第六話 14 救助した友軍
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
「失礼します。ペプーリア少佐の代わりに、救助した乗員の情報を報告いたします。」
吾輩は艦隊間の思考無線の会議に顔を出す。顔を出すと言っても、はたから見ると、直立不動で立っているように見える。別に相手から見えるわけでは無い。席に座っても良いが、上官に報告する立場上、気を緩めるつもりはない。
吾輩は、会議の面々を見渡す。浅間中佐。諏訪中佐。八坂中佐。そして靖國大佐。個人的に面識がある、各艦隊の責任者だ。
「ご苦労。ところでペプーリア殿はどうしたのだ。」
靖國大佐の質問に呼応するように、その場にいる佐官の視線が、吾輩に向けられる。正直、居心地が悪い。
「ペプーリア少佐は軍医の責務に従事しています。救助した乗員の内、重傷者がいたため、現在手術に当たっています。」
吾輩は軍医殿の名を、正式名称で呼ぶ。皆は好き勝手呼んでいるが、公の報告だ。きちんとした呼称で呼ぶのが正しい。
「曽根康。ペプーリア自身はどうだ。怪我は無かったか。」
八坂中佐は軍医殿の安否を確認してきた。その質問は文字通りの質問だろうが、別の思惑が入っているようにも思えた。
「ペプーリア少佐自身からは、怪我の報告はありませんでした。小官が見た範囲でも同様です。戦闘機に損害については、ペプーリア少佐から聞かない事には、分かりません。」
「そうか。」
そう言うと八坂中佐は考え込む。その机の上には、ソーダ瓶が置かれていた。
よく観察すると、諏訪中佐は紅茶。浅間中佐は緑茶。靖國大佐は珈琲がそれぞれ置いてある。
まるでお茶会じゃないか。吾輩は腹の底で毒づくが、まさか上官達の前で愚痴を言う訳にもいかない。
「曽根康君。話が逸れましたが、救助した乗員について報告してください。」
諏訪中佐が話を戻す。正直、このまま話が脱線する予感がしていたが、その前に本題に入れそうだ。
「了解しました。まず、結論から申します。彼らは旧第四艦隊からはぐれてから、一〇日しかたっていませんでした。」
「たったの一〇日じゃと。」
「はい。」
明らかに驚いている浅間中佐。吾輩は淡々と報告を進める。
最初に乗員について。簡単な取り調べをしたところ、本国出身の黄泉軍で間違いなかった。術で裏付けを行ったが、魑魅魍魎が化けているわけでもなく、無論、人間でもなかった。
彼らの証言では、旧第四艦隊からはぐれた後、忘却の川を彷徨っていた。そして九日目に、閉じた世界に捕らわれ、途方に暮れていた矢先に、穢れに遭遇して逃げ回っていた、とのことだ。
「演算機の記録にあった乗員名簿も確認しましたが、全員一致しました。失踪時の年齢も一致しています。」
そう言うと吾輩は、船員の名簿を提示する。その資料は乗員名簿を元にして、生死の明記と怪我の度合いを記載している。
「それと念のために、“嘘探し”の術を悟られないように行使しましたが、嘘をついている気配もありませんでした。」
そこまで言うと、吾輩は一拍間を置く。
「報告は以上です。」
「“嘘探し”の件。それは確証がとれる情報か。」
報告が終わるとすぐ、靖國大佐が質問を投げかける。それに対して、ある種の定型文ともいえる答えを返す。
「確証はありません。“嘘探し”の術自体、精度の低い術です。術者と対象によっては効果が期待できません。」
“嘘探し”の術に限らず、相手の精神を探査したり心を読んだりする術は、黄泉軍に対して精度が低い。さらに対抗策もあるため、信頼性は低い。その一つが術を用いた防御だ。
「ですが、術などによる防御反応は、一切ありませんでした。その点では裏は無いと思います。」
「そうか。それなら良い。」
そう言うと、靖國大佐は顎に手を当てて考える。その一方で、浅間中佐は名簿を見ながら、独り言を言うように吾輩に問う。
「ふむ。名簿は一致。嘘の気配も無い。靖國上級大尉。お前さんは本当に、旧第四艦隊の連中だと思うのか。」
「確かに信じられません。ですが少なくとも、我々黄泉軍の同胞である事は、間違いありません。」
「ふむ。そうか。なら、実際に会ってみるのが確実じゃの。幸い、艦長殿とは知り合いじゃ。面だけでも拝んでおくかの。あちらの艦長にも確認したい事があるからの。」
「お会いになるのですか。」
吾輩は驚いたが、同時に納得していた。浅間中佐は、帰還艦隊唯一の本国出身者だ。
何か思うところがあるのだろうか。
「そうじゃ。とりあえず落ち着いたら行く。」
「了解しました。お待ちしております。」
吾輩は敬礼をする。それを確認した諏訪中佐が口を開く。
「救助した乗員については、浅間中佐に会っていただきましょう。この件はいったん保留です。曽根康君。君も退席していいです。」
「了解しました。それでは失礼します。」
吾輩は無線越しに敬礼をして、思考無線を切る。顔なじみで良くしてもらった方々とは言え、公の場での報告はそれなりに疲れるものだ。腹の中でぼやくと、吾輩は肩を鳴らして硬くなった肩をほぐした。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は次の話に移り、設定回という形になります。一部、前作の設定等も語られます。
それではまたお会いしましょう。




