第一話 6 夕食前の一時
当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
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「先ほどの戦闘結果の資料が、送られてきました。確認してください。」
船務長が希望より送られてきた戦闘結果を提示する。A4サイズの携帯情報端末の中に、今回の海戦の敬意と結果が記されている。
「どれどれ。」
「もへへ。どうだったのかな。」
吾輩と軍医は資料に目を通す。敵艦の誘導弾一斉発射を撃墜し損ねたのを皮切りに、巡洋艦を一隻ずつ確実に撃沈していく様を、資料を通して確認する。
「完全な一方的試合だね。戦艦の装甲もさることながら、巡洋艦を確実に始末する火力。相手が穢れた幽霊船だから、穢れ払いの曳光弾が効いたんだね。」
「戦果は上々だが、腰が軽いな。戦力を十分に確認しないで、単艦で処理しようとしているじゃないか。」
吾輩と軍医殿は各々感想を述べる。共通した認識としては、帰還艦隊の戦力は、ある程度あてになるという事だ。
「しかし気になるのは、穢れが友軍艦艇を模した点だな。何故、友軍艦艇を模してのだ。」
吾輩は頭に浮かんだ疑問を思わず口にした。友軍を模した事に、意味があるかどうかすら分からない事だ。
「模倣する物が、友軍艦艇しかなかったからかな。」
「それはどういう事だ。」
軍医殿の意見を、吾輩は瞬時に理解できなかった。
「ああ、大した意味は無いよ。穢れの発生源は、泊地島だよね。だから軍艦に該当するのは、帰還艦隊の物しかないかな、と思ってね。」
「なるほど。そう考えれば確かそうだな。」
なるほど。それなら友軍に化けて出た事の説明は付く。しかしもう一押し理由が欲しいが、情報はあまりにも不足しているな。
「けど、もう泊地島から離れる。友軍艦艇擬きに化かされるのは、これっきりだと思うよ。」
軍医殿はそう言うと、火のついない葉巻を吹かした。確かにこれっきりだろう。吾輩もそう思い、艦長席に深く腰を沈めた。
◇◇◇
時間は夕食。場所は銀山の食堂。この艦では士官と下士官と兵士が、全て同じ食堂で食事をする。食事と言っても戦闘糧食のため、袋から出して温めたり盛り付けたりするだけで、手間はあまりかからない。
食事の時間が過ぎて人の少ない食堂に、魔法銀の皮の重鎧と白衣の釣り合わない二人が、食堂に入ってくる。軍医と靖國上級大尉だ。
食堂の調理場では、兵卒達が大量の荒い物と格闘している。
「余計な手間は要らない。戦闘糧食を袋ごと出してくれ。後の盛り付けなどは吾輩達でやる。」
吾輩達は食器と戦闘糧食の袋を受け取る。今日の飯はちらし寿司とお吸い物だ
「今日の戦闘糧食はちらし寿司だね。」
「今日の戦闘糧食は当たりだな。」
◇◇◇
軍用糧食三号 ちらし寿司とお吸い物。
多めの酢飯のご飯。マグロの角切りにちぎったエビ。細切りにした紫蘇と、同じく細切りにした卵焼きが混ぜられている。
お吸い物は粉末のインスタントをお湯で戻す。可もなく不可もなく、普通のお吸い物だ。
そして意外な存在感を出すのは、お椀一杯分もあるお新香だ。ナス、大根、人参、胡瓜、カブ。味は一律に塩気が薄く、沢山食べやすくなっている。
そしてどら焼きと粉末緑茶が付いている。
とってつけたどら焼きの存在感が浮いている以外、味も量も十分な戦闘糧食だ。
鮮度は真空パックと保存の術により保たれている。味は上々で、人気のある戦闘糧食だ。吾輩もちらし寿司は好きだ。
◇◇◇
軍医と吾輩が食堂を見回したとき、ふと見覚えのある軍曹を見かけた。
淺糟軍曹が戦闘糧食の袋を片手に、手近な席に座ろうとしている。刀を差して、機関拳銃を肩から下げている。第一主砲の責任者だが、白兵戦要員も兼ねている。当直の時には武装しているようだ。
「淺糟君だねぇ。」
「あ。艦長と軍医様。」
淺糟軍曹は慌てて敬礼をした。敬礼を優先するあまり、手に持っていた戦闘糧食の袋を落とした。そんなに慌てなくても良いだろうに。
「どうやら驚かせてしまったようだねぇ。」
吾輩は淺糟軍曹が落とした戦闘糧食を拾う。
「我々もこれから飯だ。一緒にどうだろうか。」
そう言いながら、落とした戦闘糧食を淺糟軍曹に渡す。
「はい。」
そして吾輩達はすぐそばの席に陣取り、夕飯の用意をするのであった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は三人の会話になります。
それではまたお会いしましょう。