第六話 7 友軍への援護射撃
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
場面は変わり、第一護衛艦隊。その旗艦戦艦崎の岬の戦闘指揮所で、浅間中佐は艦長席に座る。その存在感は薄く、艦隊司令が鎮座しているというよりは、好々爺が日向ぼっこをしているという表現があっている。
「ペプーリア様から入電。駆逐艦と接触。探査の結果友軍と判明。靖國上級大尉を派遣しました。ペプーリア様は、そのまま敵空母の撃沈に向かうとのことです。」
通信士の報告を受け、浅間中佐は目を細めて遠くを見る仕草をする。
「そうかの。一七代の判断を尊重するかの。」
浅間中佐は髭をいじる。その頭の中では、二手三手先を見据えて思考を巡らせている。
「我が艦隊はそのまま前進じゃ。」
命令を下しながら、思考無線で整理された情報を確認する。
「ふむ。前方一時方向に友軍艦に向かう穢れがおるのぉ。船務長。一七代の動きはどうじゃ。」
「ペプーリア様は進行上の穢れを避けて敵空母に向かっています。」
「そうかの。」
そう言うと浅間中佐は黙る。周りの視線があれば、居眠りをしたようにさえ見える。もちろん居眠りなどせず、艦隊の行動を思案しているのは、言うまでもない。
「船務長。侵入してくる穢れじゃが、侵入してくる方角と距離は分かるかの。」
「はい。観測結果、本艦一時方向。距離、約三二キロ。」
浅間中佐の目が開く。先ほどまでの居眠り老人の仕草とは違い、その眼は鋭く、間違っても好々爺のそれではない。
「戦艦の艦砲が届くかの。戦艦は砲撃戦用意。目標、一時方向の穢れの群れ。」
「了解。砲撃戦用意。目標一時方向の穢れ。穢れ払いの曳光弾、装填済みです。」
「砲撃戦開始の後、面舵。三時方向に転舵せよ。そのまま侵入してくる穢れに対応する。」
浅間中佐は単純明快だった。友軍艦に向かう穢れに打撃を与えて、すぐさま増援に備える。軍医が初期配置の空母に向かう以上、敵の増援に備えるべき。そう考えたからだ。
「了解しました。砲撃開始後に三時方向に転舵します。」
「通信士。銀山に連絡。侵入する穢れの観測を行うよう注意を促せ。データリンクも忘れるでないぞ。」
「了解しました。」
「それと肝心な事じゃ。銀山は友軍艦の同胞を回収後、戦列に加わるよう伝えるのじゃ。」
「了解しました。」
浅間中佐は通信士のやり取りを見て、何かを思い出した表情をする。
通信士が銀山とのやり取りする間、髭をいじりながら思案する。そして通信士が通信を終えたのを見計らって、通信士の元に歩み寄る。
「通信士。すまぬが友軍の艦長に繋げてくれ。」
「了解しました。」
◇◇◇
「艦長殿。こちら帰還艦隊第一護衛艦隊司令、浅間 阪文中佐だ。艦長殿。今こちらの巡洋艦が救援に向かっておる。巡洋艦が到着したら、総員退艦をするのじゃ。」
「浅間中佐。我が艦はまだ戦えます。艦を放棄するには至りません。」
浅間中佐はため息をつく。戦意があるのは良いが、もっと重大な問題が目の前にあったからだ。浅間中佐は諭すように、友軍の艦長を説得する。
「そよ風の艦長。結論から言うぞ。我が艦隊には油が無い。油の補給ができぬから、駆逐艦はじきに動かなくなる。動かなくなった艦を曳航するほど、我が艦隊には余裕がない。分かるな。もう少しで足手まといになるわけじゃ。」
帰還艦隊の動力はウラン。そのため旧式艦の燃料である重油は、一切積んでいない。
そして浅間中佐の腹の底には、別の懸念もあった。旧式の装備では誘導弾に対応できない。
とは言っても、音より早く飛ぶ魚雷の話をしても、実感が湧かないかもしれない。そのため、もっとわかりやすい燃料の話で説得を試みた。
「もう一度言うぞ。動けない艦を曳航できない。燃料不足出で足が遅くなっておるじゃろう。食料を抱えて、すぐにでも退艦準備をするのじゃ。」
浅間中佐は内心不安だった。戦意過剰の人物だとか、かえって足手まといになるのが目に見えているからだ。増援の穢れ相手に、旧式艦では荷が重いからだ。
「了解した。退艦の準備を進める。」
「こちらの巡洋艦もじきに到着する。それまで持ちこたえるのじゃぞ。」
「了解した。貴艦隊の救援に感謝する。」
通信を終えた直後、砲雷長から報告が入る。
「艦長。敵穢れを主砲射程圏内に捕らえました。標準よし。」
「航海長。砲撃後取り舵。三時の方向に向かう。」
そこまで言うと一拍置く。浅間中佐は軽く深呼吸をして、気合を入れて命令を下す。
「主砲一番、二番。撃て。」
戦艦崎の岬は主砲を発射する。爆音が響き砲弾が穢れの群れに向かって、放物円を描き飛んでいき、群れの中で爆裂する。
旗艦の主砲を合図に、もう一隻の戦艦の箱舟の岬も主砲の一斉射を行う。砲弾の群れは穢れを焼けつくさんと、青白い火球に姿を変える。
続けて転舵。各艦は旗艦崎の岬に続いて三時方向に向かう。その間も砲撃が続く。
浅間中佐は艦外知覚装置で状況を確認する。
直掩機のレシプロ機を爆風で吹き飛ばす。内火艇は乗っている死霊共々、瞬時に青白い炎の塊にする。海坊主に穢れ払いの火が全身に燃え移り、苦しみ悶えている。姿は見えないが、牛鬼の断末魔も聞こえてきた。
一方的な艦砲射撃。穢れの群れの大部分を浄化され、とりあえずの脅威は去った。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は再び場面が変わり、軍医と靖國上級大尉の視点になります。
それではまたお会いしましょう。




