第七話 2 密談。今後の天の火の運用。
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
「ふむ。いつ見ても、大きな戦闘機じゃな。零式戦闘機より一回り大きいのぉ。」
場所は戦艦希望の後部甲板。浅間中佐は、軍医の召喚した戦闘機を見て呟く。蒼と碧の噴式戦闘機が、戦艦の後部甲板に鎮座している。
「もへへ。零戦より翼面積が広いか、らそう思えるかもね。ま、全長も長いけどねぇ。あ、梯子出す。」
「梯子はいらぬ。この程度の高さ、飛び乗る事ができるぞ。」
「そうなんだ。今、天蓋を開けるよ。」
軍医はそう言って念じる。戦闘機の天蓋は、駆動音を発しながらゆっくりと開く。
「この戦闘機は音よりも早く飛ぶのか。鳥と言うより、まるで弓矢じゃのぉ。」
「ほへ。まあ、例えはあっているかな。さてと、さっそく搭乗しよう。」
軍医がそう言うと、二人は三メートル以上跳躍する。
そして軍医は操縦席。浅間中佐は後部座席に搭乗すると、天蓋が閉じる。
「ところで一七代。銀山に着艦するのは何分後じゃ。」
「そうだねぇ。大体一五分くらいかなぁ。忘却の川での低空飛行。音速まで速度は出せないよ。」
「そうか。それでは出してくれ。」
「了解。」
軍医はそう言うと、緩やかな加速で加速して、低空飛行で戦艦希望を後にした。
◇◇◇
忘却の川での低空飛行。浅間中佐は、沈まない夕焼けを見ながら、軍医に話しかける。
「一七代。救助した乗員は、黄泉軍なのじゃな。」
「そうだね。血液検査と細胞検査を始め、“穢れ探知”と“生命探索”と“精神探索”の術。それと乗員の記録の確認。どれとっても疑いようは無いねぇ。」
「そうか。」
浅間中佐は顎をいじりながら考え事をするが、直ぐに髭をいじるのを止める。
「一七代。実はお前さんに、確認を取りたい事がある。」
「もへ。なんじゃらほい。」
軍医は普段のお茶らけた口調で、操縦桿を握ったまま返事をする。
「今回救助した乗員八五名。それと現在、天の火におる本国から来た連中とで、合わせて何名になるかの。」
「そうだねぇ。今、天の火にいるのが三〇名かなぁ。合わせて一一五名だねぇ。それがどうしたの。」
軍医の答えに、浅間中佐は再び髭をいじりながら、考え事をしている。
「一一五名か。それだけおれば、天の火の操艦に必要な人手になるのぉ。」
「人がいるだけじゃ、操艦はできないよ。訓練が必要だよ。」
浅間中佐は顎から手を放して、軍医の答えに返答をする。
「なに。習熟は何とかなるじゃろう。幸い奴らも船乗りじゃ。操艦の仕方ぐらい身につくじゃろう。」
「そうだね。天の火の操艦は、自動化と簡略化がされているからねぇ。船を動かすだけなら、習熟はそれほどかからないと思うよ。けど、それがどうしたの。」
軍医は操縦桿を握り、前を見ながら浅間中佐に質問する。頭の回転の速い軍医でも、浅間中佐の真意までは分からなかった。
「単刀直入に言う。天の火じゃが、今後は本国出身者で運用する。」
◇◇◇
「よいか一七代。今から言う事は、泊地島出身者には秘密じゃ。人事は儂の方で何とかするから、お前さんは天の火の操艦の習熟を何とかするのじゃ。契約書は儂の方で書いてある。」
「秘密のお話ねぇ。穏やかな話じゃないみたいね。」
軍医の口調は相変わらずだが、声の声音は低くなっていた。
「泊地島の初接触時、念話で泊地島の連中に語り掛けてきた。じゃが、本国出身者には、その声が聞こえなかった。そして泊地島の呪縛。何故か単胴艦では、泊地島から離れられない。ここまでは良いな。」
「確か単胴艦は、泊地島で作った船の話だね。本国で作った船は違ったね。」
軍医は思い出す。泊地島で建造した艦は全て多胴艦。胴体を複数持った艦だ。理由は性能云々の問題では無く、浅間中佐の言った泊地島の呪縛の対策だ。
「そうじゃ。じゃが、儂が思うに、その呪縛は泊地島出身者にも当てはまると思う。」
「そこまで言うには、何か根拠があるのかなぁ。」
何やら断言する浅間中佐に、軍医は質問で返して浅間中佐の真意を探る。
「儂の勘の域を出ない。じゃが、泊地島出身者にしか聞こえなかった念話。そして泊地島の民を取り返す執念。おそらく、あの手この手で帰還作戦を妨げるじゃろう。その時に、本国出身者で運用する艦があれば、呪縛に束縛されんじゃろう。」
「そうだねぇ。そう言えば今は、みんな泊地島出身者で操艦しているね。何かあった時のために、本国出身者だけで動ける艦が必要ってことかな。」
軍医は浅間中佐の真意を理解した。一言で言うと、泊地島に束縛されない艦、または戦力が必要と判断したのだろう。
「そう言う事じゃ。そして今回の件は、あくまでも隠して天の火を運用する。この件は靖國大佐にも秘密じゃ。まあ、悟られるかもしれんがの。」
「分かった。そう言う事なら、ボクの方も何とかするよ。あ、銀山が視認できたね。そろそろ到着するよ。」
「分かった。今回の件、くれぐれにも内密にの。それとこの件は、あくまでも乗員が白だった場合じゃ。」
「りょーかい。」
そこまで言うと二人の会話は止まる。そして機内は沈黙の代わりに、ジェット機の駆動音に支配された。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は銀山に到着します。
それではまたお会いしましょう。




