第六話 10 巨大武装飛行船「ヒンデンブルク」
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
軍医の戦闘機は高度を上げる。軍医が友軍艦を確認すると、豆粒になるくらい遠くに見えた。
ちょうどその時、巨大な穢れの塊が出現する。どす黒い綿飴のような穢れの塊は、急速に形を変える。円柱に変形したかと思うと、余剰な穢れが剥がれ落ち、中から巨大な飛行船が姿を現した。
飛行船には大小の砲塔が備え付けられて、その全長は三〇〇メートルを超えていた。その姿は一昔前の飛行戦艦。そんな言葉が非常に似合う威容だった。
軍医は音速を超える速度で、急激に高度を上げる。飛行船より高く舞い。その上を飛び越える。飛行船の小口径砲が穢れた破壊光線を吐くが、まるで当たらない。
操縦桿の誘導弾発射ボタンに指をかけながら、軍医は三つの仕事を行う。
「もへ。飛行船のてっぺんに、飛行甲板が付いている。面白い艦影だねぇ。艦載機が発進してくるねェ。」
一つは、敵の戦力情報の送信。たった今言った独り言は、戦艦崎の岬に送信されている。些細な情報でも集まれば、戦局は有利に働く。
「この飛行船の名前。ヒンデンブルクってどうかなぁ。爆発事故を起こした飛行船だけど。」
二つ目は、未確認の穢れに名前を付ける。術を行使する際、対象の名前が分かっていた方が効力は高まる。軍医は飛行船の姿を確認した時に、真っ先にこの名前が思い浮かんだ。
「とりあえず、誘導弾を撃ち込んだらいったん離れるよ。」
軍医は宙返りをして機首を飛行船に向ける。急激に宙返りをしたため、人間にとっては苦痛になる重力加速度が、軍医の体を襲う。
三つめは、二つの会話と並行して、軍医は飛行船の一隻にロックオンを済ませた。あとは誘導弾の発射ボタンを押すだけだ。
「と、いう訳で、ぽちっとな。」
軍医は誘導弾発射ボタンを押して、即座に旋回して回避行動に移る。対艦誘導弾は四発同時に放たれる。放たれた誘導弾は、一直線に飛行船に向かっていく。途中迎撃の砲撃を受けるが、やはりこれも当たらない。
「ほへ。以前より腕は上がったかにゃ。」
軍医はのんきな口調で言うが、内心は快く思っていなかった。
いつぞやの防空火砲より、迎撃の精度が上がっている。そんな気がしたからだ。巨大飛行船の砲門は数が多い。弾幕が多いだけかもしれないと思いながら。
誘導弾は敵防空砲火をすり抜け、問題無く飛行船の艦上部に全弾命中する。
発艦しようとしていた魔法少女と流行のロボットを、青白い穢れ払いの炎が船体ごと焼く。魔法少女は、飛行甲板上でのたうち回り灰になる。流行のロボットは吹き飛ばされ、落下しながら燃え尽きていった。
軍医はさらに挑発するように、飛行船の上を通り過ぎる。敵飛行船の怒りの対空砲火。しかし回避行動する戦闘機に、敵の砲撃は当たらない。そう軍医は思っていた。
だが今度は、軍医の挑発が仇となる。何故なら敵の砲撃が変化したからだ。
戦闘機に細い破壊光線が、戦闘機右翼に一発命中する。砲撃はただの破壊光線ではなかった。細い破壊光線が数十本吐き出される。まるで散弾銃のように、細い破壊光線が面攻撃を行う。
「これ、やばいねぇ。」
軍医はそう言いながら、急いで離脱する。幸い散弾は一度きりで、他の破壊光線も全く当たらなかった。散弾は射程が短いかも。そう考えながら第一護衛艦隊に向かって飛んでいく。
「お客さん三名。連れてきたよ。」
軍医は第一護衛艦隊の上空を、飛び越えながら言う。
「一七代。被弾したが大丈夫かの。」
「もへへ。分かっちゃったんだねぇ。」
軍医は適当に誤魔化そうとしたが、浅間中佐の無言の圧力を感じた。
「大丈夫だよ。この戦闘機は特殊だからね。三インチ砲弾の直撃でも耐えられるよ。」
「そうか。じゃが無理をするでないぞ。」
「確かに油断したね。気をつけるよ。」
軍医は軽く返事をしてもへへと笑う。それに対して、浅間中佐は真剣な表情だ。
散弾の一撃。あれは当たらない目標に対し、工夫した結果だ。
穢れが創意工夫することはない。これは穢れを操っている泊地島が、学習しているのではないか。
軍医の囮役は、抜群の効果を示しているように思えた。しかしこれが仇にならないか。浅間中佐は僅かな不安を自覚していた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は飛行船艦隊対第一護衛艦隊の海戦が始まります。
それではまたお会いしましょう。




