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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第一話 靖國帰還艦隊
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第一話 7 第一探査艦隊の宿命

 当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。


この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。


「軍医殿。今後の航路についての確認だが。」


吾輩(わがはい)はお吸い物をぐいぐいと飲み込む。ふむ、美味いな。


「どうも変更があるみたいだね。さっそくだけど、閉じた世界に寄るらしいね。」


「さっそく忙しくなりそうだな。」


 軍医殿は何とどら焼きから食べている。ガツガツと、(むさぼ)るように食べているが、いきなり菓子を食らうか。


「あの。僕は下士官ですが、この話は聞いても良いのですか。」


 淺糟(あさかす)軍曹はちらし寿司を食べる箸を突然止める。士官同士の話だから。それとも航路にかかわる話だからか。淺糟軍曹は配慮を示したのだな。


「ああ。問題無い。今夜、情報端末の情報を更新する。その時に乗せる情報だ。じきに情報が更新される内容だ。」


 吾輩はお吸い物を飲み干し、お新香を食べる。この情報は公開される情報だ。だから食堂で会話しても問題無い。


「そうですか。それなら良いのですが。」


 そう言うと淺糟軍曹は、ちらし寿司を食べる事を再開すると思いきや、再び(はし)を止める。


「どしたの。」


 軍医殿の問いに、淺糟軍曹は顔を上げる。


「閉じた世界に立ち寄ると言いました。僕達の第一探査(たんさ)艦隊が、先行して調査するという事でしょうか。」


 実に直線的な質問だな。吾輩は横で話を聞きながら、お新香を食べ続ける。


「そうだね。そのための探査艦隊だよ。本隊の危険の有無を探査するのが、ボク達の役目だよ。まあボク達だけじゃなくて、他の探査艦隊にも言える事だけどね。」


 軍医殿はさらり説明したが、同時に重要部分を省いたのを、吾輩は見逃さない。


 何故なら、第一探査艦隊が先陣に立って、航路の探査を行うため、危険度が一番高いという事だ。

これは第一探査艦隊の構成に理由がある。


 第一探査艦隊の艦艇は、探査能力が優れているという点が理由だ。


 例えば銀山の艦橋は、規格外に大きい。そのため優秀な探査装置と情報処理能力を有する。第一探査艦隊に配属されている天の火(あまのひ)も、探査能力と情報処理能力に秀でている。


 他の探査艦隊は、銀山のような、優秀な探査能力を持っていない。同党の探査能力を持つ艦は、旗艦の希望と輸送艦隊旗艦の工作艦泊地富士(はくちふじ)と意外と少ない。


 第二、第三探査艦隊は、吾輩達の艦隊ほどの探査能力を持っていない。そのため、危険な探査任務が回ってくるのは、想像に難くない。



◇◇◇



「ところで軍医殿。航路の変更の件ですが、何かあったのか。」


 吾輩はお新香を半分くらい食べたところで、いったん箸を止める。少し口の中がしょっぱくなったので、口直しに緑茶を冷ましながら(すす)る。


「靖國領を離れて分かった事だけど、当初の航路だと時間がかかりすぎるという事だよ。」


 軍医殿はお新香をちびちびと食べ始める。貪欲(どんよく)に貪っていたどら焼きとは対照的だ。


「だから、閉じた世界経由の方が、時間短縮になると。」


 口直しを終えた吾輩は、再びお新香を食べ始める。お新香は上手いのだが、少ししょっぱいのが欠点だ。


「そうだねぇ。近くで探査しなければ分からないけど、そう判断したみたいだね。」


 軍医殿はお新香を食べるのをやめると、ちらし寿司を食べ始める。


「閉じた世界に侵入して、大丈夫でしょうか。」


 黙々とちらし寿司を食べていた淺糟軍曹が、不安を口にする。大丈夫の意味は危険が無いかと言う意味だろうか。


「多分大丈夫だろう。我が艦隊の戦闘力はそれなりにある。吾輩を含めた腕利きも多数いる。ちっとやそっとの事では、大事には至らないだろう。」


 吾輩は最後の一切れのお新香を、口の中に放り込む。()んで飲み込むと話を続ける。


「それに遠方からの観測では、穢れの反応は無かった。我が艦隊が対応する危険は、さし当たっては無いな。」


 お新香を食べ終えた吾輩は、ちらし寿司に箸を進める。ちらし寿司を一口頬張る、酢飯とマグロの掛け合いが、とても美味に感じる。


「その発言を聞くと、僕達の艦隊が調査するのですか。他の探査艦隊もありますが。」


 いつの間にかお新香を半分食べた淺糟軍曹が驚く。


「あ、そうだよ。今回の探査はボク達にお鉢が回ってきたんだよ。」


 お新香の攻略を中断して、ちらしずしを食べている軍医殿が、淺糟軍曹の疑問に答える。


「うちの艦隊は一番探査能力が高いからな。」


 吾輩は会話の途中でちらし寿司を一口頬張る。いささか行儀が悪かったか。


「閉じた世界の探査という、実績を作るのにちょうどよいのだろう。」


 吾輩はちらし寿司を飲み込んで答える。ちらし寿司をもう一口頬張ろうとしたところ、ふと疑問が浮かび、無意識に口に出る。


「これは下手をすると、毎回貧乏くじを引かされる事に、なるかもしれないな。」


 淺糟軍曹の箸が止まる。ちょうどお新香に箸を伸ばした瞬間だ。


「どういう意味ですか。」


 淺糟軍曹が恐る恐る(たず)ねる。軍医殿は目をそらして食事を続けている。軍医殿は何か知っているな。


「銀山は、探査能力に優れているからな。他の探査艦隊より探査能力が優れているから、率先して斥候(せっこう)をやらされるのがオチだな。」


 吾輩は箸を止めてめ息をつく。体よくこき使われる未来に、少し気が重くなる。二人は黙り込み、しばし沈黙が続く。


「まあ、僕は命令に従うだけです。」



◇◇◇



「ところで今度訪れる閉じた世界。どのような場所か分かりますか。」


 淺糟軍曹が軍医に尋ねる。いつの間にかお新香とちらし寿司を食べ終えた軍医殿は、お茶を一口すすり答える。


「詳しくは分からないね。小さな島が一つ浮かんでいて、近海には何一つない世界だね。」


 軍医殿はそう言うとお吸い物を(すす)る。


「いずれにせよ、詳しく探査してみない事には分からないな。」

 

 ちらし寿司を食べ終え、吾輩はどら焼きを一口(かじ)る。ふむ、ほんのり甘くて美味いな。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 三人の会話は次回も続きます。


 それではまたお会いしましょう。 

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