第七話 4 面会。二二二年ぶりの再会。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
浅間中佐が図書室に入ると、五名の士官が席を立ち敬礼する。救助した乗員の内、士官はこれが全てだ。
浅間中佐は敬礼を返しながら、五人を一瞥する。その後ろで軍医も一緒になって敬礼する。
艦長の大尉が一名。船務長の中尉が一名。そして砲雷長、機関長、航海長の三名の少尉だ。
浅間中佐の視線が一瞬止まる。視線の先には、若い航海長がいる。ヴィガージャ種の浅間中佐とは違い、人間型の黄泉軍だ。
年齢は三〇歳だが、人間に換算すると二十歳前の若造だ。大学を優秀な成績で卒業した、浅間中佐の従弟にあたる人物で、文武両道の若き人材に当時は嫉妬していた。しかしそれも、二〇〇年以上も前の話だ。
浅間中佐自身が年を取ったのか。中佐と言う地位が些細な嫉妬を一蹴したか。それとも、文武両面の実力で、大きく引き離したか。いずれにせよ、今の浅間中佐にとっては些細な事だ。
「さて、儂が浅間 阪文中佐じゃ。艦隊の三番目の地位、と言ったところじゃな。ところで大尉殿。貴官に尋ねたい。」
浅間中佐の表情が真剣な物に変わる。まるで何かを品定めをする表情だ。浅間中佐の気配に場の空気が変わり、指名された大尉を始め、一同に緊張が走る。その中で軍医の実はのほほんとして、緊迫した空気に動じていない。
「花札で負けた二〇文の負債。あれはまだ支払ってもらっておらんぞ。」
「へ。」
場の空気が一変する。先ほどまであった浅間中佐の気配は一変し、穏やかな物に変わる。
「ほれ、儂がはぐれる前日。接待で花札をしたじゃろう。そこでの五光と花見酒と月見酒。この三役の一発逆転劇。あれを忘れたとは言わせぬぞ。証人はほれ、一七代以外の全員じゃないかの。」
「え、おま、いえ、ひょっとして、本当に浅間伍長ですか。」
大尉の狼狽し、別の者はきょとんとしている。その仕草に、浅間中佐はにこりと微笑む。そして軍医は、相変わらずのほほんとしている。このやり取りは単なる冗談だろう。そしてそれをダシにして、浅間中佐なりに確認を取った。それが軍医の感じた内容だ。
「とりあえず、その話は後回しじゃ。」
そう言うと浅間中佐は、懐から契約書を出して軍医に渡す。そしてどっこいしょと言い、どっしりと席に座る。その場にいた者も、浅間中佐の着席に習い、各々の席に着いた。
◇◇◇
浅間中佐は大尉以下の士官に話す。
救助した乗員は、帰還艦隊と共に本国の帰還に臨むこと。
当然客人としてではなく、その帰還を手伝うために働く事。
決定事項では無いが、武装輸送艦『天の火』の操艦に、従事してもらう事。
そして口頭だが、泊地島の住人対する秘密。いざという時に独自に行動する可能性も、ここで示す。
そして浅間中佐は契約書を机に出す。その文字は達筆で、浅間中佐直々の執筆だ。その契約内容は、浅間中佐が話した内容だった。そこに軍医の、少し汚い字で署名する。この契約書の注意点があるとすれば、この契約の対象は軍医と救助された乗員の間の物だ。
最悪の場合、救助された乗員だけで帰還を目指す。そう言った契約内容だった。
「この件に関して有事の際、儂と一七代の指示に従ってもらう。この事は、泊地島の住人には秘密にするのじゃぞ。よいな。」
「了解しました。」
現在の状況に、内心戸惑いを覚える士官達。恐る恐る契約書を確認する士官達を、浅間中佐はあえて無視する。習うより慣れろ。そう判断したからだ。
契約書に目を通した大尉が、契約書に達筆で署名する。これでこの契約は成立した。
「さっそくじゃが、船務長、砲雷長、機関長、そして航海長には覚えてもらう事がある。お主らには専任の元で働いてもらう。さし当たっては銀山の設備の見学じゃの。」
「航海長の方はだめだよ。天の火の操艦は特殊だから、銀山のは参考にならないよ。」
天の火の操艦は、徹底的に簡略化されている。そしてそれは試験的な物で、他の帰還艦隊の物と比べて、明らかに異質な物だ。
その操作の違いは軍医曰、実機とゲーム機ほどの違いがあるとの事だ。
「そうかの。それじゃあ航海長は、銀山の中を見回ると良いじゃろう。残りの三人は銀山の設備を見て、どんな感じか掴むのが良いの。一七代、さっそく案内してくれんかの。」
「分かったよ。それじゃあ艦長さん以外は、ボクについてきて。」
軍医は席を立つと、他の四人もそれに習い図書室を後にする。
軍医と士官四名が図書室を後にする。残ったのは浅間中佐と艦長の大尉の二名のみだ。
しばし訪れる静寂。浅間中佐は懐に手を入れて口を開く。
「ところで艦長殿。」
「何でしょう。」
浅間中佐は、懐から何か握られている手を出す。
「花札で負けた二〇文。あれの支払いがまだだったの。」
その表情はニヤリと笑う。その表情は、いたずらをしたい少年のようにも思える。そしてその手には花札の箱が握られていた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は、靖國上級大尉が食堂に行くと、浅糟軍曹と二等兵がいました。
それではまたお会いしましょう。




