第六話 5 聞こえてきたのは救援信号
この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。
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風と津波が治まり前方の光が消えてく。観測装置の数値が、閉じた世界の時間の流れが通常に戻った事を示す。
「“結界破り”の術により、閉じた世界の空間の歪みが消えました。」
「第一護衛艦隊、旗艦崎の岬より入電。すぐに突入を開始せよ。」
船務長と通信士の報告が立て続けに入る。
「了解した。これより第一護衛艦隊と共に、閉じた世界に侵入する。総員。閉じた世界に入ったら戦闘開始だ。何時でも戦闘できるように、心しておくように。」
吾輩は部下に発破をかけると艦内に緊張が走る。艦が閉じた世界に近づくにつれて、艦が活性化し戦闘態勢が整う。
「閉じた世界に入ったら戦闘開始だね。そう言えば、閉じた世界から発信されていた信号、どうなっているかなぁ。」
「現時点では分かりません。結界破りの理力が、電磁波を邪魔しているようです。」
軍医殿の質問に船務長が答える。吾輩は対峙する穢れに集中して、信号についてすっかり頭から抜けていた。まあ、吾輩は艦の指揮に集中しよう。それ以外、あるいはそれ以上の事は、艦隊司令の軍医殿が考える事だ。
「まもなく閉じた世界に侵入します。」
船務長がそう言うとすぐに、眩暈が襲う。無重力のような浮遊感も感じ、頭がぐるぐる回る錯覚を覚える。世界の境界線をまたいだ証拠だ。
吾輩は艦外知覚装置を使って、閉じた世界の様子を確認する。
時刻は昼。太陽光が力強く降り注ぎ、島もなく海原だけが広がる。海と空だけの寂しい世界だ。吾輩は穢れの反応を感じ取り、その方向に意識を集中しようとした時、通信士から報告が入る。
「艦長。救援信号を確認しました。友軍からの救援信号です。」
「友軍だと。本国から派遣された艦がいるのか。」
吾輩は意外な報告に驚いた。本国から来た部隊だろうか。本国から兵糧の補給を受ける手はずになっているが、補給はまだ先の話だったはずだ。予定が繰り上がったのだろうか。
「もへ。このタイミングで、補給部隊と接触する予定は無かったよ。定時連絡でも無かったみたいだよ。」
軍医殿は思考無線で吾輩の憶測を否定する。吾輩は司令官席を見ると、軍医殿はそこにはいなかった。
戦闘指揮所の扉が閉じる音が響く。軍医殿は何所に行くというのだろうか。
「いえ、補給部隊ではありません。信号の発信源は黄泉軍第四艦隊、駆逐艦『そよ風』を名乗っています。」
吾輩は耳を疑った。頭の中を整理しようとした時に、更に報告が続いた。
「本艦は燃料残り僅か。救援を求むと言っています。位置は本艦から四〇キロ前方です。」
吾輩の頭は混乱していたが、混乱を鎮めるため、簡単に頭の中を整理する。
黄泉軍第四艦隊。これは一言で言えば、我々泊地島の島民の祖先である。泊地島の時間にして二二〇年、本国の時間で七六年前の話だ。
そして今、我々は本国に帰還の途中だ。その一方で、第四艦隊を名乗る者が、救援を求めている。何かの罠だと思うのが妥当だろう。
「艦長。浅間中佐からの指令です。信号の発信源を友軍と断定し、救援に向かうという事です。」
「何だと。本当か。」
上からの報告は、吾輩の懸念と相反する指示だった。再び混乱しそうな頭を何とかなだめながら、続く通信士の報告を聞く。
「はい。泊地島に漂着する途中で、はぐれた友軍だそうです。生命力観測でも、存命中の同胞を確認できました。銀山は救援に向かいつつ、その存在を確認するよう指示が出ています。」
吾輩は切り替えている途中の頭で、何とか返答を口にする。
「通信士。了解したと返答してくれ。」
吾輩はそう言うと、通信士の返事を聞かず、深呼吸をして精神集中する。雑念を払い思考を鮮明にする。そして思考無線を艦内に向け、船員一人一人に聞こえるように、はっきりとした口調で命令を発する。
「各員。これから友軍の救援に向かう。本艦を友軍艦の右舷に着ける。砲雷科の内、左舷の主砲、副砲の担当の者は救援に回れ。後部開口部の内火艇を使って、乗員の救護に向かえ。右舷砲雷科の人員は、万が一位に備えて、臨戦状態で待機。機関科からも一〇名ほど人員を割いてくれ。白兵戦要員を編成して救援の護衛にあたれ。衛生科は医療の準備をしてくれ。補給科も衛生課の手伝いだ。観測班は引き続き穢れの観測を行う。各部署、各々の務めを全うせよ。」
吾輩はそこまで言うと思考無線を切る。そして艦長席の後ろにある盾を背負って、一番重要な命令を航海長と砲雷長に下す。
「機関全速。最大船速で救援に向かう。吾輩も救援を指揮する。艦の指揮は副官である砲雷長に任せる。」
吾輩は命令を下す。砲雷長の返事を発した時、軍医殿の思考無線がそれを遮った。
「もへへ。上級大尉。聞こえている。こっちにおいでよ。」
「軍医殿。どこにいるのだ。」
吾輩は鉞を片手に持ちなら返答をする。艦の中で振り回すのには少し長い、ヒヒイロカネ合金の鉞だ。
「左舷艦橋付近。救援に向かうんでしょ。第一六代の戦闘機でひとっ飛びだよ。」
なるほどな。軍医殿の戦闘機なら、短時間で友軍と接触できるか。
「だが軍医殿。独断行動が過ぎるぞ。浅間中佐の許可の指示が来ていないだろう。」
「浅間中佐には許可はとったよ。好きにやっていいってさ。」
何時の間に許可を取ったのか。行動が速い事だ。吾輩はそう思いながら、急いで戦闘指揮所を後にする。
「他の艦は銀山の援護に向かうみたいだね。ところで上級大尉。」
そこまで言うと軍医殿の言葉が止まる。その時吾輩は、全速力で階段を駆け上がる。
「穢れは友軍艦艇に向かっているよ。現場でチャンバラする人が必要じゃない。」
「軍医殿。そこまで考えていたのか。」
軍医殿は頭が回るのか、二手三手先を読んでいるように思えた。
「どうだろうね。本物なら救援だし、偽物なら対艦ミサイルで一発だよ。」
「なるほどな。どっちに転んでも、良い選択なわけだな。」
吾輩は外へと続く扉を、息を切らしながら開ける。そこには藍と碧の戦闘機が、空中で静止して待機していた。ちなみに天蓋は開いている。
「もへへ。意外と早かったねぇ。後部座席が空いているから、そこに座りなよ。」
吾輩は返答代わりに“飛翔”の術を行使する。体はふわりと浮かび、滑るように後部座席に座る。
「上級大尉を確保。これから友軍艦に向かうよ。」
「了解した。さっそく向かってくれ。」
吾輩の返事を言うとすぐに、強い加速が体を襲う。戦闘機は一気に高度を上げ、力強く進みだした。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけたのであれば、幸いです。
次回は救援に向かう途中。戦闘機の中での会話になります。
それではまたお会いしましょう。




