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黄泉軍語り 帰還の導 艦長の航海日誌  作者: 八城 曽根康
第六話 過去との遭遇
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第六話 4 “結界破り”の術の行使

この作品は前作「黄泉軍語り 帰還の導 術使いの弟子(https://ncode.syosetu.com/n2119he/)」の続編です。


この作品は「カクヨム(https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860866373063 )」に重複投稿しています。

唯乃(ただの)副長。準備はできているな。」


 靖國(やすくに)大佐は似つかわしくない外套姿で甲板に出る。


「はい。悪魔機関は臨界状態です。何時でも“結界破り”の術の行使ができます。」


 双胴戦艦希望は、その心臓を全力で稼働させている。


 悪魔機関を構成するデーモンコアは、臨界状態になっている。


 大量の熱と人間には致死量の放射線を放つ。それらの破滅的な力を、理力工学を用いて受け止める。熱と放射線は電力と理力に変換される。そして今、その力は一つの術を行使するために蓄えられている。


 靖國大佐は左右の艦首の付け根まで歩いて行く。付け根に着くと、胡坐(あぐら)をかいて座る。


「唯乃副長。艦の理力配分は、指示したとおりにやってくれ。」


「了解しました。現在、理力の充填率は八割です。」


「了解。予定通りだな。」


 靖國大佐は目を閉じて、深く深呼吸をする。靖國大佐の理力が体の表面から消え、体内に押し込められる。思考を一旦停止させ、軽い瞑想状態にする。


「これより、“結界破り”の術を行使する。」


 そう言うと、靖國大佐は目をゆっくりと開いた。



◇◇◇



 悪趣味な錫杖(しゃくじょう)を床に置くと、袋から練り物を取り出す。理力(りりょく)から体を守る練り物だ。そして地面に曲線を描き始める。曲線は靖國大佐が内側になるように、ぐるりと円を描く。

 

 円を描き終えると丸薬を取り出す。破邪の力を強める丸薬だ。ゴルフボール大の丸薬が三つ。そのうちの一つを、“理力の炎”を行使する。丸薬は全体をゆっくりと燃やしながら、お香のような芳香を放つ。


 次に巻物を開く。そして“結界破り”の術を行使しながら、巻物を黙読する。


 すると巻物の文字が、淡く光り出し消えていく。文字が消えていくとともに、双胴戦艦希望が輝きだす。輝きが増すと、戦艦希望の理力が徐々に減っていく。


 靖國大佐は巻物を黙読しながら、丸薬を次々と“理力の炎”で燃やす。


 丸薬が燃え尽き、巻物を読み終える。白紙になった巻物も“理力の炎”で燃やし、灰に変える。


 術は艦をお椀状に包んでいる。破邪を退け、あるべきものをあるべき姿に戻す力だ。これだけでも、十分に“結界破り”の術として機能する。


 靖國大佐は干し肉を取り出す。干し肉は大き目で、一口、二口では食べれない大きさだ。


 靖國大佐が干し肉を食べていくと、周囲の理力が劇的に変質する。理力をかき乱す干し肉の性質が、“結界破り”の術の性質を、大きく不安定な物に変える。


 理力を回復させる霊薬、自分の血で文字が書かれたお札、そして黒欲火薬とフリントロックガンを取り出す。


 袋を無造作に逆さまにする。その他いくつかの秘薬が無造作に転がる。それらの秘薬をひとまとめにして、“理力の炎”でまとめて燃やす。術の理力は不安定な物から、粘質のある流体のような性質に変質し、多少安定した物に変化する。


 フリントロックガンを手に取ると、銃口に黒欲火薬を入れる。次にお札を筒状に丸めて、弾丸の代わりに銃口から詰め込む。撃鉄を起こして、ハーフポジションと呼ばれる位置にする。火皿に点火用の黒色火薬を入れる。火蓋(ひぶた)をとじて撃鉄をさらに起こす。後は引き金を引けば、弾丸が発射する。最も弾丸の代わりにお札が詰まっているのだが。


 靖國大佐は利き手で銃を構える。銃口を艦の前方に向ける。前方には問題の閉じた世界が、立ちはだかっている。


 靖國大佐は逆手で手を合わせる動作をする。すると艦を包んでいた理力は、靖國大佐に吸い込まれる。艦の理力が一気に減少し、艦の非常用電源が作動する。


 靖國大佐は銃の引き金を引く。撃鉄が降り、火打石が火蓋を(こす)り火花を起こす。


 火花が点火薬に火をつける。一瞬の間をおいて、点火薬の火が銃身の火薬に届き、銃身内の火薬を爆発させる。


 その時、丸められたお札が燃えて光り出す。そして光は、唯一の出口である銃口に向かって一気に噴き出す。


 銃口からは細い一本の光が撃ち出される。とれも頼りない光線が、銃の反動に押されて、銃弾よりも早く虚空に飛ぶ。


 その直後。前方の閉じた世界から、強い衝撃が発生する。戦艦希望は大きく揺れ、靖國大佐は危うく倒れそうになる。


 閉じた世界は輝きだすと、強い風を生む。風は大きな波を起こし帰還艦隊の船を、一つの例外も無く揺らす。


 大きく(きし)む音が辺りに響く。そして音に乗って、不愉快な眩暈(めまい)と浮遊感が帰還艦隊の乗員を襲う。閉じた世界に侵入した時の独特のものだ。


 風が治まると、そこには夕焼けの水面がうつる、忘却の川に戻った。まるで何事も無かったように波は収まり、水面は鏡のように静かになる。


“結界破り”の術が終了して、閉じた世界は正常な時空を取り戻した。


「靖國大佐お疲れ様です。閉じた世界の不安定要素は消えました。」


「了解した。第一護衛艦隊を、手はず通りに突入させてくれ。」


 靖國大佐はそう言うと、理力回復薬の蓋を開けて、一口飲む。


 理力回復薬はほんのりと苦いが、靖國大佐の乾いた喉と理力を大いに(うるお)した。



 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


 楽しんでいただけたのであれば、幸いです。


 次回は居るはずのない友軍。その救難信号を受信します。


 私用のため、次回投稿は9月22日に投稿します。


 それではまたお会いしましょう。

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