表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第七話 第四艦隊と本国と泊地島の軌跡
70/134

第七話 4 面会。二二二年ぶりの再会。

この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


 浅間中佐が図書室に入ると、五名の士官が席を立ち敬礼する。救助した乗員の内、士官はこれが全てだ。


 浅間中佐は敬礼を返しながら、五人を一瞥(いちべつ)する。その後ろで軍医も一緒になって敬礼する。

 艦長の大尉が一名。船務長の中尉が一名。そして砲雷長、機関長、航海長の三名の少尉だ。


 浅間中佐の視線が一瞬止まる。視線の先には、若い航海長がいる。ヴィガージャ種の浅間中佐とは違い、人間型の黄泉軍だ。


 年齢は三〇歳だが、人間に換算すると二十歳前の若造だ。大学を優秀な成績で卒業した、浅間中佐の従弟にあたる人物で、文武両道の若き人材に当時は嫉妬(しっと)していた。しかしそれも、二〇〇年以上も前の話だ。


 浅間中佐自身が年を取ったのか。中佐と言う地位が些細(ささい)な嫉妬を一蹴したか。それとも、文武両面の実力で、大きく引き離したか。いずれにせよ、今の浅間中佐にとっては些細な事だ。


「さて、儂が浅間 阪文(さかふみ)中佐じゃ。艦隊の三番目の地位、と言ったところじゃな。ところで大尉殿。貴官に尋ねたい。」


 浅間中佐の表情が真剣な物に変わる。まるで何かを品定めをする表情だ。浅間中佐の気配に場の空気が変わり、指名された大尉を始め、一同に緊張が走る。その中で軍医の実はのほほんとして、緊迫した空気に動じていない。


「花札で負けた二〇文の負債。あれはまだ支払ってもらっておらんぞ。」


「へ。」


 場の空気が一変する。先ほどまであった浅間中佐の気配は一変し、穏やかな物に変わる。


「ほれ、儂がはぐれる前日。接待で花札をしたじゃろう。そこでの五光と花見酒と月見酒。この三役の一発逆転劇。あれを忘れたとは言わせぬぞ。証人はほれ、一七代以外の全員じゃないかの。」


「え、おま、いえ、ひょっとして、本当に浅間伍長ですか。」


 大尉の狼狽し、別の者はきょとんとしている。その仕草に、浅間中佐はにこりと微笑む。そして軍医は、相変わらずのほほんとしている。このやり取りは単なる冗談だろう。そしてそれをダシにして、浅間中佐なりに確認を取った。それが軍医の感じた内容だ。


「とりあえず、その話は後回しじゃ。」


 そう言うと浅間中佐は、懐から契約書を出して軍医に渡す。そしてどっこいしょと言い、どっしりと席に座る。その場にいた者も、浅間中佐の着席に習い、各々の席に着いた。



◇◇◇




 浅間中佐は大尉以下の士官に話す。


 救助した乗員は、帰還艦隊と共に本国の帰還に臨むこと。


 当然客人としてではなく、その帰還を手伝うために働く事。


 決定事項では無いが、武装輸送艦『天の火』の操艦に、従事してもらう事。


 そして口頭だが、泊地島の住人対する秘密。いざという時に独自に行動する可能性も、ここで示す。


 そして浅間中佐は契約書を机に出す。その文字は達筆(たっぴつ)で、浅間中佐直々の執筆だ。その契約内容は、浅間中佐が話した内容だった。そこに軍医の、少し汚い字で署名する。この契約書の注意点があるとすれば、この契約の対象は軍医と救助された乗員の間の物だ。


 最悪の場合、救助された乗員だけで帰還を目指す。そう言った契約内容だった。


「この件に関して有事の際、儂と一七代の指示に従ってもらう。この事は、泊地島の住人には秘密にするのじゃぞ。よいな。」


「了解しました。」


 現在の状況に、内心戸惑いを覚える士官達。恐る恐る契約書を確認する士官達を、浅間中佐はあえて無視する。習うより慣れろ。そう判断したからだ。


 契約書に目を通した大尉が、契約書に達筆で署名する。これでこの契約は成立した。


「さっそくじゃが、船務長、砲雷長、機関長、そして航海長には覚えてもらう事がある。お主らには専任の元で働いてもらう。さし当たっては銀山の設備の見学じゃの。」


「航海長の方はだめだよ。天の火の操艦は特殊だから、銀山のは参考にならないよ。」


 天の火の操艦は、徹底的に簡略化されている。そしてそれは試験的な物で、他の帰還艦隊の物と比べて、明らかに異質な物だ。

その操作の違いは軍医曰、実機とゲーム機ほどの違いがあるとの事だ。


「そうかの。それじゃあ航海長は、銀山の中を見回ると良いじゃろう。残りの三人は銀山の設備を見て、どんな感じか掴むのが良いの。一七代、さっそく案内してくれんかの。」


「分かったよ。それじゃあ艦長さん以外は、ボクについてきて。」


 軍医は席を立つと、他の四人もそれに習い図書室を後にする。


 軍医と士官四名が図書室を後にする。残ったのは浅間中佐と艦長の大尉の二名のみだ。


 しばし訪れる静寂。浅間中佐は(ふところ)に手を入れて口を開く。


「ところで艦長殿。」


「何でしょう。」


 浅間中佐は、懐から何か握られている手を出す。


「花札で負けた二〇文。あれの支払いがまだだったの。」


 その表情はニヤリと笑う。その表情は、いたずらをしたい少年のようにも思える。そしてその手には花札の箱が握られていた。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は、靖國上級大尉が食堂に行くと、浅糟軍曹と二等兵がいました。


 それではまたお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ