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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第七話 第四艦隊と本国と泊地島の軌跡
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第七話 7 復習。黄金石炭鋼の艦船。

この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。

 吾輩(わがはい)は、押し殺した(かす)かな気配を感じる。この独特な気配の隠し方は、軍医殿のものだ。


「もへへ。いたいた。彼が例の術の開発者だよ。」


「まだ若いですな。信じられないです。」


 吾輩の後ろから、軍医殿の声が響く。吾輩の説明が終わるのと同時に、軍医殿が食堂に入ってきたのだろう。連れの士官は救助した乗員の士官のようだ。階級は少尉。確か航海長だったな。


 吾輩は立ち上がり敬礼をする。普段はため口を話す間柄だが、一応上官だ。さすがに部下がいる手前、最低限の規律は保つ。淺糟(あさかす)軍曹と二等兵も吾輩に習う。


「若いかどうかは知らないが、軍医殿と同じ歳だ。で、何か用かな。」


「帰還艦隊の規模に驚いていてね。その半数が木製艦って言ったら、もっと驚いていたよ。」


「木造艦って何ですか。ペプーリア様。」


 二等兵は不思議そうに会話に入る。吾輩は木造艦にと言う言葉に、内心反応する。軍医殿の言う木造艦は一つしかない。幼い二等兵は、それが分からないようだ。


「ほへ。言葉足らずだったかにゃ。黄金石炭鋼(おうごんせきたんこう)でできた艦だよ。小型艦艇から双胴戦艦まで、様々な艦に使われているよね。」


「で、黄金石炭鋼の解説を、吾輩にさせようという話か。」


「そゆこと。解説、お願いできるかな。」


「分かった。」


 軍医殿達は、空いている席に座る。吾輩はそれを確認すると席に座り、最後の一口の緑茶を飲み干した。



◇◇◇



 黄金石炭鋼。吾輩が発明した術で作成できる物質だ。石炭から作成できる物質だが、吾輩は石炭を木炭から作成する術。更に、木炭を木材から作成する術も開発した。これにより、軍医殿の言う木造艦では無いが、木材から黄金石炭鋼を作成できる。


 黄金石炭鋼の特徴は、金属にしては軽く、鉄のように固い。厳密には鉄より硬いが、反面脆い。斥力を発生させる資材で、理力を流すことにより、斥力を発生させる。


 更に専用の霊薬を用いる事で、強度を増すことができる。紅緑色の強靭さを増した資材。淺緑色の念力防壁を形成する資材。これらに変質させることができる。


 余談だが、変質させる霊薬は海水から作られる。木材と海水。材料はそこら辺にある物で作成可能なのが、最大の強みだ。


 無論、欠点もある。一つは術の行使には、その前提となる術がいくつもある点だ。黄金石炭鋼を作る術は、石炭を作る術。石炭を作る術は、木炭を作る術。そして“理力の水”と“理力の炎”の術の習熟が必要になる。


 更に作業には“耐熱”の術が無ければ、作業はままならない。長時間、炉のような熱のそばで作業するためだ。


 これらの術は、高い術の素質は必要ない。それでも黄金石炭鋼を作るには、いくつもの術の習熟が必要だ。

 次は、作成時に重労働が伴う点だ。端的に言えば、汚い粉塵と炉のような熱の前で、撹拌棒を用いて、石炭や木炭を攪拌する。当然、防塵マスクや耐熱ゴーグルをつけて作業するが、それらが重労働を和らげるわけはない。


 術の行使は自動化ができない。例え千年たっても、重労働から解放される事は無いだろう。


 そして最後に、合金を作る事ができない点だ。これは本国で実験した結果だが、黄金石炭鋼の合金を作る事ができないようだ。黄金石炭鋼の強度は、良くて鋼と同等だ。装甲などに転用するには、いささか不安が残る。


 淺緑(あさみどり)の黄金石炭鋼は、念力防壁を発生させる。念力防壁が防御力を強化させるが、それは理力がある場合で、理力の管理が重要になる。


 鋼より頑丈な黄金石炭鋼を作る場合、新しい霊薬を作る必要がある。そして術や霊薬の開発は容易ではない。



◇◇◇



「とまあ、ざっとだが以上だ。余談だが、艦隊の艦全てに黄金石炭鋼を使用している。そのため、短時間だが艦を飛行させることができる。」


 吾輩は説明を終える。一瞬静寂が訪れるが、軍医殿の連れの少尉が手を挙げる。その少尉はパッと見たところ、吾輩より年上のようだ。


「艦長殿。質問があります。」


「何か。」


「黄金石炭鋼ですが、人間に模倣させる事は無いのですか。」


 本国が理力工学を欲する理由。まるでそれを知っているかのような発言に思えた。


「その心配は無い。」


 士官の質問を、吾輩はバッサリと切る。


「人間達には作れない。その理由は二つある。」


 吾輩は一拍置いて、理由を述べる。


「人間界の人間は、術の存在自体知らない。よって、術を行使する人間はほとんどいない。」


「そうですか。」


 吾輩は再び一拍置いて、話を続ける。


「そしてもう一つ。黄金石炭鋼を作成する過程で、放射線が大量に発生する。人間達にとって致死量の毒だ。長くは生きられない。」


「我々は大丈夫なのですか。」


 士官の疑問はもっともだ。だが、その答えはすでに出ている。これが人間達と吾輩黄泉軍の、最大の相違点だと思う。


「それは問題無い。吾輩達黄泉軍は、放射線に対する耐性はとても高い。黄泉軍の肉体が強力な耐性を持っているだけでなく、ペプーリア防壁と言う見えない膜が、放射線を大幅に減衰させる。」


「ペプーリア防壁とは何でしょう。」


「それは後で説明する。」


 士官の質問を保留する。今は黄金石炭鋼の話をしているからだ。不快に思うかもしれないが、話はまだ終わっていない。


「つまり人間達には、黄金石炭鋼の作成自体ができないと。」


「そんなところだ。」


「本国では、黄金石炭鋼に目を付けているね。人間達を出し抜く技術になるか、その点にね。」


 軍医殿が本国の意図を付け足す。現在黄泉軍は、人間を出し抜く手段を模索している。その一つが、黄金石炭鋼を始めとする理力工学だ。帰還作戦の目的の一つに、理力工学に精通した人材を確保する事が、目的だという話も聞いた事がある。


「そう言う訳だ。黄金石炭鋼に限らず、理力工学の技術を持ち帰る。それが帰還作戦の目的に一つになっている。以上だ。」


「ご教授、ありがとうございます。」


 士官はお辞儀をして礼を述べる。


 理力工学の話が出ていたが、あえて本国に伝えていない技術がいくつもある。これは我々と本国との取引で、あえて伝えていない物だ。


 黄金石炭鋼についても同様で、本国の技術では、黄金石炭鋼で巨大な艦艇を作る事はできない。せいぜい軍医殿の戦闘機や、全長三〇メートルほどの宇宙船が限度だ。それらの技術は、帰還作戦が完了する事で、本国に伝来する事になる。


 我々は安全と繁栄のために帰還する。本国は帰還民を受け入れる事で、技術者と技術の確保をする。相互の利益の元に、今回の帰還作戦は成り立っているのだ。




 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回話が脱線し、軍医の話になります。


 それではまたお会いしましょう。

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