第八話 2 餓鬼道の水は塩辛い。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
靖國上級大尉の航海日誌
五二日。今後の進路について聞いた時、吾輩は耳を疑った。まさか閉じた世界ではなく、餓鬼道を通行するとは予想しなかった。そして次の発言によって、我が艦の中にさらに緊張が走った。
靖國大佐と閻魔様が会見をする。各々は粗相がないように、静粛にする事と。
艦の乗員の中には、やれ舌を抜かれないか。そのまま地獄行きじゃないかと、不穏な事を言う連中もいた。
そこで吾輩は、戦闘指揮所は副長である砲雷長に任せ、艦内を徘徊して不穏な火種を消しに回った。
そんな中、艦内の通路で非番だった軍医殿と会う。軍医殿も同様に、艦内の不審火を消しに回っているように思えた。
◇◇◇
「もへへ。上級大尉だねぇ。艦の指揮は良いのかにゃ。」
軍医殿との出会い頭でこの口調。確か閻魔様と面識があると、本人の口から聞いた事がある。
「それは砲雷長に任せてある。ところで軍医殿、お前さんに命令が来た。六時間後に希望と合流して、
希望に乗船するようにとの事だ。閻魔様との面会に立ち会え、と言っていたな。」
軍医殿は一瞬動作を止めて硬直する。ほんの一瞬だが、吾輩は見逃さなかった。
「閻魔様ねぇ。あの閻魔様かな。」
「あの閻魔様だと。まるで複数いる言い草だな。」
吾輩の疑問をよそに頭を掻く。何か特定の人物に思い当たりがあるのだろうか。
「そうだね。複数人いるよ。十王では捌ききれないほど、人間は繁殖したからね。多忙になったから、地蔵菩薩から人材を採用したって話だよ。」
「そんな話があったのだな。」
人間は億単位の数がいる話は知っていたが、亡者の裁判官の数が不足するほどとは、思いもよらなかった。
「すぐにでも行きたいけど、航路は狭かったんだよね。」
「ああ。大型艦だと一隻がやっとだな。全艦通行は、残り四時間かかる見積だ。」
我々は回廊を通行している。餓鬼道に狭い回廊だ。現在一隻ずつ通行しているため、全館通過にはしばらく時間がかかる。余談だが戦艦希望は先陣で、我々第一探査艦隊は殿だ。後方の安全確認と有事の足止めを兼ねてだ。
吾輩はふと疑問が浮かぶ。ずいぶんどうでもよい疑問だったが、それでも気になったため軍医殿に質問する。
「軍医殿。餓鬼道に艦が通行するだけの水はあるのか。飢えと渇きの餓鬼道。渇きを満たす水があるとも思えないが。」
本国が通行を示している以上、何かしら液体はあるだろう。だがそれは、我々の知る水とは限らない。
「もへへ。そこまで警戒しなくても良いよ。餓鬼道にも水はちゃんとあるよ。」
そこまで言うと、軍医殿は一拍置く。まるで勿体ぶっているようだ。
「ただし、飛び切り塩辛い水だよ。地球上のどの海より塩辛いって話だね。人間じゃあ、とてもじゃないと飲めないだろうね。」
「そうか。それでは渇きを満たすのは無理そうだな。」
「そうだね。ところで上級大尉。一つ質問。」
「どうしたのだ。」
今度は軍医殿からの質問だ。餓鬼道に関しては軍医殿が詳しい。何か懸念でもあるのだろうか。
「塩分濃度が高いから、水の浮力は強いよ。艦の推進や重量の均衡。大丈夫かな。トップヘビーになるかもね。」
軍医殿の質問。通常なら危惧するに値する内容だ。だがこの艦隊に関しては問題無い。
「それは大丈夫だろう。黄金石炭鋼の斥力推進。実用面で空も飛べるほどだ。それだけの推力で艦の姿勢の制御している。重心が多少ずれた程度では、航行に支障はない。」
今更ながら帰還艦隊の艦は斥力推進だ。スクリューも無いため、液体を気にする必要は無い。そしてその推進力は、艦の飛行も実現させる。今まで艦隊が飛行しなかったが、忘却の川を遡るのが目的で、飛行する場面が無かったからだ。
ついでにもう一つ言うと、飛行時の方が速度の方が低い。水上時の半分くらいだ。これは水の浮力に頼れば、速力に艦の推進力を注ぐことができるためだ。
いずれにせよ餓鬼道の侵入は、問題がないようだ。ただ塩辛い水なら、通行に問題は無いように思えた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は黄泉軍の閻魔についてです。
それではまたお会いしましょう。
連絡:年末年始で忙しくなるため、次の話は12月29日。その次の話を来年の1月5日に投稿予定です。




