋敷に忍び込み、目的の宝石を頂く……そんな段取りだったに違いない。


 この計画で重要なのは、一つ目の屋敷に盗みに入った後、なるべく早く宝石が盗まれた事実を周囲に知らせる事だった。

 何しろ、ジェムが普通に盗みに入ったのでは、手口が鮮やか過ぎて、しばらく誰も気づかない恐れがある。

 予告状の屋敷を守っている街の警備隊が、こちらの屋敷に駆けつけてきてもらわなければ困るのだ。


 ところが、ここでジェムに思わぬ助っ人が現れた。

 それは、一つ目の屋敷に盗みに入ろうとしていたピピン兄弟だった。

 ジェムは、少しばかり彼らの手助けをしたのち、彼らを囮にして騒ぎを起こすという方向に計画を変更する。

 これが見事にはまり、ジェムは屋敷の警備をしていた私兵がピピン兄弟を捕まえている内に、楽々と宝物庫から宝石を盗み出した。

 更に、ピピン兄弟の証言により、屋敷の宝物庫が調べられ、家宝の宝石が盗み出されている事が分かって……

 後は、ジェムの思惑通りに事が運んだという訳だった。



 結果として、ジェムは、予告状を出した屋敷と、もう一つ別の屋敷の宝石を見事に盗み去っていった。

 盗んだ順序はともかくも、予告状に書いた通り、当日の夜、目的の宝石を盗んだのは間違いなかった。


 民衆は、ジェムのその鮮やかな手口に沸き立った。

 所詮は泥棒、犯罪者とはいえ、あまりにも卓越した技術と能力と頭脳の持ち主であるジェムは、人々から一種スターのような扱いを受けていた。

 一方で、散々ジェムに好き勝手に宝玉を盗まれた、貴族や富豪といった大きな屋敷の持ち主達、また、ジェムのせいで哀れな程権威が失墜した街の警備隊は、激しい憎悪をジェムに向ける結果となった。

 ジェムの首には宝石を盗まれた屋敷の主人達によって莫大な懸賞金が掛けられ、街の警備隊はより一層厳しく市中を取り締まったが……

 そんな反応を見越していたかのように、この夜を境に、パタリと、ジェムが街の屋敷に盗みに入る事はなくなった。

 おそらく、さっさと他の街に移ったのだろうと人々は噂しあった。


 こうして、宝石怪盗ジェムは、多くの謎を残したまま、誰の手にも捕まる事なく、忽然とその姿を消してしまったのだった。

 まるで、ジェムが盗んでいった宝石のごとくに。

 


「まあ、要するに……俺達のおかげで、ジェムはあの屋敷から宝石を盗めたって訳ですよ!」

「オイラ達のアシストがなかったら、あのジェムも、宝石を盗み出すのは不可能だったッスよねー、アニキー!」


「いや、お前らが居なくても、ジェムは、何の問題もなく目的の宝石を盗み出してたと思うぜ。」

 鼻高々で調子に乗るピピン兄弟を、至って冷静にボロツがたしなめ、二人はガガーン! と大袈裟な程ショックを受けていた。


「お前らの話からして、ヤツは相当身軽な上に盗みにも慣れてる。実際、どっちの屋敷の宝物庫にも立派な鍵が掛かってたってのに、いとも簡単に開けてやがるしな。しかも、力技で鍵をぶっ壊したんじゃなくって、盗み出した後は元のように鍵を掛けていったってんだから、相当な技量の持ち主だな。」

「盗まれないようにって、いっぱい鍵を掛けてるのに、全部開けていっちゃうなんて、厄介なヤツだねー。」


 サラも両手に持った木のカップのお茶を口に運びながら、うんうんとうなずいていた。


「予告状を出した屋敷のように、街の警備隊が何重にも警備網を敷いてても、ヤツなら盗み出せたのかもしれねぇな。ただ、どうしても強引にいく必要が出てくるから、姿を見られるぐらいのリスクはあっただろうな。……噂を聞いた限りじゃ、そういうのは、ジェムは嫌いなようだな。なるべく気づかれないように、極力警備の人間と揉めたりせず、人知れず盗み出して、風のように去る、か。」


 ボロツは、ピピン兄弟の経験談を良い酒のつまみといった感じで、面白そうに反芻しては、ジョッキのビールをあおった。


「……プハーッ!……それにしても、思ったよりおもしれぇ男だな『宝石怪盗ジェム』は。単なる金目当ての盗みは一切しないってのも気になってたが、たまたま会ったお前らを、気まぐれで助けてみたり、説教してみたり。俺も一度会ってみてぇなぁ。ハハハハハ!」

「わ、笑い事じゃないですよ、ボロツの旦那!」

「そうッス! オイラ達は、ヤツのせいで酷い目にあったんスよー!」



 金持ちの屋敷の高い塀の上で震えていた所を捕まったピピン兄弟は、しばらく牢屋にぶち込まれる羽目になった。

 その間、しつこい程何度となく取り調べを受けたが、役人が知りたがったのは、ピピン兄弟が今まで働いてきたこまごまとした盗みや無銭飲食の類ではなく……

 当然、彼らが出会った「宝石怪盗ジェム」についてだった。


 それもその筈で、今まであちこちの国や街でジェムの盗みの被害はあったが、彼の姿をまともに見た人間は一人も居なかったのだ。

 せいぜい、屋根の上を身軽に飛んで逃げていく黒い影を遠目に目撃した、程度の手がかりしかなかった。

 しかし、ピピン兄弟は、何と、そんなジェムを間近に見て、彼と話も交わしたのである。

 そんな二人から、搾り取れる限りジェムの情報を得ようと、役人達が躍起になるのも無理はなかった。


「……それはそれは、辛い取り調べでしたよ。なにしろ、毎日朝から晩まで、おんなじ事を繰り返し聞かれるんですからね。……」

「……ジェムジェムジェムジェム。もう、耳にタコが百個は出来たッスよー。……」


 能天気なピピン兄弟もさすがにゲンナリした様子で語っていたが……


「まあ、でも、仕方ないですね! なにしろ、俺達二人しか、ジェムを見た者は居ないんですからね!」

「へへへー! どうッスかー? オイラ達、凄いッスよねー!」


 有象無象のコソ泥二人にとっては、かの有名な宝石怪盗ジェムと出会った事は、やはり相当自慢であるようだった。


「でもよぅ、お前らが見たジェムの姿って……」

 と言うボロツの言葉に被さるように、ピピン兄弟は身を乗り出して代わる代わる喋った。


「ヤツは、足元まで隠れる長い黒のローブ姿で、目深にフードを被っていましたよ!」

「そうッス! 顔には仮面をつけていたっッス! バッチリ覚えてるッスよー!」

「いや、だから、それ、全く人物特定出来ねぇじゃねぇかよ。全然役に立たねぇよ。」


 ボロツに指摘され、ピピン兄弟はガクッと同時に肩を落とした。


「……そ、それ、役人にも言われました。……」

「……せっかくジェムに会ったのに、なんにも手がかりが掴めないなんてって、散々バカにされたッスー。……」



 結局、ピピン兄弟は、二ヶ月程で牢屋から出る事が出来た。

 連日熱心に事情聴取を行なっていた役人達も、これ以上彼らに何を聞いてもムダだと判断したらしい。

 元々のピピン兄弟のコソ泥その他の罪状についても一通り調べられはしたが、どれもはした金程度で、一々事件にする方が手間がかかると思ったのだろう。

 役人に捕まると、当然財産は没収されるが、二人には手持ちの銅貨数枚しか持ち合わせがない状態だった。

 適当に叱咤され「もう二度と泥棒はしません」といった内容の誓約書にサインをさせられたのちに、無事放免となった。


 そして、また元のように、フラフラとあてどなく流れる浮き草のごとくいろいろな街を渡り歩いている所に、ナザール王国の都で傭兵を募集しているとの噂を耳にし、頼りに船とやって来たという訳だった。



「許せねぇ、ジェムの野郎! アイツに会わなきゃ、俺達は捕まらずに済んだのによぉ!」

「今度会ったら、とっ捕まえて、ギャフンと言わせてやるッスよー!」

「この恨みは、絶対に忘れねぇからなぁ!」

「オイラ達を怒らせたら、怖いッスよー!」


「お前らの、そういうとこがダメだっつーんだよ。」

 ボロツが、飲んでいたビールのジョッキをトンとテーブルに置いて、ピピン兄弟をとうとうと諭した。


「いいか? お前らは金持ちの屋敷に盗みに入ろうとしてたんだろう? その同じ屋敷をたまたまジェムも狙ってた。まあ、たまたま一緒の屋敷を狙ってたのは、むしろお前達だがな。つまり、狙いはおんなじだった訳だ。どっちか片方がお宝にありつくって話なら、相手の足を引っ張るのは当然だろうが。……もしお前らが、ジェムの立場だったら、自分以外の誰かが盗みに入るのを、助けようと思うか?」

「そんなの、助ける訳ないじゃないですか! お宝は俺達のもんなんですから!」

「そうッス! 早い者勝ちッスよー! なんでオイラ達が商売敵を助けなきゃなんねぇんスかー?」

「ほらな。それが普通だってんだよ。騙したり騙されたり、足を引っ張り合ったり出しぬき合ったり、それが悪党の流儀ってヤツだ。要するに、妨害なんてお互い様なんだよ。……ジェムは、確かに、ちょうどよくお前ら間抜けどもが居たからちょっと利用したが、別にそれは流儀に反する事じゃねぇだろうが。」


 サラは、ボロツの語る「悪党の流儀」とやらはさっぱり理解出来なかったが、まあなんとなく、ピピン兄弟よりボロツの方が筋の通った生き方をしているのは感じられた。


「って言うかな、ジェムは、塀にも登れないお前らを、なんの気まぐれかは知らねぇが、手助けしてくれたんだろう? その点は感謝しとけよな。……別に、お前らが塀に登れないでモタモタしてるその時点で、警備の兵士を呼んだって良かったってのによ。まあ、俺ならそうするな。ジェムってのは、悪党のくせに変わり者だよな。」


「たとえ悪党でも、受けた恩義は忘れちゃならねぇ。人から何かしてもらったら、感謝の気持ちを持つ事だ。」


「それを忘れたら、俺達は、もう、悪党でもねぇ。ただの『外道』だ。」


「俺達みてぇな普通の生活が出来ねぇ半端者が悪党になっちまうのは、まあ、ある意味仕方ねぇ所がある。でもな、悪党にはなっても、『外道』にはなるなよ、お前ら。『外道』になっちまったら、人として終わりだぜ。」


 今まで日陰の道を一人で歩いて生きていたボロツの、経験から出る重みのある言葉に、ピピン兄弟も頭を垂れてしおらしく聞き入っていたが……


「それにな、俺が思うに、ジェムに会わなくても、お前らどの道捕まってただろ。屋敷の塀もろくに登れねぇんだからよ。」

「あっ! それは言わないで下さいよ、ボロツの旦那!」

「か、勘弁して下さいッス、ボロツの旦那!」

「お前らみたいなヘナチョコじゃあ、どうせいつかはお縄になってたぜ。ケガがなかっただけ良かったじゃねぇか。」


 痛い所を突かれて慌てるピピン兄弟を尻目に、ボロツはガハハと豪快に笑ってビールをあおった。



 サラも、気になっていた事を最後に二人に尋ねてみた。


「それで、二人は、もう盗みはやめたんだよねー?」

「もちろんですよ、サラ団長!」

「オイラ達も、あの事件があってから、ちゃーんと反省したッスよー!」


「もう、金持ちの屋敷には絶対に入りませんよ!」

「コツコツと小さい店や家を狙うッスよー!」

「俺達には、その方が合ってると思うんですよ! やっぱり、身の丈に合った生き方ってものをしなきゃダメですよね!」

「もう無茶な冒険はしないッスー!」


「……いや、まず、泥棒自体をやめてよー。……」

 全く懲りていなさそうなピピン兄弟を前に、サラはハーッと肩を落として大きなため息をついていた。


 

「ジェムにも、こういう事は向いてないって言われたんだろ? ズバリ当たってんじゃねぇかよ。もし、今度ジェムに会う事があったら、ちゃんと礼を言っとけよ。」


 ボロツは、ピピン兄弟に話しかけて、ふと気がついたようだった。


「ああ、そうか。会ったっつっても、お前ら、ジェムの本当の姿を見てねぇんだよなぁ。それじゃあ、万が一もう一度会う事があっても、誰だか分かんねぇよなぁ。」

「そ、そんな事ないですよ! あれだけ強烈な印象のヤツなら、顔を知らなくたってすぐに分かりますって、絶対!」

「そうッス、そうッス! 声とか、仕草とか、雰囲気とか! と、とにかく、ピンとくるに違いないッスよ、絶対!」


「……あのう……」

 両手の拳を握りしめペッペと唾を飛ばして意気込むピピン兄弟に、そうっと声を掛けてくる者があった。


「ピピンさん達、お茶要りませんかー? いっぱい話して、喉が乾いてるんじゃないですかー?」

「お! ティオじゃねぇか!……ちょうど何か飲みたいと思ってたんだよなぁ。おう、お茶くれよ!」

「オイラもオイラも!……ティオは、なかなか気がきく新入りッスねー。」

「そうそう、俺達みたいな大先輩には、これからもちゃあんと気を使うんだぜ、ティオ。」

「まあ、新入りらしく大人ーしく言う事聞いてたら、悪いようにはしないッスよー。」


 ティオを前に、ここぞとばかりに先輩風を吹かせて威張り散らすピピン兄弟だった。


 ティオは、ピピン兄弟がササッと差し出してきた木のカップに、手に提げた鍋からお茶を注ぎながら……

 いつものように掴み所のないヘラヘラとした笑みを浮かべて、ペコペコ頭を下げていた。


「はい。これからもよろしくお願いします。」


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