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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第八話 進路は餓鬼道
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第八話 3 黄泉軍の閻魔

この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。

「それにしても、まさか餓鬼道(がきどう)に忘却の川が繋がっているとはな。ひょっとして、地獄にも繋がっていないだろうな。」


 吾輩(わがはい)は、わずかな不安を冗談めかして言う。それに対して、軍医殿は真剣な表情をする。


「うーん。ありうるかもねぇ。」


「本当か。」


 吾輩は思わず問いただす。それに対して、軍医殿は左手をヒラヒラと振るう。


「どだろ。何しろ、忘却の川の研究、全然進んでいないからね。けど、地獄には水が無かったと思うから、多分(つな)がっていないんじゃないかな。かな。」


 軍医殿はまるで冗談のように言う。可能性は無きにしもあらずだが、軍医殿の真意はまるで(つか)めない。


「ま、なるようになるんじゃない。閻魔(えんま)様が来るけど、直行で地獄行きってことは、さすがにないでしょ。軽く試されるかもしれないけどね。」


 軍医はそう言うと、もへへと笑う。吾輩は軍医殿の冗談を受け流すが、胸から湧き出る僅かな不安を確かに感じていた。


 忘却の川の研究は進んでいない。軍医殿の台詞ではないが、未知の航海の中、何に遭遇するか分からない。ひょっとして、餓鬼道くらいは序の口などという落ちも、覚悟しておくのがよいかもしれない。


 そんな不安をかき消すために、話の流れに乗って話題を変える。


「軍医殿。閻魔様と面識があるようだが、どのような人物か知っているか。」


 この質問の真意はない。強いて言えば単なる好奇心の延長線だ。


 閻魔様に関して言えば、事前情報があっても誤魔化しは効かない。神通力で嘘がばれるのは考慮すべきだ。


「もへへ。そうだねぇ。」


 軍医殿はそう言うと、明後日の方向を向いてしばし考える。


「今回会う閻魔様、名前は飛鳥(あすか) 美沙子(みさこ)。本国じゃ中将待遇だね。本国の仏教派閥にも影響力があるね。権力はめったに振るわないけど。」


 本国の派閥か。本国には大小いくつもの派閥があるらしい。そして派閥による都市が形成されるほどだ。社会による影響力は決して小さくはない。


「仕事に関しては公明正大を地で行く人かな。閻魔様って仕事上、それは当然だろうね。ま、逆に言えば私心は一切ないから、情の挟み込む余地はないね。」


「そうだろうな。そうでないと、閻魔様などは務まらないな。」


 吾輩は何気ない相槌(あいづち)を打つ。ここまでは予想できた事だ。


「もともとはお地蔵様って言ったけど、悟りの修行より救済を行っていたね。」


 これも地蔵という立場上、想像に難くない。しかし次の発言が、そんな公の姿を打ち砕く。


「そうそう。閻魔様は浅間中佐ほどじゃないけど、多趣味だね。お料理、盆栽、ブログ。それと動画視聴も流行りかな。旅行動画を見ているね。それと猫ちゃんやヒヨコの動画。あとゲーム実況の動画も見ていたね。」


「ちょっとまて。そんな私的な趣味まで知っているのか。いや、言ってもいいのか。そしてなぜ知っている。」


 いきなりの変化球に思わず突っ込みを入れる。意外な発言だが、それを他人に言ってもいいのか。


「いきなり質問が来たねぇ。料理と盆栽については、インターネットでブログを書いているね。知っている人は知ってるよ。動画については休憩時間に見せてもらったからだよ。」


「閻魔といえば堅苦しいと思っていたがな。説教臭かったりとか。」


「それは単なる偏見(へんけん)だね。浅間中佐の例もあるけど、何事にも偏見は禁物だよ。」


 そう言うと、軍医殿はもへへと笑う。


「それに閻魔様は説教しないよ。少なくとも今回の閻魔様はね。」


「どういう意味だ。」


「だって閻魔様の説教を聞くと、それが天道への近道と思うからね。それだと公平じゃないって言っていたよ。」


「なるほどな。」

 

 吾輩達がそんな話をしている周りには、いつの間にか一〇人くらいの人だかりができていた。おそらく閻魔様についての話を聞いていたのだろう。


「そんな訳だから、必要以上に臆しなくてもいいよ。逆に媚びると閻魔様の怒りを買う。ほかの(みんな)にも普段通りにするように伝えてちょ。」


 吾輩を含めた人だかりに言うと。軍医殿は何かの鼻歌を歌いながら、その場を後にした。




 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は餓鬼道に進入する直前の話です。


 それではまたお会いしましょう。


 連絡:年末年始で忙しくなるため、次の話は来年の1月5日に投稿予定です。

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