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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第八話 進路は餓鬼道
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第八話 5 飢えと渇きの世界

この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


 艦隊は忘却と飢餓(きが)の世界を(また)ぐ。鉄と黄金関炭鉱でできた艦が、一隻、また一隻と進入してくる。


 頭がかき回される錯覚。でたらめな浮遊感。世界が回転していると錯覚する眩暈(めまい)。これらの世界を渡る独特の感覚に加え、砂漠の砂を飲み込んだような喉の(かわ)きと、断食と錯覚するほどの空腹も、一瞬だが感じられた。餓鬼道(がきどう)独自の感覚だろうか。それほどまでに飢えと渇きが広がっている。


 渇きと飢えの錯覚のためか、軍医は兵糧貨幣の飴玉を取り出し、口の中で頬張る。


 他の乗員も、食べ物を口に運んだり、飲み物でのどを(うるお)したりしていた。それほどまでに、この世界には飢えと渇きが広がっていた。


 靖國(やすくに)大佐は観測機器の観測結果を確認する。


 当然、電探には何も映らず、ソナーにも反応はない。しかし一方では、明らかに異なる数値を示した機器もあった。


 その代表例が、多次元度数分析器と、神霊(しんれい)値を測定する装置だった。


 その観測結果は、三次元から七次元の場所であることを示していた。広大な空間の観測距離を数値に目を通す。その値は地球から月の距離と、一尺の距離を吐き出した。


 神霊値を測定する装置も見たことのない結果を吐き出す。神霊の存在が広く薄く広がっているのを示すが、神聖的なものでもなく、(よこしま)なものでもない。神も悪魔も確認が取れない。強いていえばゾンビに近い。ただ飢えたゾンビが彷徨(さまよ)う。そんな観測結果だ。


 極めつけは、外を観測していた観測員から、漆黒の闇の報告が入る。


 この観測結果に、乗員は驚きを隠せていなかった。しかし、靖國大佐はある意味納得していた。


 一言で言うと、観測された結果を真に受けるのは無意味。

 餓鬼道の世界は仏教の世界。物理法則が支配する常世ではなく、ある種の精神、そして神聖的な世界であるからだ。ましては死後の世界のため、未知の観測結果が叩き出されたのだろう。そしてゾンビの反応は餓鬼(がき)。これでつじつまが合う。外の景色も目には映らないのも、精神的な存在だからだろう。


 靖國大佐は思考無線で、導き出した私見を唯野(ただの)副官に伝え、事態の収拾を指示した。


 副官が各艦隊に指示を実行している間、靖國大佐は艦外知覚装置で艦の外を見渡す。しかし外は暗闇で、報告通り何も見渡すことができない。


 靖国大佐は目を閉じて、心の目で風景を見る感覚を試みる。すると細かい風景が(まぶた)に浮かび上がってくる。この事を唯野副官に伝えると、再び外の風景を観測する。


 世界は忘却の川と同じような、紅い夕焼けが広がっている。大地は赤銅(しゃくどう)色の土がむき出しで、ところどころ岩や石がむき出しになっている。自然の草木はなく、頼りない木々が立ち枯れしている。空気は乾ききっていて、弱弱しい風は肌寒かった。


「各員に伝える。外の風景は肉眼ではなく、心の目で見るように。」


 靖國大佐が指示をしてすぐ、外を観測する観測員からも、同様の観測結果を伝える。これが餓鬼道の真の姿だろうと、靖國大佐は思った。


 観測結果を集積している現場をよそに、靖国大佐は“生命探索”の術を行使する。


 生命の痕跡(こんせき)は思いのほか多かった。続けて観測機器で精神探査を合わせて行う。その結果、生命の全てが飢えと渇き訴え、苦しみに耐えていた。餓鬼しかいない。先ほどのゾンビの反応と一致していた。


“遠目”の術を行使して陸地を観測する。当然、飛ぶ鳥一羽も見当たらない。その代わり、人影が大量にみることができた。腕や足は()せこけて、腹が膨れ上がった餓鬼達がこちらを見ている。好奇心か、それとも苦しみからか、艦隊の方に向かってくる餓鬼達も、思いのほか多かった。


 地獄のような悲惨な世界ではなく、薄暗く、乾燥して、荒れ果てていて、見えない飢餓が際立っていた。それが餓鬼道なのだと、靖國大佐はしばし考察していた。


 そんな中、たった一つの神託ともいえる信号が、旗艦希望に入る。その声の主は、軍医のよく知る閻魔(えんま)だった。



 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は閻魔様の信号の元に向かいます。


 それではまたお会いしましょう。


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