第八話 9 帰還艦隊の立ち位置
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
靖國大佐は、ふとあることを思い出し、一瞬思案したのち、閻魔に質問する。泊地島にいた時に、議論がもめたある一件だ。
「閻魔殿。一つ質問です。」
「何でしょう。靖國大佐。」
靖國大佐は一拍おく。わずかな懸念を押し込めて口を開く。
「我が泊地島の住民は、対外的には本国の同胞ではないことになっています。」
「そうですね。外国勢力の難癖で、形式上難民という事になっています。」
靖國大佐は靖國領の住人の立場を口にする。
この難民という立場。この件については評価が分かれた案件だった。
本国が帰還作戦を表明した時、外国勢から言いがかりに対する回答だった。
立場上本国は、難民である靖國領の住人。すなわち、帰還艦隊を迎え入れると表明している。
しかし難民と出したその回答で、立場上、黄泉軍が所属する本国とは、別の国民という事になっている。
本国の方針として、別の国の住民について難民はおろか、他国からの移住も認めていない。例外は、帰属した堕天使くらいだ。
その理由は、黄泉軍は人間とは異なる知的生物で、その黄泉軍が存在する国は一つしかない。そして本国の軍隊の存在理由として、“種の存続”を掲げている。
そのため本国は今まで、難民を受け入れなかった。しかし今回は黄泉軍の難民。政治的な駆け引きをだしに、あえて難民認定して保護することになった。
当然この本国の対応は、佐官の間で論争が起きた。この問題は、“種の存続”でどうとでもなる。黄泉軍の存続を理由に、外国勢の言いがかりを撥ねつけることができるからだ。
それなのにあえて本国は、靖國領の住人を難民と位置付けた。これは政治的な駆け引きのためか、言い逃れかは、人それぞれの解釈が分かれていた。
だがその論争も、帰還が開始するころには、ある結論に至っていた。そしてその結論は、ある意味『えげつない』結論だった。
「この件はいろいろと論議を呼びましたが、一つ結論が出ました。」
「それはどのような結論ですか。」
靖國大佐は再び一拍置く。閻魔の前で言っていい内容ではない。そんな風にも思えたからだ。そのため、自然と遠回しな物言いになる。
「我々は本国に属さない黄泉軍です。どこの国にも属さない民という扱いです。」
「そうですね。そうとも取れます。」
靖國大佐は閻魔の表情を見る。閻魔の顔は無表情だ。それは内心を押し殺している。それとも、閻魔は靖國大佐の言いたい事を、理解しているのだろうか。そのため、あえて心証を悟られないように無表情を演じる。靖國大佐にはそのように見えた。
靖國大佐はさらに一拍置く。一瞬だけ思案して、今度は簡潔に、結論からを述べる。
「条約や倫理には縛られない。これが本国の難民認定に対する、我々の答えです。」
靖國大佐は閻魔の表情を見る。相変わらず無表情だ。
「どこの国とも条約を結んでいません。先ほどの地獄の亡者の話ではないですが、言い方を変えると、“捕虜”の概念もありません。当然、保護する理由もありません。よって、悪い意味で自由な裁量が認められています。」
「そうですね。」
閻魔は靖國大佐の言葉を遮るように返答をする。目を閉じて再びため息をつく。そして目を開くと、再び言葉が紡がれる。
「靖國大佐。確かに貴方の言う通り、悪い意味で自由な裁量があります。その行動によっては、他国からの非難だけではなく、黄泉軍の同胞の評価も変わるでしょう。」
閻魔の言葉が一瞬止まる。
「忘却の川は無秩序で、法も倫理もあって無いようなものです。仏や神の目も、届かないかもしれません、そして唯物的にふるまっても、何人にも咎められないかもしれません。ですが…。」
閻魔は目をつむり僅かに顔をそむける。靖國大佐は次に発せられる言葉がどのようなものか。それは一瞬で察しがついた。
「帰還に全力を尽くすだけでなく、帰還民のための最善を選びなさい。そして可能な限り徳を積みなさい。私から言えるのはこれだけです。」
そういった閻魔の表情。靖國大佐には、どこか複雑なものに思えた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は会見に、無粋な横槍が入ります。
それではまたお会いしましょう。




