第六話 13 軍医とペプーリア
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
軍医が乗る戦闘機が、甲板の乗員の頭上で浮遊している。突然、霞のように戦闘機が掻き消え、中にいた軍医殿が取り残され、五メートルの高さから、自由落下で着地する。
「もへへ。ペプーリア様のお帰りだぁ。」
軍医殿が戦闘機から降りてからの第一声。周りには人だかりができていて、そのほとんどが救助した乗員達だ。吾輩は数人の部下を連れて、後部甲板に出た。
「ペプーリア様。ご無事ですか。」
「ペプーリア様。お疲れ様です。」
同胞が軍医殿の安否を気遣う中、吾輩は人だかりを強引にかき分け、軍医殿の元に行く。
「お前さん達。軍医殿はお疲れだ。さあ、どいたどいた。」
「もへへ。希望者には後でボク直々の予防接種だ。だからここを通してね。」
そう言うと、吾輩は部下達に野次馬たちを任せる。吾輩は軍医殿を半分強引に引っ張って、先に艦内に入っていった。
◇◇◇
場所は銀山艦内通路。吾輩達は医務室に早歩きで向かっている。
「まったく。今回は危なかったじゃないか。」
「そうだねぇ。機銃と対潜魚雷が残っていたけど、この二つじゃあねぇ。」
「冗談ではないぞ。泊地島の執念はただ事じゃないぞ。」
医殿はもへへと笑う。軍医殿は笑って誤魔化しているが、事態は面倒な方向に向かっている。
その面倒事と言うのは、泊地島の穢れが形を変えながら、軍医殿を捕らえようとする。その執念だ。
直線的な砲撃が当たらなければ、散弾銃のような面攻撃をする。そして軍殿を捕らえる速力が無ければ、自壊させてでも噴進弾となって追いかける。
泊地島に対して、軍医殿は立派な囮として役立っている。その証拠に、絨毯爆撃を受けた戦艦崎の岬の被害は、爆撃の派手さに比べて大した損害ではないと、報告が入っている。
現状、泊地島の狙いは軍医殿ただ一人。当然、軍医殿も分かっていると思うが、笑って誤魔化されても困る。
「ところで上級大尉。救助した船員の様子はどうだい。」
「見ての通りだな。元気な連中は軍医殿の出迎えだ。」
軍医殿と接しているためか、吾輩達はペプーリアの存在に慣らされている。だが、救助した乗員は違うようだ。
ペプーリアに接する機会が少なかったのもあるが、救助した乗員にとってのペプーリアは、軍医殿の二代前の一五代ペプーリア。その方は艦隊総司令で、一般乗員にとっては雲の上の存在だ。
威厳もあり、それがペプーリアの神聖化に拍車をかけたと、何かの話で聞いた事がある。吾輩達にとって馴染み深い軍医殿とは、ある意味対照的だろうか。
「他の連中は。」
「半分が怪我人だな。軽傷者は処置が終了している。」
救助した乗員は、会議室を始め、幾つかの空き部屋で休ませている。今は部下に命じて、情報収集を行わせている。主に旧第四艦隊からはぐれた後の情報だ。
「要手術の重傷者は一二名。今、軍医殿以外の軍医が手術を行っている。」
「それじゃあ、カリスマ医のボクの出番だねぇ。手術台の準備、今すぐしないとね。」
「その件だが、こんな事だろうと思って、現場に準備を命令した。今頃、手術の準備ができていると思うが。」
そんな短い会話を終え医務室に到着する。
重傷者は全員、寝台の上に横たわる。その半分ほどは意識が無く。残りの半分は医務室に入ってきた軍医殿を、注目する。
「それじゃあボクは、重傷者の手術をするよ。チミは救助した乗員の情報をまとめて、チミの父上にでも報告したまえ。」
「靖國大佐か。分かった。そうするとしよう。」
そう言うと、軍医殿は医務室に入っていく。空戦の後だと言うのに元気な事だ。吾輩も軍医もまだ若いが、おそらく気力の問題だろう。
いや、術で使う気力とは別のものかもしれんな。
そんな事を考えていると、ある単語が浮かんできた。
ペプーリアの権威。
ひょっとして軍医殿は、無理に振る舞っているのだろうか。軍医殿は生まれつきのペプーリアでは無い事。それの事実は吾輩が思う以上に、軍医殿を縛っているのだろうか。
そんな事を考えながら、吾輩は救助した乗員がいる会議室に、速足で向かった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は佐官達への報告です。
それではまたお会いしましょう。




