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十三番目の賢者  作者: 綾里悠
第六章 終末と賢者と救世主 <後編>果てのない壁
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終末と賢者と救世主 #23


 サラは、すぐゴチャゴチャになりそうになる頭の中を整理するために、ここまでの推理の要点を一度まとめてみた。


 おそらく、サラやティオ、二つの赤い石のように、世界にあるものは全て、「物質世界」だけでなく「精神世界」にも「存在」している。

 つまり、精神世界にも「存在」がある。

 そして、ティオは、自分の精神領域に、精神世界にある他人の「存在」を「精神体」として招き入れる事が出来る。

 人間以外のものが精神世界において個々に精神領域のようなものを持っているのか、持っていたとしてそれがどんなものなのかは、サラには見当もつかなかったが、ともかく……

 物にも精神世界での「存在」や「精神体」はあるらしい。

 ティオはそんな、精神世界にある宝石の「存在」、つまり「精神体」を自分の精神領域に引き入れて溜め込み、それを元に「宝石の鎖」を作り上げた。


(……うん。こんな感じで大体合ってる、と思う。……)


 ティオが、物質世界、つまり現実世界において、「宝石怪盗ジェム」として次から次へと宝石を盗み回っていた事と……

 彼の精神領域に無数の「宝石の鎖」が作り上げられている事は、きっと関係があるのだろう。


(……たぶん、だけど……ティオは、精神世界での宝石の「存在」を、宝石の「精神体」を、自分の精神領域に集める事が出来る、とは言っても……)


(……それには、何か条件があるんじゃないのかな?……)


 精神世界のどこかに散らばっている様々な宝石の「存在」を、無条件で自由に集めてくる事が可能ならば、物質世界で宝石を盗み回る必要はない。

 いや、宝石が三度の飯より好きなティオの事なので、必要がなくても盗みまくりそうではあるが、ここでは一旦、そこには何かしらの理由があると考え、その理由を明らかにしていこうとサラは思った。


(……あ! そう言えば、ティオがこの精神領域で、本を解読した事があったなぁ!……)


 あの時、ティオは「もう読めるようになった!」と言ったが、同時に、「最後の鍵が足りない」とも言った。

 精神領域で自分の記憶を頼りに作り出した「偽物」の本を読んでも「読めるようにはなる」が、いや、正しくは「もう、読めるようになった」という感覚はあるが、実際はまだ読めない。

 本当に読めるようになるには、「最後の鍵」が必要であり、それは「物質世界で本物の本を読む事」だった。

 そう告げた後、ティオは、物質世界に意識を傾け、本物の本を読んでいた。


(……私が、時々見ていた「何もない夢」の中で、鎖の「存在」に気づいたのも、この王都でティオに会ってからだったよね。……)


 「何もない夢」とサラが呼んでいた、本当はサラの精神領域と思われる真っ暗な果てない虚無の闇が広がる空間に、「鎖」が現れるいう変化が初めて起こったのは、物質世界でのティオとの邂逅の後だった。


(……あ! ひょっとして……精神世界での「存在」に接触出来るようになる条件って……)


(……「物質世界で実際に会っている事」……なのかな?……)


 物質世界と精神世界は、表と裏のような関係だとティオは言っていた。

 現代の世界に生きるほとんどの人間に精神世界を知覚する事は出来ないが、本当は、二つの世界は、重なり合い影響し合う、切っては切れない関係にあるらしい。


(……つまり、片方だけ、精神世界だけじゃダメだって事なんじゃないかな?……)


(……ティオが、精神世界の自分の精神領域で「宝石の鎖」を作った材料になっている宝石は、現実でも、つまり、物質世界でも、ティオが実際に手に入れた事のある宝石、なのかもしれない。……)


 となると、今目の前のティオの体に巻きついている「宝石の鎖」を形成する宝石の数からして……

 ティオは、今までに、とんでもない量の宝石を、現実でも一度は手に入れていた事になる。


 ティオが「宝石怪盗ジェム」である事が発覚した夜、彼が持っていた宝石は全て取り上げた筈だ。

 ティオの事なので、どこかに誰も知らない秘密のアジトのような場所を持っていて、そこに盗んだ宝石を溜め込んでいる可能性はあったが。

 少なくとも、一旦物質世界で手に入れた後、精神世界でも自分の精神領域に宝石を引き入れたのならば、いつも持ち歩いている必要はない様子だった。


 まあ、いずれにせよ、こうして辺り一面を埋め尽くす程の量の宝石を自分の精神領域に貯め込めるのは……

 ティオの持っている「鉱石に特化した異能力」が関係していると見て間違いなさそうだった。


(……うーん……ティオは、宝石が大好きでたくさん集めている内に、「鎖」を作る事を思いついたのかな?……それとも、「鎖」を作るために、宝石怪盗なんかして、宝石を集め回ってたのかな?……)


 卵が先か、鶏が先か?

 それこそ、ティオ本人に聞いてみなければ分からなそうな疑問だった。



(……うんうん! だんだん「宝石の鎖」について、分かってきた気がするー!……)


 サラは、「頭を使って考える」という苦手な行為を頑張った成果を実感していた。


 精神世界は、やはり、法則、「理」と良くティオが言っているが、そういったものが、物質世界とはだいぶ違うらしい。

 物質世界では、何か自分の知らないものを知るためには、「それ」を良く知っている人間に教えてもらったり、ティオのように本を読んだりする事が必要だが……

 精神世界では、「それ」について、深く思索を巡らす事で、頭の中にスウッと自然に答えが湧き上がってくるような感じだった。

 とは言っても、何でもかんでも考えれば分かる、という訳では決してない。

 例えば、肉体を持っている時は感じ取る事が出来ないと言われる「魂源世界」のようなものについては、いくら考えた所で何も分からないままだった。


 一言で言うなら……

 「分かるようになるものは、分かるようになる」と言った所だろうか。


 サラが、元々「それ」を理解する事が出来るものならば、考えている内に、遅い早いの違いはあれど、いつか自然と「理解出来る」ようになる……そんな法則らしい。

 考えれば理解出来るものと、いくら考えても理解出来ないものの違いは、一体なんなのか?

 それは、たぶん、サラの、理解する側の、「資質」のようなものだという気がしていた。


 おそらく、ティオは、その「資質」、理解する「才能」とも言うべきものが、人並み外れているのだろう。

 その「理解する才能」を遺憾なく発揮しているのが、「読めない文字で書かれた本をジッと眺めている内に、ある時フッと読めるようになる」という、あの奇妙な現象だと思われる。

 ティオにとってはそれが当たり前の事なので、暇つぶしの遊び感覚でやっている様子だったが……

 普通の人間から見たら、手品か超常現象の類のような異常な光景である。


 ともかく、サラは「宝石の鎖」について、以前より少し理解を深める事が出来た。

 そこで、改めてもう一度、良く観察してみようと思い立った。

 先程真剣に考えた事で分かる事が増えたように、見る事や、意識を集中する事によって、精神世界では、もっともっと何かが分かる筈だと、サラは確信していた。



(……「宝石の鎖」って、良く見ると、ティオの体から生えてるみたい。……)


 サラの手を握ってくれているティオの片手を観察すると、その手の甲から、手の平から、指先から、ありとあらゆる所から、「宝石の鎖」が宙に向かって伸びていた。

 手首や指の根元にグルグルと絡まっているものもある。

 それらは、不思議な事に、服のように羽織ったり身につけたりしているものではないらしく、ティオの体と一体になっている様子だった。

 全ての鎖が、元を辿ると、ティオの体の中から生え出しているように見えた。


 ティオと、鎖を形成する宝石達は、「別の存在」ではあるが、とても良く「馴染んでいる」印象を受けた。

 完全に一つの「同じ存在」になっている訳ではないものの、限りなくそれに近い状態だ。

 「半ば融合している」というイメージが、サラの頭の中に浮かんでくる。


 もちろん、こんな事が出来るのは、ティオの異能力あっての事なのだろう。

 ティオは、宝石達の「存在」を自分の中に取り込み、自分と同調させているようだった。

 ティオの精神領域にある大量の宝石は、もれなくティオの制御下にあり、ティオは、自分の体の一部のごとく、それらを動かす事が可能らしい。

 そうして形作られているのが、今サラが見ている「宝石の鎖」なのだろう。


(……そっか、分かった。……ティオは、ここにある宝石をコントロール出来るから、私が初めてここに来た時、一旦宝石達を「なるべく見えない」状態にしたんだ。……)


(……どうやって「なるべく見えない」状態にしてるのかまでは、私には分かんないんだけど。うーん。……)


 「透明にする」「隠す」……そんなイメージがぼんやりとサラの頭の中に浮かぶ。

 ともかく、ティオには、宝石達を操って、見えなくする事が出来るようだった。


(……でも、逆に言えば……「消す」事は出来ないんだ。だから、「隠す」必要があった。……)


(……宝石は、「宝石の鎖」は、ティオが記憶から生み出した「偽物」とは違って、本当の「存在」があるものだから……本のように、簡単に消したり出したりは出来ないんだ。……)


 ティオは、実際にこの精神領域に「存在」する「宝石の鎖」を、消す事が出来ないため、サラがここに居る時は、上手く隠して過ごしていたのだろう。

 しかし、だんだんとティオの事を知り、心を通わせる内に、ティオの「存在」に近づいてきたサラは、彼が必死に隠していた「宝石の鎖」が、いつしか見えるようになってしまっていた。

 ……大体そんな所だろうと、サラの中にまたスウッと自然に答えが湧き上がってきていた。


(……それにしても、ティオって、本当に宝石が大好きなんだなぁ。……)


(……って言うより、凄く「宝石に好かれてる」って感じがする。……)


 ティオの体にくっついている無数の宝石達を観察するに……

 ティオが、自分の能力や力といったもので、それらを強引に従わせている、という雰囲気はまるでなかった。

 逆に、宝石達の方が、不思議な引力によってティオに吸い寄せられているような印象があった。


 ティオの存在に触れた数え切れない程多くの宝石達は、自然と彼に同調を始め、やがて、一つの大きな組織を形成するようになる。

 それは、幾何学的に整った大きな一つの蜘蛛の巣のようでもある。

 また、蟻一匹一匹が個々の生物でありながら、同時に群れ全体として一つの生き物でもあるような、そんな様態にも似ていた。

 ティオの周りを取り囲む宝石達は、ティオを「核」として、一つの共同意識とも言うべきものを持っているかのようだった。

 ティオは司令塔の役割を担い、彼の意思がそのまま宝石達に影響を与え、自在に動かしている、といった状況のようだ。


 ティオは物心ついた時から鉱石に対して異能力を発揮しており、それは、今ではもはや、息を吸って吐くように自然な事だと言っていた。

 また、ティオは、「俺にとって、鉱石は、生き物のように意思を持った存在だ」とも言っていた。


 そんなティオの異能力の本質を、サラは垣間見た気がした。



(……問題は、ティオが、そんな大好きな宝石をたくさん使ってわざわざ作ったものが、自分を縛る「鎖」だったって事なんだよねー。……)


 ティオが、何者かによって捕らえられ拘束され、自由を奪われている、という状況なら、話はもっと簡単だったのかもしれない、とサラは思った。


 しかし、実際は……

 初めてサラがティオの精神領域にやって来た時、「宝石の鎖」によって磔になっているティオを心配していると、「俺が自分でやってる事だ」と明言し、サラの助力を拒否してきた。

 ティオは、自分の意思で、世界のあちこちから宝石を集め、その宝石の精神世界にある「存在」を使って「鎖」を作り上げてきたのだ。

 ここまでたくさんの鎖を作るには、ティオと言えど、相当の苦労と時間と労力が必要だったと思われる。


(……宝石が好き過ぎていつも身につけていたいから、とか、そういう動機なら分かるけどー、だったら「鎖」の形にする必要はないもんねー。……)


(……どうして「鎖」なのか?……なぜ、精神世界の自分自身を縛りつけているのか?……)


 その「理由」を知らなくてはいけない、とサラは強く思った。

 ティオが、大好きな宝石を大量に使用してまで、自分を拘束しなければならなかったその「原因」を解明しなければ、今の状況を変える事は叶わない。

 ティオを……助ける事は出来ない。


(……むむむむぅ!……)


 サラは、ダラダラと体中から冷や汗が垂れるような感覚の中、限界まで意識を集中させて「宝石の鎖」を見つめ続けた。

 必死に探り、求め、追求し続けた。


(……あ、れ?……)


 そして、サラは、ついに気づいた。


(……何か……ある?……)


 サラの目に、ぼんやりと「何か」の「存在」が見えていた。


読んで下さってありがとうございます。

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☆The 13th Sage ひとくちメモ☆

「ティオの異能力」

鉱石には周囲の状況を記憶する性質があり、それを読む事が出来る。

と、ティオ本人が以前ザックリ説明していたが、正確には「鉱石との親和性が高い」と言った方がいいようだ。

特に自分の精神領域においては、自分と繋がっている宝石を自由自在に動かせるらしい。

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