第一話 8 淺糟軍曹の配属先と考察
当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
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「ところでお前さん。この艦の連中とは仲良くやっているか。」
吾輩は何気なく尋ねる。最近は吾輩の仕事が忙しくて、師匠として余り相手をしていない。
「はい。上官として色々と指示するのは大変ですが、皆よく働いてくれます。」
どうやら問題は無いみたいだな。吾輩は軍医殿をちらりと見やる。軍医殿はお茶を啜っている。
「淺糟君。チミの配属は何所だい。」
「第一主砲です。そこの指揮官をやっています。」
この艦の主砲は一四〇ミリ三連装砲塔だ。自動化が進んで人員は少なくなっているが、それでも砲撃手、観測員、給弾手が三人必要だったな。
「主砲の責任者は下士官だったね。部下は何人いるのかなぁ。」
「五人です。」
「確か兵卒が五名だったな。」
吾輩は記憶をたどって、配備する人員の記憶を引っ張り出す。すぐに思い出せないあたり、記憶力の向上が望まれる案件だな。
「いえ、下士官一名と兵卒三名です。」
おや。記憶違いかな。いや違うな。この配属は理由があったな。
「もへへ。淺糟軍曹は白兵戦要員だったよね。白兵戦の時に、砲塔を指揮する責任者が別に必要だから、下士官がもう一人いるんだよね。」
「はい。僕の部下に伍長がいます。」
ああ、思い出した。淺糟軍曹は白兵戦要員だから、代わりになる人員が必要だったのだな。白兵戦部門は我が艦にはない。非常時には該当する人員が招集されて、白兵戦に当たる事になっている。
「その刀に機関拳銃。白兵戦要員は当直の時に、武装するのが決まりだったね。」
普通、白兵戦要員は戦斧が得物だ。だが淺糟軍曹は、持参した刀を使い続けているようだ。
「まあ、主砲を使う機会が無ければよいが、当直時は気を引き締めて置くようにな。」
「はい。」
「ところで、この後仕事なのかな。」
軍医殿はお茶をがぶ飲みして訪ねる。ところでそのお茶は何杯目だ。
「いえ。今僕は非番です。」
非番なのに武装しているのか。吾輩はお茶を一口啜りながら、話を聞いている。
「何か起きてから準備をするのは、時間の無駄です。非番でも準備していれば、いざという時に迅速に対応できます。」
「…非番の時は休むものだぞ。」
「大丈夫です。慣れていますから。」
気を引き締めるように言ったが、ここまでしろと言うつもりはない。
「そうだったね。天の火に乗っていた時も、武装をしっぱなしだったよね。」
軍医殿はこめかみを押さえて言う。どうも今に始まった事では無いらしい。
吾輩と軍医殿は幼い軍曹の健康を、僅かだが心配した。
◇◇◇
靖國大佐は艦長室で休息をとっている。艦の事は唯乃副長に任せている。
靖國大佐はベッドで横になっている。布団は被らずに、ただ横になっているだけだ。そして物思いにふけっている。
物思いの議題は、先の友軍艦艇に模した、穢れた幽霊船についてだ。
普通の穢れた幽霊船なら、魑魅魍魎もついてくるはずだ。
黄泉軍が経験する穢れは、神話生物、架空の生物を模した物から、空飛ぶ架空戦艦に人型ロボットがあった。泊地島に迷い込んだ穢れが、謎の宇宙戦艦の形を模していた事もあった。
しかし味方の艦を模倣してくる事は初めてだ。
大体、襲い掛かってくる穢れの形状は、中津国、つまり人間達の世界が絡んでくる。例えば強力な大砲を積んだ強い戦艦。あるいは映画や漫画、アニメに出てくる、強そうなロボットや戦闘機。
固定観念や憧れ。それらが活躍する場面を見て、強そうだと感じる思い。そう言った物が、穢れを纏い、我々黄泉軍に牙を向ける。
そして、それらの構成は支離滅裂だ。はっきり言って、魔法少女と人型ロボットが並走して空を飛ぶことくらい、珍しくない。
そして普段は支離滅裂な穢れの軍勢だが、ある程度の統一性がある場合がある。それらは、誰か思念が加わっている時だ。
では今回は誰の思惑だ。こう言った物は、集団の意識か何か大きな存在、神や大天使など、人間より格上の存在の思惑に影響される。
それで具体的に誰か。そこを考えようとすると、思考が霞の中に消える。全く心当たりがないからだ。
靖國大佐はベッドから起き上がると、机に向かう。机の上にある水筒を手に取り、蓋を開ける。
蓋を開けると珈琲の香りが漂う。靖國大佐は水筒の中身を一口飲む。砂糖の入っていない珈琲はほろ苦い。珈琲を飲むと机に座り、ノートパソコンを起動する。そして今日起きたことを、航海日誌に記すのであった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回からは、航路の先にある閉じた世界の探索になります。
それではまたお会いしましょう。