過去との決別 #134
ティオがドゥアルテに一々説明しなかったのは、彼の理解力では話しても無意味だろうと察していたというのもあった。
まあ、自分が赤チップ卓でプレーする事で、各プレイヤーの勝敗を操ると同時に、外ウマに賭けているボロツにサインを出して稼いでいた、という辺りの話は本当に語る事の出来ない秘密だったが。
また、ティオは、何も考えずにプレーすると異常な程勝ち過ぎてしまうので、賭博場を荒らしに来たプロのギャンブラーだと思われ、警戒されるどころか早々に店から摘み出された今までの経験から、最初は初心者を装ってそこそこに勝っていた……
という話も、ドゥアルテにした所で、彼の想像の範疇を超える事が予想された。
勝ち過ぎる客は、賭博場側にとって害になる。
この場所を利用して稼がせてもらっているのだから、場所を提供してくれている側にも利益になるように気を使いつつ勝つ必要がある。
常連客から再起不能に陥るまで金を搾り取ったりなどという行為を繰り返せば、確実に店の客が減り、店側にとって損害になる。
そこで、ティオは、程々に勝った所で次のターゲットに移り、ダメージを分散させ、しばらく日数を置けば回復してまた店に通い出す程度に収めていた。
もっとも、それにも例外はあった。
赤チップ卓で脱落していった地方の地主のように、もう歯止めが効かなくなっており自ら破滅してゆく者に対しては、多少勝っても特にティオの責任とはみなされなかった。
そして、ドゥアルテのように、常連客ではあるが、負けが混み過ぎて店側に多大なツケを溜めている者もそうだ。
ドゥアルテの現在の身辺状況から言って、ツケの回収はそろそろ難しくなってきている所だった。
また、ドゥアルテは、今までこの店で長い間豪遊を続けてきたために、好き勝手出来る自分の家のような感覚で横暴な言動が目立ち、他の客を不快にさせる事が多かった。
それでも、羽振りの良かった時には、ドゥアルテの傲慢さに耐えかねて去っていく客という損失よりも、彼が店に落とす大金と、景気のいい客が居る事で店の雰囲気が賑わういう利益の方が優っていたので、ある程度の行為には目をつぶっていたのだが……
落ち目になったドゥアルテには、ただ周囲への横柄な態度だけが残り、害の方が大きくなっているのが現状だった。
『黄金の穴蔵』側も、そろそろ不良債権と化したドゥアルテという常連客を切り捨てる事を考えていた事だろう。
つまり、もはや優良な上顧客ではなくなった、店に損害を与えるだけのドゥアルテは、ティオが食いつぶした所で『黄金の穴蔵』側から睨まれる事はないのだ。
ティオは、ドゥアルテから搾れるだけ金を搾り取りたい。
『黄金の穴蔵』側は、そろそろドゥアルテを店から追い出したい。
見事に、両者の利害は一致していた。
いや、ティオは、『黄金の穴蔵』側の腹づもりを良く理解しており、破滅に追い込む程金を搾り取っても構わない相手として、初めからドゥアルテに狙いを定めていた。
他の客には極力損害を与えず、一点集中でドゥアルテから金を奪う事で、『黄金の穴蔵』に睨まれないように配慮していたのだった。
それでも、赤チップ卓についてしばらくした所で、普段は店に顔を出す事のないオーナーが現れて、赤チップ卓のテーブルの置かれた壇上で自ら勝負の行方を見張り出したのだから……
それまでのティオのプレーを見て異常なものを感じ、オーナーに報告を上げた者が居た事は間違いない。
さすがはナザール王都一の賭博場である。
従業員の中に慧眼の持ち主がおり、常に客のプレーに目を光らせていたために、ティオの異質さを敏感に見抜いたのだろう。
オーナーが来て以降、ティオは特に注意を怠らないようにプレーしていた。
まあ、監視の目が厳しくなった状況下でも、外ウマに賭けているボロツに平然とサインで指示を出していたりもしたのだったが。
結果的に、ティオは、『黄金の穴蔵』側から注意を受ける事もなく、店から追い出される事もなく、最終戦まで漕ぎつけていた。
まあ、なんとか上手くやれている、とティオは自分のプレーを自身で評していた。
「……ハ、ハハ……勝つも負けるもお前の思い通りに出来るから、あの酷い負けもわざとやったってか。はあ、はるほどなぁ。」
ドゥアルテは、今まで多くの人間相手にしていたように見下すように鼻で笑って挑発してきた。
「じゃ、じゃあ、どうやって、そんなに思い通りに勝ち負けをコントロールしてるのか、そのお前の腕やら技やらを、俺に説明してみろよ。」
「……」
「ど、どうしたどうした? やっぱり口先だけか? お前が七回も連続でボーナスチップを取った、その方法を説明出来ないってのなら、俺はお前の話を信じてやらないぞ? お前は結局『運』で勝っているだけの嘘つき野郎って事になっちまうぞ。」
「……フ、フフ……」
「な、何がおかしい! 何を笑ってやがる? 気味の悪いヤツだな!」
思わずプッと吹き出したティオに、ドゥアルテは苛立ちと同時に混乱の様相を見せた。
ドゥアルテは、ティオが勝ち続けている事実を目の当たりにしても、彼の語った話が到底信じられずにいたが、もし本当なら、彼が勝っているその「方法」を探り出そうとしていたのだろう。
しかし、そんなドゥアルテの稚拙であからさまな企みに、当然ティオは気づいていた。
どのみち、懇切丁寧に解説した所で、ティオのプレーをドゥアルテに再現するのは不可能であるどころか、彼の知性では理解する事さえも難しい事態が予想された。
ティオは、口元に軽く握った手を当てて笑いを止めると、ドゥアルテに向かって、駄々をこねる子供をあしらうようにピシャリと言い放った。
「俺がどうやってドミノに勝っているか、ですか? そんな事、俺があなたに教える訳ないじゃないですか。」
「今、俺とあなたは、たった一つの勝利を奪い合っている敵同士なんですよ? そんなあなたに、自分の手の内を明かす程、俺はお人好しではありませんよ。」
「まあ、俺の話が嘘だと思うなら、どうぞご自由に。あなたにどう思われようと、俺は痛くも痒くもありませんので。」
「俺の目的は、あなたに気に入られて取り入る事ではありません。あなたの持っている金を、資産を、限界まで引き出し、搾り取り、奪い取り、あなたを破滅させる事だ。」
「ドミノは紳士のゲームですからね。こうしてテーブルについてプレーをしている間は、礼儀正しくありたいとは思っていますが、俺があなたの敵である事に変わりはありません。そこの所を、くれぐれもお忘れなきよう、ドゥアルテさん。」
「さて」と、ティオは、自分の謀略が全く通用せず呆然となっているドゥアルテに構わず、自分のチップ箱から一枚黒チップを取り出して、パチリとテーブルの端に並べていたチップの列の先端に置く。
一つ、また一つとチップの数が増え、徐々に列が長くなってゆくその様を視界に入れた事で、ドゥアルテは思わずビクッと体を恐怖で震わせていた。
「これで、七つ。……後、十三。」
「まだまだ、全部で20戦の内、半分も消化していませんね。先を急ぎましょう。次は、ドゥアルテさんの先攻です。そろそろ8戦目を開始しましょう。」
□
「八つ。……後、十二。」
ものの十分と経たず、ティオは再び、パチリと列の先端に自分のチップ箱から摘まみ取った黒チップをまた一つ並べていた。
(……強い、のか?……コイツは本当に、コイツ自身が言っているように、恐ろしく強いヤツなのか?……)
これまでの数々のマッチでは、自分の強さを対戦者や『黄金の穴蔵』側に気づかせないために、勝つ時はなるべくスルリと、相手の印象に残らぬよう、地味な打ちまわしをしていたティオだったが……
勝敗が決まるまで決して降りられないという念書まで作った最後の戦いとなっては、もう猫を被っている必要もなくなったために、そのゲームプレーからは一部のムダも隙もない鮮烈な気配が漂っていた。
ティオの繰り出す一打一打は、まるで良く研がれた名工の手になる剣の一撃のような鋭さを持って、ゲームを切り進めていっていた。
(……ダ、ダメだ。まただ。また、何も、コイツを倒す方法が見つからないままに、あっという間に一戦が終わっていた。……)
(……い、いや、もしもだ。……コイツの言う事を俺は信じちゃいないがな、どうせ、どうでもいいような事をペラペラと喋って俺を混乱させようとしているだけなんだろうからな。……だ、だが、もしも、本当に、コイツがとてつもなく強かったとしても……)
(……20戦全て勝つのは簡単じゃない筈だ。きっと、どこかで必ずボロが出る。俺がコイツの隙を突く機会は、絶対にやって来る。俺はその時を待って、その一戦を確実に勝てばいいんだ。……)
(……お、俺はまだ、負けちゃいない。……か、勝てる。勝てる。…………きっと、勝てる!……)
ドゥアルテが、グラグラと揺らぐ視界とゾクゾクと襲ってくる悪寒に必死に耐えながら、一戦を終えた牌を全て裏に返しテーブルの中央でシャッフルしていると……
ティオが、フッと、まるで世間話でもするような気安い口調で、語りかけてきた。
口達者なティオの話に耳を傾けては、心を乱されるだけでこちらにとって何も良い事はない、と頭では理解しいるドゥアルテだったが……
低くも良く響くティオの声は、まるで山で人を騙して道を誤らせるという言い伝えのやまびこのごとく、聞くまいとしても勝手に耳に入ってきては、ジワジワとドゥアルテの脳を侵食していった。
話の内容なのか、喋る声の音やリズムのせいなのかは分からないが、ティオの語りには、人の感情を操る不思議な力が宿っていた。
「さっきの話の続きですが……まあ、俺が勝ち負けをコントロールしている方法は教えられませんけれどもね、それ以外の事だったら、話せる範囲でお話ししますよ。こんな勝負を淡々と続けているのも、退屈でしょうしね。いやぁ、実を言うと、俺もずっと退屈で退屈で、新しい本を読みたいなぁ、なーんて思いながらプレーしていたんですよねー。この前手に入れた本は、素晴らしい内容だったんですけど、もう読み終えてしまったのでー。そろそろ、新しい本を探さないとなぁ。あ、ドゥアルテさんは、本はお好きですかー?……え? 興味ない? あらら、まあ、興味や趣味は人それぞれですよねー。アハハ。……ああ、ドミノの話? そうでしたそうでした、話が逸れてしまってすみませんー。」
ドゥアルテが、なるべく良い牌を引こうと念じながら一枚一枚気合を入れて選んでいる一方で……
ティオは、ト、ト、ト、と山から迷いなく手際良く牌を取ってきて、目の前にスタンドに並べていく。
「俺がわざと負けていたっていう話ですが、正直、俺にとって、裸チップ卓や白チップ卓の戦績はどうでも良かったんです。いや、ある程度勝たない事には、赤チップ卓には来れませんからね。その点は考慮していましたが、裸チップ卓と白チップ卓で稼いだ分は、皆さんにパーッと酒を奢って全部使っちゃいましたー。アハハ。悪銭身につかず、とも言いますが、今回は先行投資ってヤツですね。おかげで、しっかり注目を浴びて、見事赤チップ卓に呼ばれた訳ですよー。……ああ、チェレンチーさんが同行してくれた事で、ずいぶん助かりましたー。赤チップ卓にあなたが居る事は分かっていましたから、そんなあなたが、大勝ちして周りの客に酒を振舞い盛り上がっているチェレンチーさんを見つけたら、赤チップ卓に呼びつけるだろうと予想していましたよ。チェレンチーさんには、晒し者にしてしまって、ちょっと申し訳なかったですけれどもね。……え? チェレンチーさんが居なかったら? その時は、また別の方法を考えたでしょうね。とにかく、俺は、なんとしてもこの赤チップ卓に潜り込みたかったんですよ。」
「さて、では、先攻の俺から。」
そう言って、ティオが牌を切り出したのを受けて、ドゥアルテは、自分の手牌と場に出された牌を何度も見比べて熟考したのち、スタンドから一枚を選び取りそろそろと繋げてきたが……
ティオは、また、ドゥアルテの手を読んでいたかのように、ノータイムで、既に手に持っていた牌をトンと置いた。
「赤チップ卓からが本番……と言う訳でもなかったんですけどねー。でも、さすがにここである程度稼いでおかないと、後の事を考えたら困っちゃいますからねー。しかし、ガンガン勝って悪目立ちするのもいけない。目立たないように、けれど確実に、こっそり勝ちを積み重ねるのは、結構気を使いましたよー。今の方がずっと気が楽ですー。……え? 相手の手牌を考えたり打ち筋を予想するのは大変じゃないのかって? いや、特にはー。そんな事より、自分が周りにどんな風に見えているのか、対戦相手や賭博場側に警戒されていないか、そういう余計な事にあれこれ神経を擦り減らす方が面倒ですよー。今は自然体で打てるので、ずっと楽チンですー。……ああ、でも、その代わり、緊張感が薄れて眠気が増してきちゃいましたけどねー。ふわあぁ。おっと、失礼。」
「あ、合計10になったので、チップ10枚いただきます。」
と、ティオは、サラッとボーナスチップを宣言して、ドゥアルテからチップを受け取った。
「そうそう、赤チップ卓での儲けの話でしたね。何しろ、俺達はこの『黄金の穴蔵』に銀貨150枚程度しか持ってきていません。いや、世間一般的な感覚では銀貨150枚って、かなりの大金ですけどね。まあ、裸チップ卓や白チップ卓なら、余裕を持って一晩じっくり遊べる額ですね。しかし、俺は遊びに来ている訳ではないですからー。それに、この銀貨150枚は、前にも言いましたが、王国兵団の予算を扱っている官吏に何度も頭を下げてようやくもぎ取った傭兵団用の資金です。そんな虎の子の金を、ギャンブルに興じて溶かす訳にはいきません。とは言え、赤チップ卓に来るまでに銀貨150枚の内、50枚分は既に使い切っていましたけどね。裸チップ卓と白チップ卓でゲームするための種銭にして、その後増えた分も含めて、店中の人間に酒を奢るという大盤振る舞い。さっきも話した先行投資ですよ。そんな訳で、赤チップ卓に着いた時、俺達の所持金は銀貨約100枚。これをなんとか増やしていかないといけなかった訳です。……なぜかって? だって、銀貨100枚程度じゃあ、『1点につき黒チップ1枚』という今の高レートでは、雀の涙じゃないですかー。赤チップでは100枚でも、黒チップではたったの10枚ですー。ゲームになりませんよー。」
ドゥアルテは、手牌の三枚からどれを出すべきか長考したのち、一枚を場に切り出してドミノ列に繋いだが……
ティオは、それまで手持ち無沙汰そうに手の中でいじっていた一枚を、やはりノータイムで、ト、と繋げてきた。
「え? それじゃあ、まるで、俺がはじめから今の『1点につき黒チップ1枚』の高レート勝負を予想していたみたいじゃないかって?……ハハハ、実はその通りです。俺が赤チップ卓に着いてからやるべき事は決まっていました。大きく分けて二つ。まずは、先程も話したように、単純に勝ちを積み上げてチップを増やす事。こちらは、この最後の1マッチが始まる時点で、俺の所持分は赤チップ換算で約2750枚に達していたので、まあ、大丈夫でしたよ。……そして、もう一つやらなければならなかったのは、『ドゥアルテさん以外の対戦者を全員このテーブルから追い出す事』です。俺が黒チップ勝負を挑みたかったのは、ドゥアルテさんだけですからね。他の方々には、順次適度に負けてご退場いただきました。ああ、あの地方の地主さんのようにかなり資産を減らしてしまった方が出たのは予想外でしたが、まあ首の皮一枚で破産を逃れられたので良しとしておきましょう。大金を失ったのは、主に本人に責任がある事ですしね。これに懲りて今後は一切ギャンブルに手を出さないようなら、きっと穏やかな人生を送れるんじゃないでしょうかね。……え? 最初に勝っていたのは俺だったって? 確かにそうでしたね、ドゥアルテさん。しかし、それは俺にとって大した問題ではなかったんですよ。だって、負けて抜けていった人達のチップがドゥアルテさんに集まった所を、最終的に俺が奪えばいい訳ですから。一時的にドゥアルテさんに預かってもらっていたようなものです。そして、実際、この1マッチが始まる前に、俺はそのチップをきちんとドゥアルテさんから回収して、全て自分の手元に持ってきていましたよね?」
ト、とまたティオが間髪置かず手牌から牌を切り出したのとは対照的に、ドゥアルテは、ギリギリと奥歯を軋ませ苦渋の表情で山から牌を引いていた。
それでも繋げられる牌が出ず、二枚目、三枚目と引き続け、せっかく減らしたドゥアルテの手牌がみるみる膨れ上がっていった。
「また少し話が逸れましたね。……そうそう、俺がはじめからこの黒チップ勝負を狙っていたという話でしたね。その下準備として、赤チップ卓での勝負でチップを稼ぎ、ドゥアルテさん以外の対戦者を一人ずつこのテーブルから追い出していった。……はじめから、と言うのはどこからかと言うと……赤チップ卓に着いた時から? いやいや、それよりもっと前。裸チップ卓や白チップ卓で打っていた時から? いえ、もっと前ですよ。今夜この『黄金の穴蔵』に来た時から、でもありません。……俺がこの計画を立てたのは、この『黄金の穴蔵』で傭兵団の資金を増やそうと決めた時ですよ。」
やっとの思いで場に出せる牌を山から引けたドゥアルテがバシッと叩くようにドミノ列の端に繋げると、その直後、スッとティオが手にしていた牌を別の端に繋げてきた。
「え? そんな計画通りに物事が進む筈がないって? まあ、ドゥアルテさんがそう考えるなら、それで構いません。俺の言っている事は、全て嘘、口から出まかせの偽り、あなたを惑わせるための罠……どんなふうに思われても、俺は何も気にしません。でも、俺は、確かに自分に都合の悪い事には触れないように隠して喋ってはいますが……嘘は言っていないんですよ、これっぽっちもね。」
「そして、今までの俺の話の内容から、もうなんとなく察しはついていると思いますが……」
ティオは、ついに残り一枚となった手牌を自分のスタンドからスイッと摘まみ取ると、長考するドゥアルテの前で、手の平の上でクルクルと、表を見せないように回しながら言った。
「俺の狙いは、最初から、ドゥアルテさん、あなたでした。」
「最初と言うのは、そう、俺が、この『傭兵団の資金を全額ギャンブルにつぎ込んで、たった一晩でドーンと増やしちゃおう計画ー!』を立てた時からです。」
「正直、他の人間はどうでも良かった。赤チップ卓で増えたチップも、最後のこの1マッチを行うためのものだった。だって、赤チップのゲームで稼ぐより、黒チップのゲームで稼いだ方が、ゼンッゼンいいじゃないですかぁ! 勝てば儲けは、赤チップの10倍ですよ、10倍!……大袈裟な言い方をすると、俺が今晩『黄金の穴蔵』でドミノをしてきた全ては、この最後の黒チップ勝負の1マッチのための下準備みたいなものだったんですよ。」
「そして、ようやく全ての準備は整って、俺は、今まさに、標的のあなたを仕留めにかかっている真っ最中と言う訳です。細工は流々仕上げを御覧じろ、ってね。」
ドゥアルテが怯えきった真っ青な顔でブルブルと指を震わせて切った牌に、さっきから手に持っていた最後の手牌の一枚をすぐさま繋いで、ティオはニコッと無邪気に満面の笑みを浮かべた。
「ドミノ。そして、合計15となったので、ボーナスチップ15枚いただきます。」
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☆ひとくちメモ☆
「傭兵団の資金」
元々は、傭兵団用の資金は、全く用意されていなかった。
このままでは、実戦用の武器防具もない状態だったため、ティオが傭兵団の雇い主である王国兵団の財務担当の官吏に掛け合って、都合してもらった。
他にも、ティオは、自分が王都での情報収取で得た、懸賞金の掛けられている犯罪者の情報などを警備隊に売って資金を捻出している。




