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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第八話 進路は餓鬼道
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第八話 8 観測された未知の艦隊

この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。

「外国の艦隊ですか。どこの勢力ですか。」


 問題に対するには、その素性を知る必要がある。靖國(やすくに)大佐は定型文ともいえる質問をした。


「国籍を示す旗が示されていないため、国籍は不明です。ですが基督(きりすと)教圏の地獄の亡者が、天使たちによって徴用されたのを確認しました。徴用された人数と艦隊の規模、これらは一致します。」


「カトリックかな。プロテスタントかな。神の解釈派閥が二つ。ごった煮でも面白いけどねぇ。」


 閻魔(えんま)の説明に軍医が茶々を入れる。靖国大佐は知識以上のものを知らないため、派閥の違いは考えないことにした。


「続けて質問します。艦隊についてですが、編成は分かりますか。」


 靖國大佐は一番重要だと思った質問をする。編成が分かれば、おのずと対策や目的が分かると判断したからだ。


「数は三〇隻です。その全てが戦闘用で、誘導弾を主力とした艦艇です。明らかに戦闘を目的とした艦隊です。」


「もへ。戦闘全振りだねぇ。やる気満々で、誰と戦うんだろうねぇ。」


 軍医はおちゃらけた口調で言う。だが、探索が進んでいない忘却の川。戦う対象は現状一つしか思いつかない。


 靖國大佐は頭の中でどんぶり勘定をする。対艦誘導弾の終端速度は音速の二から三倍。十分に迎撃可能。問題は誘導弾の搭載数。艦対艦誘導弾だけでなく、対空誘導弾も艦の攻撃に使うだろう。手数で攻められたら面倒だと。


「未知の忘却の川に戦闘用艦隊。おそらく我々が目標ですが、地獄の亡者達が簡単に従うのでしょうか。」


 船員は地獄の罪人。教えに背くは朝飯前。盗人詐欺師に殺人犯。道徳礼節はどぶに捨てる。己の可愛さが第一で、軍隊に必要な規律にはそぐわない。靖国大佐はそう思っていた。


「実際に見てきたわけではないですが、大体の見当は付きます。」


 そう言うと閻魔は、大きくため息をつく。心労に似た何かを吐き出す。靖國大佐にはそう見えた。


「ある時、仏陀様が地獄をご覧になっていました。そして、そこにいた一人の亡者を憐れんで、か細い蜘蛛(くも)の糸を垂らしました。その亡者は、垂れた糸を必死に伝って登りました。それを見た他の亡者も、我先にと糸に群がりました。しかし糸は業の重さに耐えきれず切れてしまい、後には罪深き亡者のみが残されました。」


 そこまで言うと、閻魔は軽く深呼吸をする。


「地獄の亡者にとって、恩赦(おんしゃ)はとても魅力的です。それを吊るされたニンジンのようにぶら下げると、案外言うことを聞くものです。」


「でもこの手の事は、案外守られないんだよね。大体口約束だから。これ、ちょっとした豆知識。」


 閻魔の()い顔とは対照的に、軍医はもへへと笑う。


「そうなると、地獄の亡者は使い捨て、という事ですか。」


「そうでしょうね。地獄の亡者の運命は、既に決しています。」


 閻魔は再びため息をつく。そのため息は閻魔という立場上か、それとも本心からは、靖國大佐にはわからなかった。


「私は、この手のやり方は推奨しません。罪は刑によって償われるべきものです。」


「我々にはどうすることもできません。まさか地獄の亡者を連れて帰る訳にもいきません。」


 靖國大佐ははっきりと声明(せいめい)する。兵糧は有限で帰還民の分しかない。地獄の亡者を養うことができない時点で、定型文とも呼べる台詞を述べるだけだった。


 閻魔の憂い顔は晴れ、真剣な表情になる。


「差し当たっては、帰還を最優先に考えてください。外交や政治的な駆け引きは、本国で行います。」


 閻魔は断言する。ある意味、閻魔の言質を取ったともいえる内容だ。それに対して、靖國大佐はあることを思い出す。


 それは本国と靖國領の住民。そして第三国との立場だった。そしてそれは、思いのほかあやふやで危うい。しかし見方を変えると、倫理に束縛されない自由な立ち位置だった。




 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は閻魔に事の真意を問いただします。


 それではまたお会いしましょう。

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