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十三番目の賢者  作者: 綾里悠
第八章 過去との決別 <第三節>新たな役割
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過去との決別 #38


 ティオが作戦参謀に就き新体制となった傭兵団の運営で、一番の問題は資金面だった。

 しかし、その事実を実感していたのは、ティオとチェレンチーの二人だけだったかもしれない。


 当初は、ティオが持っていた金を全額傭兵団の運営資金にあてた。

 その内の大半が、出来上がりに時間がかかる事から真っ先に手をつけた武器防具の発注で消えた。

 製作に着手するための手付金だけで、ティオが出した金があれよあれよと飛んでいった。


 もちろん、ティオとチェレンチーの二人は、出来る限りやりくりと節約を試みた。

 訓練用、実戦用共に、王国正規兵団から余っているもの、古いもの、もう使い物にならないもの、などなど目一杯譲り受け……

 手入れをすればまだ使えるものは手入れをし、修理が必要なものは修理に出し、どうにもならないものは、金属の目方で売り払ったり、新しく作る武器の材料にする事で値引いてもらったりもした。

 傭兵団の食事も、チェレンチーが材料の仕入れを工夫し、以前より安くていいものを使えるようになった。


 しかし、そんな爪に火を灯すようなやり方では、一時凌ぎにもならない。

 ティオは、余っている武器防具を譲ってくれた近衛騎士団の大隊長に口添えを頼み、軍隊の予算を担当している上級官吏に、傭兵団用の資金を捻出してくれるよう交渉を始めた。

 長引く内戦で兵士の数が減った事により宙に浮いている分の予算に目をつけたのだった。

 粘り強い交渉の結果、正規兵団程ではないが、それなりの金額が運営資金として支給される所まで漕ぎ着けた。

 しかし、財務を担当している大臣の許可やら何やらいろいろと公的な手続きが必要らしく、実際に金が手元に来るのには若干時間がかかる見込みだった。


 そこでティオは、今すぐに出せる分だけでもと、傭兵団用の資金の一部を無理を言って先払いしてもらった。

 その金を、しばらく、武具や料理の食材などもろもろの仕入れや支払いに当てていたが、それもみるみる底をついた。

 ティオの素早い動きにより、鍛冶屋街の店々に頼んでいた武器防具は前線に出るより前に揃うめどはついたが、問題は、手付金を差し引いて残った分の支払いだった。

 チェレンチーは毎日せっせとソロバンを弾いて、銅貨一枚でも節約しようと頑張っていたものの、結局、大金が入らなければ首が回らなくなる今の状況に頭をかかえる事となった。



 そんな時に、城下町に行ってきたティオがどこからか調達してきた金は、まさに砂漠で見つけた水のごとくにありがたかった。

 しかし……出所がどうにも気になった。


「……う、売った?」

「はい。俺に売れそうなものは他になかったので。」

「……」


 チェレンチーは、ティオが何を「売った」のか見当がつかず、しばらくポカンと口を開いていた。

 作戦参謀となった当初ティオがチェレンチーに渡したのは、彼の所持金全て、つまり全財産だった事は間違いないだろう。

 そんなティオが、今チェレンチーの手元にある皮袋に入れられた金貨銀貨と交換出来る程高価なものを持っていたとはとても思えない。

 袋を懐から取り出す時にチラと見た感じでは、彼が身につけているカバンやベルト、ポーチなどはそのままのようだった。


(……ティオ君は、今日城下町に行った短時間で一体どうやってこの金額を稼ぎ出してきたんだろう?「売った」って、一体何を売ったんだ?……)


 そんな事をチェエンチーが心の中でグルグル考えていると、ティオが伸び過ぎたボサボサの前髪を掻き上げながら、気だるそうに顔をしかめて、ひとりごちた。

 顔の真ん中に居座る大きな眼鏡はそのままだったが、髪を上げるだけでも、彼の整った目鼻立ちがずいぶんはっきりと分かる。


「……あんな恥ずかしい思いをするなんて、思ってもみませんでしたよ。いきなり服を全部脱げだなんて。人間扱いされていないんじゃないかって、かなり凹みましたね。……」

「え、ええ!? はぁ?……あ、あぅあぅ!……ティ、ティオ君、き、君は、まさか……」

「まあ、これも全ては金のためだと思って、我慢しましたよ。……ハァ。さすがに少し疲れました。」


 チェレンチーは、先程会議室に顔を出した時、ティオが珍しく疲労の色を滲ませていたのを思い出し、ガタンと椅子を蹴って立ち上がると、額に手を当ててため息をついているティオの肩をガバッと掴んだ。


「ティ、ティティ、ティオ君ん! 自分をもっと大切にしなきゃ、ダメだよぅ!!」

「はい?」


 ティオは、酷く取り乱しているチェレンチーをキョトンとした顔で見上げていた。



「……じょ、情報?」

「ええ。この所、俺は、城下町で仕入れの仕事をするかたわら、情報収集に励んでいましたからね。特に反乱軍の真の首謀者『導きの賢者』については、少しでも情報を得ようと街中を駆けずり回っていました。」


「今回売った情報は、その副産物といった所でしょうか。目的の情報を集めるついでに入ってきた、今の俺にとっては特に必要のないものです。ですが、世間では、それを喉から手が出る程欲しがっている人間も居ます。」


 改めて落ち着いてティオの話を聞いてみると……

 ティオが「売った」のは、彼が集めた「情報」だったらしい。

 ティオの情報収集は、目的の魚を捕まえるために、魚の泳いでいる川の水どころか、水底に堆積した土ごと根こそぎさらうようなやり方だった。

 情報収集能力が驚く程高いせいで、彼が本気を出した場合、目的の情報以外にも膨大な量の情報が入ってくるらしい。

 その中から、欲しがっている人間が居そうなものだけ拾い上げて、金に替えてきたとの事だった。


「街の警備兵の詰め所前に、立て看板があるじゃないですか。そこに、『おたずね者』の似顔絵が貼られていますよね。……例えば『40歳前後の男、身長約175cm、痩せ型、髪はこげ茶で短髪、瞳の色は灰色、頰に大きな刀傷あり。……罪状、四件の強盗殺人。合計六人を殺傷。……捕まえた者には、金貨十枚。』というアレです。」


「俺の調査にたまたま引っかかったそういう『懸賞首』の『おたずね者』の情報を、いくつか街の警備兵に売ってきたという訳ですよ。」


 ティオはそこまで語ると、大袈裟に腕を開いて肩をすくめ、ゲンナリした顔で首を左右に振った。


「ところが、俺があまりに立て板に水で凶悪犯の居所を次々喋ったせいでしょうかねぇ。どうやら、犯人達と関わりのある裏社会の人間だと思われたようでして、逆に俺が警備兵達に取り囲まれちゃいましてねー。『怪しいヤツめ! 何か危険なものを持っていないか調べるから、全部服を脱げ!』ってー。……ね! 酷いと思いませんー?」

「あ、ああ、それで、服を脱いだのかぁ! 僕はてっきり……ん、んん! コホン!」

「てっきり? なんだと思ったんですか?」

「い、いや、なんでもない! なんでもないよ、本当に!」


 不思議そうな表情を浮かべてこちらをジッと見つめているティオの前で、チェレンチーは顔を真っ赤にして空咳をし、気まずい気持ちでサッと視線を逸らした。


(……よ、良かった、ティオ君の貞操が無事で!……)


 チェレンチーは一度も足を踏み入れた事がなかったが、この都の歓楽街には、男が春を売る場所もあると聞く。

 そこでは、見目麗しい青年が、時には女性相手に、時には好色家の男性相手に、商売をしているという噂だった。


(……僕のような冴えない見た目の人間では、そんな仕事は無理だろうけれど……ティオ君ぐらい整った容姿なら、きっと上客がつくに違いないよ。……なんて事は、ティオ君自身には、口が裂けても言えないけど。……)


 確かに、ティオの外見は、女性と見まごうような中性的なものではなかった。

 繊細で美麗な芸術品のごとき美少年ではなく、もっとはっきりと男性らしさを感じさせる、若々しさの中にもたくましさと強さと鋭さが宿っている。

 それでも、彼の冴え渡る月光のごとき見た目や、しっかりと筋肉がつき均整のとれた体つきを好む者も居る事だろう。

 更に、ティオには、外見以上に、ハッと息を呑むような鮮烈な存在感があり、それは老若男女を問わず人を惹きつける類のものだった。


 ティオが、何かを売って短時間で大金を稼いできたと知った時、たまたま少しティオが気だるげな様子だった事もあり、うっかりあらぬ想像をしてしまったチェレンチーだった。

 もっとも、ティオ本人は、自分の持つ魅力に全く気づいていない様子なので、自分の身体を売るといった発想は微塵もなかった事だろう。


「それでー、嫌だったんですけどー、仕方なく服を脱ぎ始めた訳なんですよー。まったく、俺の一体どこが怪しく見えるって言うんでしょうねー? 失礼な話ですよねー。……あ! でも、眼鏡だけは死守しましたよ! これだけは外せないですからー!」

「い、いや、眼鏡は外した方が、印象は良くなったと思うよ。」

「で、結局、半分ぐらい服を脱いだ所で、俺の持ち物の中から、ハンスさんが持たせてくれた王城の城門の通行証が見つかったんですよー。それで、俺が傭兵団の人間だって分かって、疑いが晴れたって訳なんですー。」


 ハンスは、傭兵の募集が始まるまでは、街の警備をしていた上級兵だった。

 現在の警備兵の中にはハンスを知っている者が多くおり、彼の実直な人柄と確かな剣の腕から、同僚の兵士達に慕われていた。

 そんなハンスの人徳により、彼の証明書を持っていた事で、ティオへの嫌疑は晴れたようだった。


「それで、下町の方は道が入り組んでいて分かりにくいと言うので、俺が案内して、隠れ家に居る所を二人捕まえたんです。」


「そこでもう時間いっぱいだったため、後は情報だけ教えて帰ってきました。俺の流した情報通りに犯人が見つかれば、後日懸賞金を渡すとの話です。」


「それにしても、一人につき金貨五枚って書いてあったのに、思いっきり値切られましたよ! 詰め所にあった金を全部出させても、まだ足りなかったんですよ。警備隊も国の財政難を受けて喘いでいて、無い袖は振れないと言うので、今回は仕方なくこれで手を打ちました。まあ、こちらとしても、早く現金が欲しいという事情がありましたしね。……あ! もちろん、他の件については、これとは別にキッチリ貰うつもりです!」


 ティオの話によると、ティオは時間の許す限り、おたずね者や犯罪者について自分の知り得た情報を街の警備兵に語ったそうだ。

 殺人や強盗、婦女暴行などの罪で指名手配されている凶悪犯の潜伏場所は元より、郊外の街道で旅人を襲っている新旧合わせて三つもの盗賊団の森の奥のアジトの場所まで、地図に書き込んできたとの事だった。

 街の中に隠れていた犯罪者は二十人近くおり、盗賊団は構成員を全て捕まえれば四、五十人は軽いだろうと思われる。


「……す、凄い、ね。ティオ君、これだけで食べていけるんじゃないの?」

「いやぁ、俺は面倒ごとは嫌いなので、普段はよっぽど食い詰めないとこんな事はしませんよ。……まあ、今回は仕方ないですけど、あまり派手にやると、犯罪者達に俺の顔が知れ渡って、おちおち夜の街を歩けなくなるんですよねー。お礼参りって言うんですか?」


 犯罪者が巣食う街の暗部には彼ら独自の情報網があり、あまり片端からおたずね者を役人に売っていると、「役人の犬」として目の敵にされ、逆に狩られかねないのだそうだ。

 ティオは「まあ、俺は、捕まる前に逃げますけどねー! アハハハー!」と、自分の膝をパンと叩いて、逃げ足の速さを誇っていたが、聞いているチェレンチーは危なっかしくてヒヤヒヤしてしまった。

 凶悪犯罪者の検挙に繋がり、懸賞金も貰えて一石二鳥と思ったが、実際は犯罪者に恨まれる可能性もあるという危険を伴う行為だと知ったチェレンチーだった。

 こうして、自分の身を危険にさらす事も厭わず、出来る限り情報を売って傭兵団のために必死に金を掻き集めてきてくれたティオには、頭の下がる思いだった。


「ああ、そう言えば、まだ作戦参謀になる前に、チェレンチーさんと一緒に城下町に行きましたよね? あの時寄ったゴミだらけの骨董屋、覚えていますか?」

「あ、ああ、うん。あれは悪い意味で忘れられないよ。」

「あそこの店主、自分で麻薬を使用するだけでなく客にも売っていたので、警備兵に通報しておきました。まあ、こちらは大した額にはならなそうでしたが、もののついでに。」

「……ティオ君、あの時平然としてたけど、しっかり気づいてたんだね。」


 ティオの話では、あの店は、看板が塗りつぶされドアに幾重にも鍵が掛けられて、一見開店休業状態に見えるのだが……

 実は、常連客だけが知っている合言葉があり、それを言うとドアを開けてもらえ、麻薬が買えたらしい。

 店主は麻薬密売の末端であり、一人逮捕したところで組織自体に大きなダメージはなかったに違いない。

 それでも、多少ながら、街の治安は良くなった事だろう。



 余談だが、ティオが自分の知っている犯罪者や盗賊団の潜む隠れ家の位置を洗いざらい警備兵に話した後、半年近くもの間、王都近辺ではグッと犯罪が少なくなり、街道で旅人が襲われる事もなくなった。

 もっとも、時間の経つ内に、またチラホラと犯罪者は増えていき、やがて元の状態に戻るのだが、それは人間のさがであり仕方のない事なのだろう。



「チェレンチーさん、お待たせしました! やっと傭兵団用の資金がおりましたよ!」

「良かった! これで、ようやく諸々の支払いのめどがつくね! 特に鍛冶屋への支払いはかなりの額だから、もしお金の都合がつかなかったらどうしようって、内心心配でならなかったんだ! もちろん、ティオ君の事は信頼していたけどね!」


 ティオが、国の軍部から交渉の末に引っ張り出した傭兵団用の資金を、色あせた紺のマントに覆い隠してコソコソと会議室に運んできたのは、それから一週間程経った日の昼休みの事だった。

 いつものように昼食を済ませた後の残り時間を、せわしなくソロバンを弾きながらこまごまとした事務仕事に費やしていたチェレンチーは、やって来たティオを見て、喜びでパアッと顔をほころばせ、ガタンと椅子から立ち上がった。

 その後、チェレンチーが金額に間違いがない事を確認すると、金庫代わりにしている会議室の床下に二人で一旦金を隠し、元のように空の木箱を積み上げた。


(……いやぁ、本当に、支払いの期日に間に合って良かった! これも、ティオ君のおかげだなぁ!……で、でも……)


 はじめは、無事予算がおりた事で興奮していたチェレンチーだったが、しばらくしてフッと不安に駆られた。


(……このお金が、もう、本当の本当に、最後だ。さすがのティオ君も、これ以上、どこからも資金を調達出来ない。これが、精一杯。これが、僕達傭兵団が、戦の前に使える金の全てだ。……)


(……この先何かあっても、一銭も金は入ってこないんだ。ティオ君が必死に掛け合って取ってきてくれたこの資金は、大事に大事に使わなければ! 銅貨一枚だってムダには出来ないぞ!……)


 ティオは、まずはじめに自分の持っていた金を全額出し、次に軍隊の予算担当者から前借りし、更に街で得た情報を警備隊に売って、傭兵団の運営に必要な資金を捻出してきた。

 そして、ようやく、面倒な手続きを経て残りの予算が下りた訳だったが……

 それは、既に、武器防具に始まり、衣料品や生活必需品、食料品などなど、様々な発注済みの品物の支払いを済ませると、もういくらも手元に残らない計算だった。


(……いやいや! あんな何もない状態からここまでの装備を揃えられたのは、もはや奇跡だ!……)


 チェレンチーは、傭兵団に来たばかりの頃の事を思い出していた。


 幼い子供の頃は下町の貧民街で育ったので、質素な生活には抵抗のないチェレンチーだったが、それでも、傭兵団の兵舎の有様は、貴族達の子息が集う近衛騎士団はもとより、王国正規兵団の兵舎とは雲泥の差で、驚きを禁じ得なかった。

 古い木造の建物は、壁が壊れていたり屋根から雨が漏ったり、ネズミが走り虫が這い回る事も日常茶飯事だった。

 訓練場は、硬い地面に所々穴が空いたかのような凸凹が出来ている場所もあれば、逆に、一日中ぬかるんでいる箇所もあり、団員達は、つまづいたり足を滑らせたりで、ケガをする事も多かった。

 衣服や日用雑貨どころか武器防具の支給もなく、傭兵達は自分の持っているもので戦場に出る他ない状態だった。

 訓練用の木の剣さえも、全く手入れがされないままにボロボロに朽ちているものが多く、人数分行き渡っていなかった。

 食堂で一日三回料理が出されたが、質の悪い素材を使った粗末なもので量も少なく、とても兵士達が英気を養える品質ではなかった。

 狭い宿舎の部屋に、藁を敷いただけのベッドをギュウギュウに押し込んだ状態で眠りにつかねばならず、疲れが取れないどころか、ノミやシラミが大量に発生するという劣悪な衛生状態だった。


 それが今では、まるで見違えるようだった。

 各々小隊の特色に合わせた武器防具が人数分しっかりと配布され、現在、発注済みの外套や野戦に携帯するに必需品が届くのを待っている所だ。

 団員一人につきしっかりとした作りの毛布が二枚ずつ渡されて、以前よりずっと快適な睡眠がとれるようにもなっていた。

 食堂で出される食事は、予算を抑えつつも栄養のバランスを考えた質の良いものに変わり、量も増えて、兵士達の腹を満たすと共に健康な体を作っている。

 衛生管理については、特にティオが目を光らせていたため、団員達の健康状態は極めて良好だった。

 訓練場も、常に整備が行き届き、均一に砂が敷かれて、ぬかるみや硬い地面の凹凸に悩まされる事もなくなった。

 もちろん、訓練用の武具も潤沢に用意され、特に訓練場の一角に放置されていた弓用の練習場は、土を盛ったり的を立てたりと、新たに作り直されていた。


(……これ以上贅沢を言ったら、バチが当たるってものだよね。うん。……後はこの予算の残りを大事に使っていかないと。……)


 チェレンチーが、身が引き締まる思いでそんな事を考えているといると、ティオが突然思いもよらない事を言い出した。


「実は、俺、欲しいものがあるんですよね。」

「え?……い、いや、でも、もう、資金的にそんな余裕は……」


 当然チェレンチーは難色を示した。

 既に、掻き集められる限りの金は集めてしまった後であり、ティオが欲しがるものを購入するような大金を入手する方法をまるで思いつかなかったのだ。

 予算の一部を投資に回すなどして増やす方法もなくはなかったが、もはや前線に送られるのが目前に迫ったこの僅かな期間では、それも不可能だった。

 しかし、ティオは何か策があるらしく、ニヤリと悪巧みをする笑みを浮かべて言った。


「俺にいい考えがあります。」


「大丈夫ですよ、チェレンチーさん! 俺がこの金を、絶対に、二倍三倍に増やしてみせますから!」


 こうして、ティオの提案により……

 ようやく手に入った軍部からおりたばかりの虎の子の傭兵団用の資金を元手に、城下町の賭博場で一世一代の大博打に打って出る事になったのだった。


読んで下さってありがとうございます。

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☆ひとくちメモ☆

「傭兵団員の外出」

傭兵団の兵舎は、王国正規兵団や近衛騎士団の兵舎に併設される形で、王城の城壁の内側にある。

城門の出入りは複数の兵士によって厳しく取り締まられており、傭兵が出入りするには、傭兵団の監督役である王国正規兵のハンスの許可が必要だった。

城下へ行く事自体は禁じられてはいなかったが、街まで距離があって時間がかかる事と、許可を取る面倒から、行く者はほとんど居なかった。

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