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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第八話 進路は餓鬼道
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第八話 1 忘却と餓鬼道の境目

この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


靖國(やすくに)大佐の航海日誌


 五二日。救助した乗員の操艦の習熟はなんとかなりそうだ。浅間中佐が人事を意見してきた時には内心驚きもあったが、同時に論理的で迅速(じんそく)な事態の解決方法だった。天の火(あまのひ)の操艦は簡単だったのが幸いした。


 そして本日をもって、泊地島(はくちとう)の住人は転属となる。天の火は本国出身者で操艦される事となる。浅間中佐は何か隠しているように思えるが、事は順調に運びそうだ。


 さて話題を変える。本国の観測により、航路の変更があった。近道をする事になったが、問題はその航路の変更先だ。そこは閉じた世界などではなく、『餓鬼道(がきどう)』経由の航路だった。



◇◇◇



「ったく。本国は本気かぁ。忘却の川は餓鬼道にも繋がっていたのかよ。」


 艦隊間の思考無線会議。八坂中佐は文句を言うとソーダ水を飲み干す。


 他の面々も、珈琲、紅茶、緑茶を持参して会議に臨んでいる。そしてその全員が、ビスケットや羊羹(ようかん)、乾パンに干し肉などの食べ物も持参している。


 もし、一つの机で話し合っていたら、それは会議ではなく野郎共のお茶会、と言った風に見えるだろう。


 会議の面々も内心驚いていた。忘却の川は時として、閉じた世界に繋がっている。これは本国の観測結果から分かっていた。しかし『餓鬼道』と繋がっているとは、考えもしなかった。


 餓鬼道は六道や十界などに出てくる仏教の世界だ。餓鬼が住まう、飢えと渇きに支配された世界だ。閻魔の裁判の行先でもある。


「餓鬼界を通行しますが、閻魔(えんま)様の許しは出ているのでしょうか。」


諏訪中佐は会議が始まってから、飲み物に手を付けていない。そのため熱い紅茶は生暖かくなっていた。


「その件だが、現地で閻魔殿に会う手はずになっている。一度、我々を見てみたいとの事だ。」


 靖國大佐はそう言うと、珈琲を一口飲む。諏訪中佐とは対照的に、三杯目の珈琲を飲み干す。


「その閻魔様は、黄泉軍を裁く閻魔様じゃったかの。」


 浅間中佐は発言してから、羊羹を口に放り込む。思考無線越しに、その甘みと匂いが各々に伝わる。


「そうですね。詳しくは知りませんが、元は地蔵菩薩(じぞうぼさつ)だったと聞きます。」


 諏訪中佐はクッキーも手を付けていない。神仏に対して恐れを抱いているのか。信仰心の高い人物だったかと、靖國大佐は思いなおす。


「その方は黄泉軍だけでなく、人間達も裁いているようだがな。」


 靖國大佐は乾パンを(かじ)る。諏訪中佐と対照的に、閻魔の話が出ても動じていない。


「この餓鬼道経由の航路。一か月の短縮になるな。それに対して、遠回りは閉じた世界と広大な水域、おまけに不安定な回廊を通るんだろ。正気の沙汰じゃねえが、他に選択肢はねえみてえだな。」


 八坂中佐は愚痴を吐くように言う。そして干し肉を齧る。


 過去に穢れの襲撃を四度受けている。それだけでなく、不安定な回廊で遭難騒ぎもあった。あれこれと面倒事があったため、できるだけ最短距離を通りたいのが、八坂中佐の本音だった。


「本国に問い合わせたが、判断は我々がする事になっている。そこで問いたいが、餓鬼界の通行、皆はどう思うか聞きたい。ちなみに私は賛成だ。」


 靖國大佐は自身の問いに対して断言する。沈黙が支配するかと思えたが、即座に浅間中佐が返答をする。


「儂も賛成じゃ。と言うよりも、これは事実上、一択しかないじゃろう。」


「どう言う事ですか。餓鬼道通行が唯一の選択ですか。」


 浅間中佐の即答に諏訪中佐が真意を問う。その表情は僅かに歪み、浅間中佐の真意を測るようだった。


「そうじゃ。閻魔様の面会を、まさかすっぽかす事もできんじゃろう。それこそ失礼になるじゃろうて。」


 浅間中佐は羊羹を齧ろうと手を伸ばすが、すでにそこには羊羹は無かった。


「それに一度、会ってみるのも良いじゃろう。本国の本音が効ければ御の字じゃが、挙動で現状を把握する事もできるじゃろう。」


 浅間中佐は少し物足りない表情をする。そしてお茶を飲み、口の中の甘味を喉に流し込む。


「俺も賛成だ。正直気味が悪いが、遠回りしていると兵糧の問題もある。一か月だ。それだけの食料の消耗は避けたいぜ。」


 八坂中佐は少ししかめっ面をする。腹をくくったようだが、心情的にまだ整理はできていないようだ。


 諏訪中佐はため息をつく。何かのつっかえを吐き出すような、大きなため息だ。


「分かりました。私も賛成しましょう。ところで誰が閻魔様と会見をするのですか。」


 諏訪中佐の質問。一瞬沈黙が支配するが、既に答えが出ている話だった。


「それは私以外いないだろう。会見の間の艦隊の指揮は、八坂中佐に一任する。」


「了解したぜ。」


 靖國大佐の答え。それは唯一で最善である事は、中佐の面々には分っていた。


「それにペプーリア殿にも一緒に来てもらう。以前聞いた話だが、どうやら閻魔殿とも面識があるようだからな。」


 靖國大佐のこの発言に、各々は軍医を思い浮かべる。


 諏訪中佐は、軍医の戦闘機で行けば時間短縮になるだろう。そう思った。


 八坂中佐は、軍医のふざけている言動が問題にならないかと、内心毒づく。


 浅間中佐は、軍医経由で何か有益な情報が得られないか。そのように助言しようか。


 三者三様の思考をよそに、靖國大佐は最期の乾パンを口に入れた。



 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は場面は銀山。餓鬼道についての話題になります。


 それではまたお会いしましょう。

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