第七話 8 学歴。軍医について。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
「これで講義は終了、と言いたいところだが、ペプーリア防壁の話がまだだったな。」
「これも教えていただけるのですか。」
吾輩は先の話で保留にした、ペプーリア防壁について思い出した。これの説明がまだだったが、あえて詳しい人物に話を投げる。
「いや、これは軍医殿の方が詳しいだろう。本国で論文が発表されたようだからな。」
「ほへへ。ボクに話が振られたねぇ。」
吾輩が軍医殿を見ると、糧食貨幣の玉子の握りずしを頬張っていた。
「術の話ならいざ知らず、学術的な物については、本来軍医殿の方が学があるだろう。大学も出たのだろう。どこの大学かは知らないが。」
「もへへ。黄泉軍大学の医学部。成績は上位だったね。」
少尉は驚く。淺糟軍曹も驚く。二等兵は首を傾げ、吾輩も驚いた。黄泉軍大学は、本国にある一番の難関大学だ。そこの医学部となると、術学部と肩を並べる、最も競争率の高い学部だと聞く。
「ペプーリア様。それは本当でしょうか。」
「本当だよ。これが証拠だよ。」
そう言うと軍医殿は、襟首に手を突っ込んで頸飾、いわゆるネックレスを取り出す。
その頸飾についている飾りは長方形で、金でできている。表には年号と『黄泉軍大学優秀卒業生 成績第九位』と、彫り込まれている。軍医殿が裏を見せると、『成績優良者 薬師神 童子』と、彫り込まれている。
そして吾輩の注目を引いたのが、理力の強さだ。理力の性質は護符の物だが、その強さはかなり強い。少なくとも、神社で売っているお守りや、本国から送られてきた護符とは、比べ物にならないほどだ。
そしてもう一つ気になるのが、使用者の限定させる術が付与されている事だ。早い話この護符は、他人には効果が無い。薬師神 童子と呼ばれる人物にしか効果が無い。この護符が正常に働いているという事は、軍医殿が薬師神 童子と言う人物であるという事だ。
「『くすりしかみ』ですか。」
「二等兵。これは『やくしじ』って読むんだよ。」
幼い二等兵の読み間違いを、淺糟軍曹が訂正する。微笑ましい場面をよそに、少尉が口を開く。
「薬師神がペプーリア様の本名なのですね。」
「そうだね。最もペプーリアになった時に、この名前も捨てたけどね。」
そう言うと軍医殿は頸飾をしまうそしてどこからともなく水のペットボトルを取り出し、一口飲む。
「それにしても、ペプーリア様は凄いですね。最高位の黄泉軍大学で、しかも成績優秀者だったとは。」
「そうだよ。凄いでしょ。でも特定の科目だけ、落第点すれすれだったんだよね。」
「そうなの。ペプーリア様は何が苦手だったの。」
二等兵が直球の質問をする。失礼と思ってしまう質問に対して、軍医殿は頬を掻いて答える。
「実はね。術の実演が必要な科目が、苦手だったんだよね。実技が苦手で、よく単位を落とさなかったものだと、今でも思うよ。」
「どのくらい苦手だったのですか。」
「こら、二等兵。」
再び二等兵が失礼な質問をする。それを淺糟軍曹がたしなめるが、軍医殿がそれを手で制する。
「そうだね。術の習得には苦労したね。“傷治し”、“消毒”、“病直し”、“血止め”。他にもいくつかあるけど、術の効力が弱くてね。ボク自身、手術では術のあまり使わないよ。代わりに霊薬を使っているけど。」
もへへと軍医は笑う。そしてサラッと、とんでもない事を言う。
「その代わり、他の学科や実技は、成績は良かったよ。半分くらいの科目は、満点だったねぇ。」
「でも九番ですよね。術の素質は生まれつきです。それって不公平じゃないですか。」
二等兵が言ったセリフ。このセリフに、吾輩は物事の本質の一端を感じた。
「二等兵君の言う事は分かるけど、お医者さんは手術でも術を使うからね。苦手だからできないは通用しないよ。お勉強が出来るだけじゃ、お医者さんとして失格だからね。」
ほへへ、と笑うと真顔になる。何を言い出すかと思えば、すっかり頭から抜けていた内容だった。
「そんな成績優良者が、直々にペプーリア防壁について教えるよ。」
そう言うと軍医殿は、ペットボトルの水を一口飲んで、話を始めた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
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次回は設定の話に戻ります。
それではまたお会いしましょう。




