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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第八話 進路は餓鬼道
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第八話 11 閻魔に敬意を示して

この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


「飛行船の四散を確認。閻魔(えんま)様の雷が泊地島に着弾したのと同時です。」


「そうですか。閻魔様の神力は、すさまじいですね。」


 場所は第二護衛艦隊旗艦峯島(みねしま)。戦闘指揮所で諏訪中佐は閻魔の力を確認していた。


「諏訪中佐。靖國(やすくに)大佐から通信です。知識を借りたいとのことです。」


「分かりました。通信士。今行きます。」



◇◇◇




 靖國大佐は諏訪中佐に相談を持ち掛ける。内容は、閻魔の言葉にあった『善行』についてだった。その善行を早速行おうという相談だった。


 諏訪中佐は、泊地島にいた時は補給の責任者だった。そのため、本国からの物資にも詳しいと、靖国大佐は思ったのだ。


「そこで諏訪中佐。この餓鬼道(がきどう)施餓鬼(せがき)を行おうと思うが、餓鬼(がき)が食べられそうな物だが、すぐに用意できそうなものはないか。」


「そうですね。一般には、細かく刻んだナスやキュウリを水に浸した『水の子』。それなら餓鬼の上を満たすことができます。」


 諏訪中佐は一般教養を提示するが、何かに気が付いたのか、すぐに付け加える。


「そういえば戦闘糧食一二号がありましたね。(けが)れ除けの七草粥(ななくさがゆ)です。神仏のお供え物に使うものですが、水の子の代わりにも使われています。」


 戦闘糧食一二号『穢れ除けの七草粥』


 七草粥を主食に、シシャモと桃が付く。一見味気ないが、高度に穢れに汚染された地域でも食べれるほど、穢れ払いの力が強い。


「それは本当か。餓鬼の飢えを満たせるのだな。」


 靖國大佐は念を押す。理由は二つだ。


 一つは、戦闘糧食一二号をあまり知らないからだ。戦闘糧食一二号の数は少なく、別途に保管されている。普段食べる糧食ではなく、特別な用途に使用されるためだ。


 二つ目は、空から降ってきた恵みを食べようとしても、飢えを満たせなければぬか喜びになる。それではただの自己満足で善行にはならない。


「はい。食品自体に穢れや(たた)りを防ぐ力があります。餓鬼の口の炎くらいなら、燃え尽きることはないです。本国でも施餓鬼に使用されています。」


 諏訪中佐は板型端末で、確認をしながら返答をする。念のため、戦闘糧食一二号の用途を確認していた。


「分かった。それなら上空を旋回(せんかい)しながら、七草粥を投下するんだ。すぐに実行してくれ。」


「それは分かりましたが、その分食料を消費します。本当によろしいのでしょうか。」


 諏訪中佐は心情では反対しなかったが、立場上聞き返す。信仰を示すのは良いが、それを艦の糧食と天秤(てんびん)にかけるのとは、また別の話だ。


「我々は閻魔殿に危機を救われた。それなら我々も、それに対して誠意なりなんなり示すのが筋だろう。」


 靖國大佐のそれは義理という感情だと、諏訪中佐は思った。もっとも、それでもかまわないとも思いながら。


「と言う訳だ。他の艦隊には私から言っておく。七草粥の一部を放出してくれ。」


「了解しました。」


 そこで通信は切れる。諏訪中佐は一拍おいてから、自身の艦隊に命令を下す。


「各艦長に伝達。これより施餓鬼を行う。下士官兵士は、各々一食分の戦闘糧食一二号を、念仏を唱えながら艦の外に放出しろ。閻魔様への感謝を忘れないように。」



◇◇◇



 艦隊が餓鬼道の上空をゆっくり旋回する。兵士下士官が各々一人ずつ、念仏を唱えながら戦闘糧食一二号を、餓鬼道へと投げ込む。大量の餓鬼達が上空を見上げる中、ありがたい七草粥が降ってくる。

七草粥の入った箱は、落下の衝撃で(つぶ)れるが、それでも中身は無事のようだ。


 餓鬼達は我先にと群がる。餓鬼同士で奪い合いも起きた。だが大量の七草粥は、その場にいた餓鬼達の飢えを満たすには、十分な量だった。


 箱からレトルトの七草粥を取り出す。封を切りお粥を喉に流し込む。透明の封を切り、シシャモを手づかみで取り出す。


 桃が入ったレトルトの袋。乱暴に破り、中身を一気に食す。


 餓鬼達は歓喜に沸く。諏訪中佐の言った通り、この戦闘糧食が餓鬼の飢えを満たしたからだ。


 餓鬼のある者は両手を合わせる。感謝を述べる者もいた。艦隊の後を鈍足で追う者もいた。


 そして艦隊は去っていく。やがて餓鬼達の視界から艦隊が消え去って、飢えと渇きの世界に乾いた風が吹いた。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は閻魔と黄泉軍の高官との会話になります。


 それではまたお会いしましょう。


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