第六話 11 勝負は容易に決する流れだったが
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
艦砲射撃が飛行船団を一斉に襲う。戦艦の主砲が炸裂し、飛行船は炎上する。巡洋艦から放たれる弾幕が、手負いの飛行船に群がり、穢れ払いの火が船体全体を覆う。
浅間中佐は、艦外知覚装置と携帯板型端末を見ながら、機会をうかがっている。
「まもなく敵艦載機の穢れが、対空砲の射程圏内に入ります。」
船務長の報告が届く。浅間中佐は待っていたとばかりに指示を飛ばす。
「銀山以外の巡洋艦の術師は、艦載機の穢れの群れに“穢れ払い”の術を行使。訓練通りにやれ。それと同時に各艦、対空砲撃を開始せよ。戦艦箱舟の岬は飛行船一番に、“穢れ払い”の術を行使せよ。我が艦は二番に行使する。」
浅間中佐の号令と共に、各艦の術師が全力を出して、“穢れ払い”の術を発動させる。穢れ達の動きは鈍重になる。一部の魔法少女やロボットが、青白い炎を上げて燃え上がる。
艦隊が放った“穢れ払い”の術は穢れ達の力を、確実に削っていった。
◇◇◇
吾輩は、一歩引いた形で戦況を眺めている。術の行使が延期になったため、友軍の砲撃音を聞きながら待機している。主砲の砲弾はこまごまとした穢れに向かい、片っ端から薙ぎ払っている。
その一方、船務長と部下達が、端末や観測装置と格闘する。観測員の目視の確認を用いて、敵の情報を集める。
それらの情報は一括して、艦の演算機に集約、選別される。そしてその情報は、第一護衛艦隊に送られる。
とくに銀山の観測装置の規模は、一隻で艦隊に匹敵する物で、観測装置も極上の物で、更には観測結果を精査する装置は巨大だ。それらの装置を、船体に対して巨大な艦橋で保護している。
「艦長。我が艦は“穢れ払い”術を行使しなくても良いのですか。先の戦闘では、靖国大佐が戦場に“穢れ払い”の術を行使しましたが。」
副長を兼任する砲雷長が、意見具申をする。
吾輩は砲雷長に浅間中佐の思惑を、簡潔に説明する。
「砲雷長。それはあまり効果がない。距離による術の効果の減少もあるし、第一術を重ねても、効果は重複しない。靖国大佐の例は、術の完全な上書きだ。靖国大佐の実力だからできる芸当だ。」
「そうだったのですか。失礼しました。」
吾輩は砲雷長の返事を横に、戦局を確認する。
手負いの飛行船は巡洋艦の砲撃を受け、全身が穢れ払いの炎に包まれて、高度を落としている。じきに撃沈するだろう。
一番の飛行船は、戦艦の艦砲射撃を受けて、あちこちが吹き飛んでいる。艦砲射撃を受けた状態で“穢れ払い”の術を受けたためか、艦砲射撃に対する抵抗力が弱まっている。
二番の飛行船は依然健在で、戦艦崎の岬と戦艦箱舟の岬に、穢れた破壊光線で応戦する。その攻撃も“穢れ払い”の術で弱まっているためか、“穢れ除け”と“守り”の術や、戦艦の防御力。そして船体を清めた時の、穢れを祓う力により、被害は軽微にとどまっているようだ。
吾輩は滞空砲撃に目を向ける。
艦砲射撃の直撃を受け、ロボットの腕が吹き飛ぶ。一分の六の巫女の頭が、爆炎に巻き込まれ灰に帰す。一反木綿は爆風の火の粉で穴だらけになり、デフォルメされた生首は爆炎により焼かれ、焼けた饅頭の香りを漂わせる。
今回、“穢れ払い”の術を、大きな塊と群れに分けて行使した。
飛行船に行使した方は問題無い。こまごまとした穢れの群れに対しても、一斉に術を行使していた。
“穢れ払い”の術に限らず、術の重ね掛けは、基本的に効果が薄い。浅間中佐は訓練通りと言った。各艦が群れの一角に術を行使して、群れ全体に術を行使する。そんな訓練をしていたのだろうか。
「艦長。戦艦崎の岬より入電。飛行船一番、三番を撃墜。艦隊上空を通過する二番に対して攻撃せよ、とのことです。」
「了解。全ての主砲。目標、敵飛行船二番」
吾輩は命令を出しながら、艦外知覚装置を用いて戦局を確認する。穢れの大半はあらかた浄化されている。
唯一健在の二番の飛行船が、戦艦岬の岬に対して絨毯爆撃を敢行している。
穢れた爆弾が投下され、派手に爆発している。各艦が戦艦崎の岬の安否を確認する。それに対して、浅間中佐は心配無用と言い放つ。あの爆発の中でも、戦艦崎の岬は健在のようだ。見た目ほどの損害は受けていないようだ。
吾輩は空爆を敢行した飛行船に、落とし前を付けさせるため、精いっぱい理力と気力を込める。そして艦砲の射程外から、穢れ払いの炎を吐きつける。
銀山の煙突に搭載されている摩訶不思議装置から、炎の柱が一瞬立ち上る。
炎の柱が一本の蒼い誘導光線に変化し、飛行船の船底を、船首から船尾にかけて切りつけるように浴びせる。
直後、飛行船の艦尾が爆発する。頑強な飛行船を一撃で撃沈か。これを見ていた他の者の多くが沸き立つ。
だが無論、そんな事は無いはずだ。吾輩はそんな疑問が頭を支配する。
そんな吾輩の疑問に答えるように、飛行船の船尾が激しく燃え上がる。その炎の色は、穢れ払いの炎の蒼ではない。鮮血とどす黒い色が混ざり合う、穢れた炎だった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は飛行船の悪あがきです。
それではまたお会いしましょう。




