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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第八話 進路は餓鬼道
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第八話 6 餓鬼道の空

この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


「艦長。閻魔(えんま)様からの信号です。合流地点の座標です。」


 唯野大尉からの連絡。進入と同時通信があるのを見ると、進入前から監視されていたのだろうと、靖國(やすくに)大佐は推察していた。


「分かった。ペプーリア殿の機体に送信してくれ。」


「了解しました。」


 靖國大佐が応対を終え軍医を確認すると、軍医は操縦席に飛び乗る瞬間だった。軍医が操縦席に座り戦闘機の端末をいじる。


「ペプーリア殿。すぐにでも行けそうか。」


 靖國大佐は“飛翔(ひしょう)”の術で浮かび上がり、軍医の作業をのぞき込む。ちょうど軍医の端末操作が終了し、頭の中に位置情報が流れてくる。


「直線距離で約一〇分だね。もっともこれは『この戦闘機』での到達時間だね。靖國大佐が飛べば、もっと早く着くんじゃない。」


 戦闘機の速度は軽く音速を超える。それに対し“飛翔”の術では、どうあがいても音速の壁は越えられない。“飛翔”の術では音速の対象を、保護することを想定していないからだ。


「つまり物理的な距離ではなく、理力や精神的な物が絡んでいるということだな。」


「そゆこと。術の能力や神徳の類かな。で、どうするの。やっぱりこれで行く。」


 軍医は戦闘機をコンコンと叩いて尋ねる。


「最初からその予定だ。それにその戦闘機なら、軽い結界を張ることができるだろう。生身で行くより、いざという時に安全のはずだ。」


「どだろ。その面でも靖國大佐単身の方が、安全な気がするけどね。ま、一緒に行く話だから、ボクも行くけど。乗るかにゃ。」


 靖國大佐は軍医の返答の代わりに、戦闘機の後部座席に座り込む。


「出してくれ。」


「了解。」


 軍医はそう言うと、戦闘機の天蓋(てんがい)を閉める。そしてふわりと戦闘機が浮かび上がり、急加速で夕焼けの方角に飛び去った。



◇◇◇



「この戦闘機も、慣性制御が効いているのか。加速に対してそれほど衝撃は強くなかったぞ。」


「そうだよ。そうじゃなきゃ、航空力学を無視した飛行はできないからね。」


 風も無く、雲一つ無い空に轟音が響く。乾いた空気を飛ぶ戦闘機が、斥力を発して軽快に飛ぶ。


餓鬼道(がきどう)の餓鬼達が頭を上げる。轟音の先に目を向け、ある者は手を伸ばす。


 餓鬼達の頭上を戦闘機が飛ぶ。(あお)(みどり)の生命の色の機体は、飢えと渇きの世界に似つかわしくない。


「ところでペプーリア殿。」


「何じゃらほい。」


 物珍しい戦闘機の計器を眺めながら、靖國大佐は軍医に尋ねる。


「今回の進路変更。最初から予定されていた事ではないのか。」


「どゆこと。」


「閻魔との会見だ。帰還作戦は八ヶ城様の主導の作戦だ。しかも開始まで秘密にしていた。派閥が別の閻魔様とは、関係が薄いようにも思えるがな。」


「ふむふむ。」


 靖國大佐の疑問に、軍医は適当に相槌(あいづち)を打つ。少なくとも表面上は。


「八ヶ城派閥。軍派閥。術組合。そして閻魔殿の所属する仏門派閥。本国にはいくつもの派閥が存在する。少なくとも、軍派閥は帰還作戦に賛同しているな。」


「そうだね。満場一致の帰還作戦じゃないよねぇ。」


 軍医は思いだす。今回の帰還作戦で各派閥の反応を。明確に反対した派閥は無かったが、温度差があった。


 術組合が理力工学(りりょくこうがく)絡みで主導権を握ろうとしたのを、八ヶ城様じきじき一蹴したり、降天使(こうてんし)教会が外交面で懸念を示したりしていた。ひと悶着あったのを軍医は知っている。


 そして閻魔の所属する仏門派閥は消極的賛成だ。これは単に内部の意見をまとめていないからだろうと、軍医は思っていた。


「でも、そんなに気にしなくても良いよ。一度始動した帰還作戦。各派閥も、成功させるために足並みはそろえるだろうね。それに作戦が発表されたとき、同胞の支持は高かったからね。」


「それは聞いている。八ヶ城様に対する信仰が、その根底にあると聞いている。」


「そ。理由がなんにせよ、群衆の支持は軽視できないよ。同胞の後押しがあるから、気に病む必要はないよ。あ、そろそろ着くよ。」


 軍医がそう言うと、戦闘機がゆっくりと減速する。戦闘機のはるか前方に誰かが宙に浮いている。浮いている人影を、靖國大佐は戦闘機の装置を通して確認した。



 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は閻魔との会見です。


 それではまたお会いしましょう。


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