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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第一話 靖國帰還艦隊
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第一話 5 帰還艦隊の概要

 当小説はフィクションであり、人物、団体、人種は全て架空の物で、実在する物とは一切関係ありません。


この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。


 戦闘終了後、靖國(やすくに)大佐は友軍艦艇を、思考無線越しで確認している。後続の友軍艦艇が、順次忘却の川に侵入してくる。


 艦の損傷はほとんどない。念力防壁に攻撃を吸収したため、現在念動防壁の発生装置の点検を行っている。


「帰還が始まって早々、初陣になったのは意外だったな。」


「ですが、この戦艦の信頼性について、問題無い事が証明されました。」


 旗艦を始めとする、泊地島(はくちとう)で建造された艦艇は、双胴(そうどう)艦艇、すなわち船体を二つ接合した艦影をしている。これは何も伊達や酔狂で、そのような船体にしたわけではなかった。


 本国との接触始まる以前から、双胴船は作られていた。理由は泊地島の呪縛が強かったからである。普通の船体の場合、陸地から約一〇〇メートルも離れる事ができない。


 本国に帰還するにあたって、本国で建造された艦は、それ自体が本国との繋がりがある。そのためか泊地島を離れて、簡単に忘却の川に侵入する事ができる。本国で作られた艦は、それだけで帰還に適した艦と言える。


 しかし、泊地島で建造された艦は、泊地島との(つな)がりが強い。泊地島の呪縛から逃れるために、大掛かりな仕掛けが必要だった。いくつかの試験で単胴艦艇だと、泊地島の呪縛から逃れられない事が分かった。


 そしてその答えが、多胴艦艇だった。例えるなら、一人で歩いている時に片足が引きずり込まれると、離脱に困難になる。しかし二人一組なら、足を(つか)まれていない者が助ける事で、呪縛から逃れる事ができる。


 そのため、泊地島で作られた艦艇は、漁船から戦艦まで全て多胴艦艇だ。


 もう一つ、泊地島で建造された艦の特徴は、黄金石炭鋼(おうごんせきたんこう)で作られた艦である点だ。


 総じて紅碧(べにみどり)の船体と、淺緑(あさみどり)の甲板を有している。これは材質によるものである。


 黄金石炭鋼は靖國上級大尉が発明した物で、本人に聞いた方が早い。一言で言うと木材を材料にした物質だった。鋼より硬く木材のように軽い。おまけに不燃材だ。簡単な霊薬と術が付与された工具を用いる事で、加工も容易になる。


 帰還艦隊の艦艇、九〇隻中五四隻が、泊地島で建造された。木材が材料でなければ、これほどの艦隊は作れなかっただろう。


「全艦隊、忘却の川に侵入完了。」


 靖國大佐は唯乃(ただの)副官の報告で現実に帰る。


「陣形の配置は…まだ済んでいないな。航行中で良いから、各々配置に就くように伝えておいてくれ。」


「了解しました。」


 靖國大佐は目を閉じて、深く深呼吸する。


「それともう一つ。先ほどの(けが)れの出所を調べてくれ。判る範囲で良い。」



◇◇◇



 さて、艦隊編成について少し紹介しよう。


 帰還艦隊は総数九〇隻。いや、天の火(あまのひ)を入れると、九一隻。それら艦船は役割の分割のため、帰還艦隊を七個の分艦隊に分けた。


 最初の三艦隊は探査艦隊だ。艦隊と名前が付いているが、二隻一組で行動させている。巡洋艦の探査装備と十分な航行能力を用いて、航路上の探査と索敵を行う。艦隊の目となり、重要な任務を帯びた艦隊である。


 また、遭遇した敵が対応可能な戦力だった場合、露払いを行う任務もあり、威力偵察を行うだけの戦力を備えている。


 四つ目の艦隊は第一護衛艦隊だ。崎の岬(さきのみさき)型戦艦を旗艦と、戦艦一隻、巡洋艦四隻からの主力艦隊だ。


 帰還艦隊の中で最強の打撃力を誇る、虎の子の戦力だ。重要な局面で投入する事が予想される。


 五つ目の艦隊は第二護衛艦隊だ。峯島(みねしま)型揚陸艦を旗艦に、巡洋艦一隻、駆逐艦七隻からなる打撃艦隊だ。探査艦隊では対応できない戦力に対応したり、有事の際、輸送艦艦隊の護衛に回ったりと、任務は多岐にわたる。


 そして念のため揚陸艦には、僅かだが航空戦力を搭載している。小型機だが、何かの役に立つかもしれないとの判断だ。


 六つ目は輸送艦艦隊だ。二〇隻の輸送艦を中心に、四隻の工作艦と八隻の駆逐艦、小型艦艇四〇隻からなる、合計七二隻の大艦隊だ。


 この艦隊は非戦闘員を乗せた輸送艦と、それを護衛する戦力から成り立っている。我々にとって、最重要防御目標と言った所だ。いかに輸送艦の被害を抑えるかが、帰還作戦の成否にかかわると言っても過言ではない。


 そして最後に、指令直属(ちょくぞく)の直衛艦隊だ。


 艦隊とは名ばかりで、双胴戦艦こと希望一隻のみだ。希望は様々な状況に対応できる艦であるのと同時に、私直属の艦という事で、自由な采配が採れる艦だからである。


 単艦で艦隊にして、自由な行動をとれるようにしたと言った時、靖國上級大尉が腰の軽い司令官だと、小言を漏らしていた。


「艦長。」


 唯乃副長の呼び声に、靖國大佐は現実に引き戻される。唯乃副長が資料をまとめてきたのだ。


「どうしたのだ。副長。」


「穢れの発生源が分かりました。」


「ずいぶん早いな。」


 靖國大佐は腕時計を確認する。時計は五分しか経っていない。対艦時間では三十分くらい経ったのかと思った。


「他の艦からの観測結果です。穢れの発生源は、泊地島です。」


「なるほど。そうなると、先ほどの穢れた幽霊船は、泊地島の記憶という事か。」


 確か神坐(かみざ)型巡洋艦は、本国から送られてきた巡洋艦だ。帰還作戦用に偽装で自沈処分した艦で、それも一八年ほど前の話だった。


「そういう物でしょうか。」


「分からない。だがこの仮説なら、友軍に化けていた事に説明が付く。」


 幽霊船には色々ある、必ず手本となる物が存在する。それは実在する船だけでなく、空想の産物、例えば映画などの映像作品に出てくるものが、幽霊船として顕在化する事もある。過去に泊地島で確認された物では、アニメに出てきた宇宙巡洋艦もあった。


「泊地島の穢れ溜まり騒ぎ。あれが関係するのでしょうか。」


 半年ほど前に泊地島で起きた事件だ。穢れ()まりが多数発覚した事で、泊地島に多くの穢れが溜まっているのを確認した。結局その穢れは除去が進まないまま、今に至る。


「そうかもしれない。泊地島が何らかの関係があるのは、間違いないだろう。」


 靖國大佐は()に落ちなかった。泊地島が発生源だという点ではない。帰還が開始された直後だという時期についてだ。


 穢れが溜まっていたのだから、帰還が開始される前に確認されてもおかしくない。そう靖國大佐は思った。漠然とした言い方だが、頃合いが良すぎるように感じていた。


 靖國大佐は歯の間に魚の骨が挟まったような感覚を覚えた。雑念を払おうと深呼吸しても残るもどかしさに、僅かな苛立ちを感じた。

 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は場面が変わり、軍医と靖國上級大尉の会話です。


 それではまたお会いしましょう。

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